その52

キルトログ、バルクルム砂丘で魚介類を狩る

 気分転換と実地調査を兼ねて、ラテーヌ高原へ行ってみることにした。同地はバルクルム砂丘の北、サンドリアに近い方にあるので、少々遠出になるけれども、まだ見ぬ土地に足を踏み入れる楽しさを考えれば何でもない。敵の強さはタロンギとたいして変わらぬはずなので、必要があれば鍛錬を重ねることもできるだろう。

 マウラに入り、入箔していた船に乗った直後、私をパーティに誘う声がした。マウラやセルビナの港町では、レベル15,16辺りの戦士は引っ張りだこである。バストゥークにいた頃はそうでもなかったが、帰国ののちタロンギで戦っていると、たいていダルメル狩りやブブリム出撃の誘いをもらった。ウィンダスには魔道士が多いから、挑発の出来る戦士の需要が余計に高まっていたものだろう。
 ただこの時私は既に船倉にいたから、どうしても色よい返事をするわけにはいかなかったのである。


 セルビナに下りたら、こちらでも求人の大声がしている。「15,6レベルの挑発が出来る人材」は、一緒に砂丘での狩りに参加しませんか、というのである。
 目的地のある私は敢えて黙っていたが、直接に話しかけられたので、ごまかすわけにはいかなくなった。とりあえずパーティ構成を尋ねたら――別に用事のある場合、安請け合いはしないでおくべきだ――
ナイトが二人いる、という話だったので、経験も豊富だろうと判断し、承知することにした。

 皆が集まっている街の入り口に出向いた。私を呼んだのは
Bandersnatch(バンダースナッチ)というエルヴァーン(ナイト16、暗黒騎士8)である。もう一人のナイトもエルヴァーンで、こちらのZoddo(ゾッド)はレベル15、7レベル戦士のサポートがあるから、私同様挑発役なのだろう(注1)

 お互いにどういう知り合いなのかわからないが、残りの3人はみんなタルタルだった。

 
Prospero(プロスペロー)。白16、黒7。パーティのリーダー。
 
Spur(シュプール)。白17、黒8。
 
Leen(リーン)。黒16、白8。

 回復役が3人もいるのは何とも心強い限りである。

 このメンバーは予想以上に統制がとれているようだ。リーダーが砂丘の座標を一つ言うなり散会したのである。どうやら各自獣人などに見つからぬよう、その地点で再集合するということらしい。もしかしたら、砂丘で戦い慣れた面々にはお馴染みの場所なのかもしれないが、当然私はそんな知識がないから、地図を開き開きしているうちにぶざまにも出遅れてしまった。


 集まった場所は砂地が覗くばかりで、特別何か目印があるわけではなかった。ただモンスター、とりわけゴブリンが徘徊するポイントからお互いに離れた地点であって、割りに安心して回復に座りこむことができる。紹介したいのはやまやまだが、彼らの発見によるものなのかもしれぬことを考えて、敢えてここではこう述べるだけに留めておくことにする。

 釣り役はBandersnatchが行った。彼が手ごろな敵を引っ張ってくる。Zoddoが威勢のいいかけ声とともに引きつける。敵の攻撃は前衛の3人に均等に行くのが望ましいから、私も頃合いを見はからって挑発し、物理攻撃を耐えに耐えたところで、3人による連携を繋いでいく。
 最初のうちは
ゴブリン・リーチャーなどを相手にしていたが、とても強い敵を総力を挙げて叩くと、回復の時間がもったいないという見地から、それよりいちランク落ちる敵に標的を切り替えた。犠牲になったのはカニ、スニッパーである。さすがに甲羅が固いので、とっておきのブラスバグナウで殴りつけても、微々たるダメージしか与えることが出来ない。Bandersnatchの放つファストブレード、Zoddoの放つ炎の剣技レッドロータス、私の放つコンボ。綺麗に連携が決まっても、体力の3分の1がようやく減るばかりである。カニどもを続けざまに倒すにあたっては、Leenの攻撃魔法――エアロなど――もかなり威力を発揮することとなった。

 スニッパーを標的にした理由は、この面々にとっては大した強さではないので、実質5人で戦えるという点にあった。白魔道士の二人が、入れかわり立ちかわり回復役に回るのだ。一人が戦闘に加わるあいだ、一人が休んでMPを回復する。次の戦闘ではこの逆を行う。いつかそれが途切れるのではないかとひそかに心配していたが、手馴れた二人はこのローテーションを何の問題もなくこなしていくのであった。

 余談だが、彼らはパーティから「双子」と親しみを込めて呼ばれた。双子とは同じ親から同時に生まれた二人のことを指すが、容姿や性格の傾向が一致することが多いので、「互いに酷似しているもの」の暗喩としても使われる(注2)。彼らは本当のきょうだいではないが、タルタルがみな同じように見える私でも、その相似性は際立っていた。なるほど双子と呼ばれる理由がよくわかる(注3)

 優秀な仲間のおかげで、スニッパーは次々と砂丘の砂に沈んだのだが、いろんな品物を死に際に落としていった。通称
「陸がにのふんどし」と呼ばれる、腹のやわらかい部分などがある。肉ならともかく、毒にも薬にもならない、けったいなアイテムだと思ったが、皆が大事にしておけというので取っておくことにした。私以外の5人は全員そんなものに用事はないようである。

とんぼ 間違って相手にした巨大トンボ、ダムセルフライ。強力な毒の攻撃をしてくる

 慣れというのは恐ろしいものだ。カニに手ごたえがなくなって来て、もう少し強いのを狩ろうということになった。誰かがすかさず魚を退治しようと叫び、無知な私を除く全員が賛同して浜へと走っていく。

 遥かな水平線を望む浜は造形的な美しさだった。エメラルド色の沖から波が寄せ、きめこまやかに砂地の表面を洗い引く。高足の樹木が幾本か、波打ち際に立つのを見て驚嘆した。植物の死に絶えたとおぼしき砂地においても、自然はしたたかに、常に生きのびる道を見つけようとしている。

 浜には冒険者の姿が多く見えた。釣り糸を垂らす幾人かの太公望を除けば、みな
ビーチ・プギルを狩るのに忙しいようすだ。おそらく縄張り意識の強い魚なのだろう、この浜魚は一匹が敵と戦っていても互いにリンクすることはないので、鍛錬を望む猛者たちの格好の餌食になっている。むろん一筋縄でいく相手ではないのは言うまでもない。なめてかかったら、孤立無援の魚であるが故の強さを思い知らされ、波打ち際に死体を転がすはめになる。

 確かにビーチ・プギルは強力であった。白魔道士が一人づつ休憩する余裕などない。同種の中でも少し弱いのが私たちの格好の敵であって、ちょっとでも活きのいいのになると手が出ないこともあった。そういう微妙な個体差は実際に鱗を刺してみてからわかるのである。先ほどあれだけ完璧に立ち回った我々も、算を乱して逃げる場面が幾度かあった。浜魚は水の上だけに留まらず、陸までもしつこく追いかけてくるので、セルビナへ逃げる途中で、まるで目的地に届かないまま、体力を削られ続けて死に到る者も出てきた。

 中でもとんでもない魚が一匹いたのを覚えている。Bandersnatchがやられそうになって、Prosperoの助けを呼ぶ悲鳴に呼応した周囲の人々が、よってたかって――我々も加わって――これを殴り、蹴り、刺し、切り、叩いたのだが、おそろしく活力に満ち、どんな攻撃を受けてもひるむ様子がない。さすがに多勢に無勢で最後は仕留められたが、周辺から回復魔法をかけてくれる人数を含めたら、これと戦っていたのは10人を下らなかったのではないかと思う。それでもかろうじて仕留められたという魚のタフさに呆れるとともに、バルクルムの生き物の恐ろしさにまた気を引き締める思いをするのであった。

ビーチ バルクルム砂丘の海岸線

 仲間が二人ほど犠牲になった上で、こんなことを言うのは恐縮ではあるが、私自身は例の、盾役になりきれなくて生命を落とすという、悪い思い出を重ねることがなくてほっとしていた。気づけば16レベル目前のところまで経験を積んでいる。ここまでいかに効率よく戦っていたかの証である。

 戦闘に一息ついたところで、街に帰ってパーティは解散になった。ラテーヌへ出向く予定を違えての参加ではあったが、この仲間と過ごせる時間があってよかったと心底思い、感謝の意を伝えた。それより先は再び孤独の旅となる。セルビナを出でて北東にひたすら上がるのである。
 ラテーヌ高原はヴァナ・ディール随一の景勝の地と聞いている。新しい景色、新しい敵、仲間。そこで次に私を待ち受けているのは、果たして何なのであろうか。

注1
 ナイトは挑発のスキルを持たないので、前衛で盾になる場合、サポートジョブに5レベル以上の戦士をつけるのが一般的です。

注2
 「家族という観念のないガルカにとっては、双子などの特殊な関係に起こりうる特別な感情――正と負を問わず――など理解できるはずもない。そもそも我々には親愛の情以外に個人同士を結ぶきずなはないのである。
 そのせいか、ガルカは本質的にものごとを二元論的にとらえやすいようだ。単純明快を好む性格的特徴は鉱山区のガルカによく表れている。種族的典型であるこの種の気質は、思弁の余地のない、厳しい生活環境によって強く育まれる。だが万が一ぬるま湯で育った場合、変に理屈っぽいのが生まれることがある。例えばこんな形而上学的論説をこねている私のような……」
(Kiltrog談)

注3
 「ヴァナ・ディール人について研究する最新の人類形質学者の珍説がある。顔というのはふつう千差万別に思えるものだが、5種の人類のうち、同種同性を条件づければ、顔のパターンは全部でわずか8種類しかないのだと言う。髪の色を考慮してもせいぜいその倍に過ぎないのだとか。そうなれば、個人を真に特徴づけるものは、体格――背が高い、低い、中背のいずれか――とか、名前かしかあり得ない。このような馬鹿げた説はとうてい信じるに足りないものである」
(Kiltrog談)

(02.09.02)
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