その58

キルトログ、マウラで狩りをする

 以前コンシュタットでの毎日に窮屈を感じていたことがある。タロンギでの鍛錬も似たような単調さだが、もう慣れっこになってしまった。自由で派手に見られがちな冒険者も、こんなふうに地道に努力する部分は多い。冒険者社会の一員には頼れる朋友であるための責任が問われる。従ってころころと意識を失うようなガルカはその時点で仲間失格ともいえるのだ。


 18レベルが目前になるころ、誘いの言葉をいただいたが、私の失神癖を理由にお断りした。しばらくしてまた誘いが来た。誰も戦士がいないからやはり協力してくれという。何となく体調は安定しているようだったので、念を押してから結局このパーティの一員となった。

 マウラに来てくれ、というのでせいぜい気をつけて走った。近頃では力もついてきて、一人で倒せるような獣人も増えてきたが、それでも3匹に2匹はかなわないやつがいる。マウラの入り口で、そういうゴブリンに追われていたタルタルの娘さんを見かけた。助けなければと思って後を追ったが、何のことはない彼女は釣り役だったのだ。しかも私に声をかけてきたひとである。私はパーティの5人に向かって深く頭を下げた。


 リーダーはタルタルの
Chara(チャラ)。髪の毛を両脇でくくり、赤いリボンでまとめてある。ちょっとシャントット博士を連想させる。吟遊詩人17、白魔道士8レベル。

 ヒュームの
Whale(ホエール)。両手持ちの巨大な鎌が得物。暗黒騎士16、白魔道士8レベル。

 タルタルの
Filippo(フィリッポ)。それにしてもタルタルはMPが多く羨ましい。白魔道士17、戦士8レベル。

 ヒュームの
Oriemon(オリエモン)。外見はWhaleと酷似。冗談屋で、Charaをからかったり、ぼけたりしては彼女に冷静に突っ込まれている。ナイト16、戦士8レベル(注1)

 タルタルの
Espanyol(エスパニョール)。私に対してある秘密を持っていたが……。黒魔道士17レベル(注2)


 パーティの目的は鍛錬であるので、適正な強さの敵ならその種類を問わない。「
ズーはやめよう」とCharaから提案が入るが、私の経験によれば、この鳥を非常に恐れる人が時に存在する。アウトポストで兎狩りをしたOshもそうだった。理由はわからない。案外激しくリンクして難儀をした経験があるのではないかと勝手に想像している。


 ふつう狩りをする場合拠点というのを決めるのだが、我々は徐々に移動しながらモンスターを倒し続けた。狙いはブル・ダルメルであり、ゴブリンであり、
カーニバラス・クロウラー(注3)である。例によって私が釣りを担当したのだが、これまた例によっていつの間にか別の誰かにとってかわられたりした。

 Espanyolが抜けたあと、ミスラの
Descartes (デカルト)が入った。シーフ18、戦士9レベルで、とんがった帽子がトレードマークである。我々は遊牧民のように拠点を移し、徐々に徐々に東の海岸線にまで近づいていった。東は砂浜もあるが、場所によっては切り立った崖になっている。西の浜とは眺めも違うが冬枯れを連想させる部分は何らかわりがない。

東の海岸(崖上) 崖から外海を見下ろす

 率直にいって、この6人(7人というべきか)は、特別理想的なパーティではないと思う。必ずしも一糸乱れぬ統制がとれているわけでなくて、ほんの些細なミスで何度もピンチに陥ったからだ。例えばこういうのがあった。標的のダルメルを皆でとり囲んだが、一人が勘違いして別のを攻撃してしまい、けっこうな強さのダルメル2匹と乱戦しなくてはならなかった。ゾンビやグールに追われて何度も街へ逃げ帰った。東の海岸線近くで何となく拠点にし、回復のために座り込んだ場所は、ゴブリンの縄張りの真っ只中で、どこからともなく現れる獣人どもをひいひい言いながら倒し続けたりした。

 しかし前言と矛盾するようだが、こうした失敗も楽しければよしなのだ。というより、軍隊のように統率された理想の取り合わせも、結局皆が楽しめなくては意味がない。このときの私たちは鍛錬の機械ではなく、まぎれもなく人間らしい集団だった。CharaとOriemonの駆け合いだけで充分証明される。そのせいか狩りは長く続いた。特別に効率的ではなかったのに、私なんぞは一足とびに19レベルへと成長してしまったほどである。


 ブブリム半島の地平線に朝日が差す。暖色の光の中を私たちは海岸に降りた。私が以前やったように、スニッパーを狩るのが目的だった。

 東の浜の眺めは、西のそれとほとんど変わらなかった。バルクルムに比べてやっぱり殺風景に思える。一つ違っているのは、カニもポイズン・リーチも驚くほど少なかったことだ。スニッパーはわずかに3匹、それも1匹は私一人でも倒せるほどの弱さである。しょうがないから魚をやっつけよう、と誰かが言い出した。波打ち際にいる魚はビーチ・プギルと思いきやそうではない。
ショール・プギルは少し強めだし、リンクして複数匹が一緒に攻撃してくる。バルクルム砂丘にはポイズン・リーチそっくりのスレッド・リーチがいる。当たり前だが、環境が違うからには種も習性も違って当然だ。共通のカニのせいで勘違いしたものとみえる。あやうく魚を引き離さずに愚かな一撃を喰らわせるところであった。


 獲物が少なかった理由は、もしかしたら先客がいたせいかもしれない。何が目的なのかはよくわからないのだが、実力者らしい二人組が次々に浜のモンスターを退治していく。そのうちのガルカは単体で魚を手玉にとっている。競争相手と張り合うほど浜辺に固執しているわけではないので、少し面白くないのは確かだったが、坂をあがって丘の上に戻った。目の前には飽きるほど見慣れた荒涼な風景が広がっている。

 誰かがバルクルムの話をした……私だったかもしれない。Oriemonが思い出したように砂丘での記憶を語って、そうだ砂丘へ行きたい、バルクルムへぜひ行こうと言い出した。最初のうちは現実的でなかったが、ゴブリンが大量にトレインを起こして街に閉じ込められたさい、船で移動するのもいいか、ということになった。考えてみればパーティで海路を行くのは初めてだ。不測の事態があったときには心強い。もっとも皆が甲板で釣りをしているあいだ、私はDescartesがいた船長室へ逃げて彼女に笑われたりしたのだけれど。

 非常に困ったことに、私の失神癖は時間を問わない。発作のように突然前触れもなく始まる。一度起こりだすと連続する。どうやったら止むのかさっぱりわからない。ふっと意識が遠くなると、喋ったり行動しているつもりでも周囲の反応がない。そんな時には周りの時間が止まったのじゃないかと思うのだが、実際には私だけが時の流れに取り残されているのだ(注4)
 セルビナに降りてから、この発作が起こった。もうどうしようもない。街を出たところでまた気を失った。親切な仲間はいいよいいよと言ってくれるだろうが、一度や二度ならいざ知らず、治る兆候はわからないし、その保証もない。これが潮時だ。幸いセルビナはバストゥークもサンドリアも近い。彼らが私より優秀な戦士を補充するのに、特別苦労するということはないだろう。

注1
 この変名は本人の希望によります。
注2
 Espanyolを操作するプレイヤーは以前別のキャラクターでKiltrogと冒険しているそうなのですが、誰とは教えてくれませんでした。

注3
 Carnivorousは「肉食の」の意味。カニバリズム(人肉を食べる風習)の派生語です。

注4
 回線落ちは下り(サーバー側からの応答)がゼロになり、その状態で猶予時間をオーバーしたときに起こります(少なくともうちはそうです)。
 サーバー側からの情報がとどかないため、この猶予時間(約30秒)内にキャラクターの身に起こっている出来事を知ることはできません。戦闘中に回線落ちした場合は、最悪死んでいることもあります。


(02.09.17)
Copyright (C) 2002 SQUARE CO., LTD. All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送