その56

キルトログ、野良ゴブリンに気にいられる
 
 ウィンダスへ戻ってきた私は、以来わき目もふらず鍛錬の日々を過ごすことになった。

 これは誇張でも何でもない。タロンギ峡谷へ出かけて、少しでも相手になりそうなのを見つけると、とにかく喧嘩をふっかけるのである。それはララブや
ピグマイオイ(注1)に始まって、上はヤグード、ゴブリンから、時にはダルメルに到った。最初に狩りをしたときには圧倒された動物だが、成長というのは恐ろしいもので、一対一なら何とか倒せるようになったのである。弱い敵とは連戦が効くので、休みながら強敵を一匹ずつ倒すより効率のよいことが多い。根気が必要だが、経験を確実に積んでいくことが結局上達への近道だ、と私は思う。

 私は17レベルになるまでのあいだ、ブブリムで例の失神を起こすことを恐れて、パーティの誘いがあっても容易には乗らなかった。一度などどうしても戦士がいないので協力してくれと懇願されたが、戦闘中に「落ちて」しまう方がどう考えても迷惑であるので、丁重にその旨を伝えてお断りした。言い訳のように思われるかもしれないが、何の誇張もない事実だから仕方がない。

 タロンギはパーティ予備軍の待合所である。今日びマウラで自らを売り込む者は少ない。ブブリムで声のかかるのを待つ、というのが出来れば本当は便利なのだが、一人でいるには危険な場所であるうえ、うまく職にありつけるかどうか保証もないから、その間だけでも鍛錬を繰り返して時間を有効に使うのだ。
 その場合、通常はダルメルを中心に強さの見合った敵だけを狙う。私のように標的を選ばず、みさかいなしに襲いかかるのは珍しい。


 17レベルになるまで一度だけブブリムで狩りをした。そのパーティでの話である。

 発起人は
Pops(ポップス)というタルタル氏だった。彼は17レベルの戦士で、私が来る日のためしまってあるリザード系の装備で全身を固めていた。合流したときの様子では、どうもメンバーの誰かが抜けるので、その穴を埋めるという目的があったらしい。

 サポート白9レベルをつけた、17レベルの黒魔道士
Hidron(ハイドロン)。ヒューム男。
 サポート白7レベル、こちらも17レベルの黒魔道士
Taptap(タップタップ)。タルタル。
 のちにPopsの知り合いとおぼしきミスラの
Eliza(イライザ)が加わった。この人はレベル18の白魔道士である。

 マウラの入り口にみんないるというから走っていった。もう慣れているからといって気を抜いてはならない。この近辺のゴブリンは強力なうえに、どこでもひたひたと歩き回っているから、無事に通り抜けたいなら決して注意を怠らないことである。

 私が合流してから、6人目の仲間が登場した。ヒュームの18レベル戦士
Semimaru(セミマル)は、サポートに9レベルのモンクをつけている。目下のところこの人が一番経験豊富なようである。

 私は一度国に戻ったさい、余っていた野兎のグリルを大量に持ち出してきていた。Semimaruは自前のゆで卵を持っていたから、Popsにのみおすそ分けした(注2)。それはいいが彼は荷物がいっぱいだったので、釣りエサの
ゴカイをみんな捨ててしまったらしい。グリルなど食べればなくなるのだから、私に預けてくれればよいのに、と言ったのだが、彼は笑って意に介さないようだった。


 狩りが始まった。こういうのには幸先のよい日とそうでない日がある。不思議なもので、調子に乗っている日はとことんスムーズに進むし、つまづいた日は最後まで波に乗れない。私にとってこの時は後者だった。
ブルダルメルを狩る話だったのだが、乱入してきたゴブリンに追われ、くやしくもマウラの入り口で息絶えた。眼前の光景が変わる。風になびく旗の前に、ガードのタルタルが胸を張って立っている。傍らに膝をついて休みをとる冒険者の姿がある。ブブリムの入り口だ。ささいな不注意で仲間と遠くへ離れてしまった。

 さっさとマウラまで戻ろうと走りかけたが、武器を構えた骸骨の一団――ゾンビ――がわらわらと周囲にたむろっていた。文字どおり尻尾を巻いてタロンギへ逃げ去る。境界を渡った先には、同じく屍どもから逃げてきたと思しき冒険者らが息を整えている。一人のタルタル氏が、自分のせいですと言って、しきりに頭を下げていた。誰もなじったりする者はなかったのだが、罪ほろぼしにか、彼は一人一人にプロテスなどをかけて回る。はたから見て気の毒になるほど恐縮しているのである。

 ゾンビどもが去るまでブブリムに入ることはできない。時間は無駄に過ぎるばかりだ。タルタル氏が決死の覚悟で覗きにいき、もう大丈夫ですと宣言したので、境界線をまたいだ。折りしもブブリムはすごい嵐であった。Popsから迎えに行く、と連絡が入る。ではアウトポストまで行きましょう、と返信した。私も少々用心深くなっていたかもしれない。慣れているからといって、周辺にいる敵の危険度が下がるわけでは決してない。万が一を考えればパーティ全員かたまっていた方が確かに安全である。

 思ったより来るのに手間どっているようなので、私はアウトポストを通り過ぎ、三叉路の辺りで仲間たちと合流した。

 再びマウラへ向かって移動を始めたが、不幸にもElizaが出遅れてしまった。立ち止まって彼女を待つ。ガルカは身体が大きいのでこういう時によい目印になる(そのせいでモンスターに間違われたりもするのだが)。無事に出会って、さてと身体の向きをかえたところ、またしてもゴブリンが私に向かって襲い掛かってきた。どうもさっきから野良獣人に好かれてばかりいる。

 スケイルメイルの防御力を全く意に介さない強力な殴打に、生命を失うのを覚悟したが、仲間の協力で命だけはとりとめ、マウラへ逃げ込むことができた。入り口に全員が集まり、胸をなでおろす。Semimaruは「失敗も楽しみのひとつ」と言ってくれたけれども、ここまでほとんど戦闘などしないうちに、グリルの薬効も切れてしまった。私の運勢は今日最悪の状態にある。どうしても顔はうつむいてしまう。こんな経験も、過ぎてしまえば笑い話になり得るのだが……。


 さてここでElizaがパーティを離れることになった。さよならを繰り返して彼女を送り出し、我々は新しい白魔道士を迎え入れる準備を始めた。Popsがブブリムやタロンギから目ぼしい人を見つけて交渉する。そのうちの一人の名前が記憶にあった。ブブリム入り口のガード脇で休息をとっていた冒険者である。

「その人はたぶん無理」と私が言った。
「ぜんぜん動かなかったから、寝てる可能性が高いでしょう」

 実際Popsの問いかけに返事は返ってこなかったらしい。我々は、5人で出来るところまでやろう、と意気を揚げて街を出た。が……

 私はまたもや意識を失ってしまった。

 その直前に彼らに礼とおわびを述べた。これ以降彼らがどうしたのかわからない。一人の天中殺で迷惑をかけてしまって、たいへん申し訳ないと今でも思っている。


注1
 マンドラゴラに似た植物系のモンスター。

注2
 野兎のグリルは、STR(ストレングス=強さ)にプラス2の効果があるので、後衛よりは前衛のジョブに効果的なアイテムです。

(02.09.10)
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