その60

キルトログ、グールの出現に振り回される

 イサシオは私に品物を持ってこいといった。だがそれだけで終わらないことは現在誰もが承知している。彼は都合三つのアイテムを持参することを以て免許皆伝とする。彼の教え子は現在ではあまりに増えすぎてしまい、あらかじめ何を持っていけばいいか知ることはたやすい。それは以下の三つである。

 一、
ガガンボの腹虫
 一、
呪われたサレコウベ
 一、陸ガニのふんどし

 以前ふんどしを大事にしろと言われた理由がおわかり頂けると思う。


 品物と同様、それがどうやれば手に入るのかについての情報も流布している。腹虫はバルクルム砂丘に舞う巨大トンボ、
ダムセルフライの腹にまれに寄生している。サレコウベはグールという動く骸骨が落とす。ふんどしについては語るまでもあるまい。名前からしてスニッパーから入手できるのは明白である。

 これを一人で取るのは困難を極める。どうしたって人手がいる。自分の利益のことで恐縮ではあるが、誰かに頭を下げて頼まなければ達成は難しい。呼ばれて加わったパーティでこんなことを持ち出してはわがまま千万だから、自分から声をかけて仲間を収集せねばならない。思えばパーティを集め率いるというのは私にとっても初めての経験である。


 この間冒険したばかりのWhale(暗黒騎士19、モンク9)がセルビナにいた。これを幸いとばかり相談をもちかけたら一緒してくれるという。私よりよほど経験深い彼には、まず人員構成に関してアドバイスを貰った。
 セルビナにはパーティ参加希望を表明している手ごろなレベルの人物が二人いた。それぞれナイトと
狩人である。ちょっと珍しい組み合わせかもしれない。
 
 ヒュームの
Charlton(チャールトン)。ナイト17、戦士8。
 タルタルの
Milmol(ミルモル)。狩人18、赤魔道士9。

 狩人は獲物をいちはやく見つけることのできる広域スキャンという特殊能力を持つ。これほど敵を探すのに理想的な人物はいない。


 さてモンスターからアイテムを入手するのが目的で、シーフの力を借りないわけにはいかない。シーフは運と目利きの両方で品物を入手する名人である。残念ながら街ないし砂丘にはいなかったが、まだサポートジョブをとっていない18レベルのシーフがコンシュタットにいた。だとすればこれは彼にとっても決して悪い話ではないだろう。思った通り彼からは快諾が得られた。こうしてヒュームのシーフ18、
Ryuga(リュウガ)も仲間に加わることになった。

 さて問題は回復役である。白魔道士は地上で最も引っ張りだこの職種である。そのぶん確約をとりつけるのがむつかしい。セルビナに一人いたのだが、私より一瞬はやく別の誘いを受けてしまったという。途方に暮れていたところ、Milmolが

「私のともだちの白魔道士が、マウラから船でこっちへ来るところ」

という。持つべきものは仲間である。Milmolに話をしてもらって、タルタルの
Chuchu(チュチュ)(白魔道士17)が最後に加わった。もっとも船が着くまで時間があったから、私たちは砂丘の入り口までそろってRyugaを出迎えに行った。


 三つの品物のうち、とりわけ困難なものが一つある。呪われたサレコウベだ。というのも、グールは悪霊の跋扈(ばっこ)する夜にしか出現しないうえに、砂丘に出るものはたいへん数が少ないからである。

 正確にいうと、死者の出る時間は20時から朝の4時までである(ボギーやゴーストなども例外ではない)。その間、狩人のMilmolにさっそく周囲を探してもらった。だが「いない」「いない」の返事ばかりで、やっと見つかったと思って走っていったら、誰かが既に戦っている。残念ながら一日目の夜は、この一匹をかろうじて見つけたに過ぎなかった。

 これに比べるとダムセルフライは楽だった。戦闘自体はそうでもないが、何といってもどこでもいるし、巨大な羽をひらひらさせているのですぐ見つかるのだ。我々は昼にこれを狩り続けた。私とRyugaはふんどしを既に持っていたので、腹虫とサレコウベが二つづつあったら用は足りる。Chuchuはサポートジョブこそないが、マウラで必要な品物を全部手に入れているらしい。あの港町にもイサシオ同様、冒険者に生存の道を伝える者がいる。もっともこっちは爺さんじゃなくて婆さんだし、同じアイテム三つを所望するも、イサシオが告げるのとはぜんぜん違う種類のものを挙げるそうなのだが(注1)

とんぼ ダムセルフライの死骸

 シーフがいるとはいえ、アイテム奪取は容易ではない。虫の羽を落としたダムセルフライには腹が立った。こんなでかい羽は要らんのである。要るのは寄生虫だ。イサシオがそれをどうするのかは知らない。持って来いというから持っていくだけの話だ。だが数を重ねるうち、腹虫は確実に出た。最初のはRyugaに譲った。次のが出るにも時間はかからなかった。気づいたら一日も経っていなかった。こうして後はただサレコウベが出るのを待つのみとなった。

 ところでグールの出現に関し、一つのまことしやかな噂がある。

「昼のうちに徘徊するゴブリンを多く倒しておけば、夜いっぱいグールが出てくる」

 因果関係に欠けると思われるから、個人的には俗信なのだと思う。だが俗信が歪曲的にせよ事実を言い当てていることもある。どのみち昼にはすることがないから、この話に乗ってみるのも悪くないと思った。夜移動するのにいちいち獣人に絡まれては面倒である。そもそもゴブリンを退治するのに、我々にとって何の不都合があるわけでもない。


 こうして我々は拠点を移動させながらゴブリン狩りに終始した。私がまだ未熟な、それこそ一日に4回も5回も砂地に倒れていた頃には気づかなかったが、同じ砂丘にいる獣人でも強さにかなりの幅がある。当たり前だが弱いのもいれば強いのもいる。途中Milmolが、Chuchuが、個人的な用事でしばらく抜けたりしたのだが、そういうバランスを崩しているときに、次々にゴブリンが襲ってきたりすると決死の戦いを強いられた。一番割りのあわなかったのはCharltonである。彼はてきぱきと獲物にかかっていって戦闘を先導したものだが、ゴブリンとの絶え間ない戦闘で合計3度も生命を落としてしまった。さすがに3度目には気落ちしてパーティを抜けたのだが、我々にとっても申し訳ない思いでいっぱいだった。というのも、挑発役が私一人になり、回復役がChuchu一人になったとき、いかに彼の存在がパーティの要だったかを痛感したからである。

 ともあれ、二日目の夜、グールは次々と見つかった。Milmolが発するのは「いた」「いた」ばかりであり、昨日の不在が冗談に思えるほどだった。そして遂に敵は落とした……呪われたサレコウベ! 頭蓋骨を手に入れて喜ぶというのも変な光景だが、我々は快哉を叫んだ。肝心の品物は先にRyugaに譲ることにした。
ロットイン(注2)して競ってもいいが、そこまでする必要もないように思えた。要するにもうひとつサレコウベが手に入れば目的は達成されるのだ。この調子でグールが出てくれれば何の問題もないだろう、私はこのとき事態をかなり気楽に考えていたのである。


 三日目。俗信のいかに大切かを悟った我々はゴブリンを狩りまくった(Charltonに3度目の不幸があったのはこのときである)。彼が抜けたあと、用事をすませて合流してきたMilmolの指示を待った。だが、昼間かなり獣人を退治したはずなのに、彼女の返事は二日前のそれに戻ってしまった。

「いない」
「いない」
「いない」
「いない」

 時間だけがどんどんと過ぎていく。

 ようやく南の浜の近くに一匹をみつけ、Whaleが率先して跳びかかったが、サレコウベどころかクリスタルも落とさなかった。西にもいる、というので私は急いで駆けた。あまり長い間彼女たちを拘束してはおけないし、脱落者を出したことで限界が近いことも感じていたからだ。

グール グールは希少な敵だ

 だが、グールがいるはずの場所には、複数匹のゴブリンがたむろっていて、私たちの邪魔をした。奴らに襲われた私は、敵を引きつけたまま、セルビナへと一目散に逃げ出した。トレインが去ったころ、もとの場所へ戻ったが、時刻は4時を回ってしまった。朝が来て、死者は闇にかえった。もう一日ゴブリンを駆り続ける気力は私たちにはなかった。


 こうして私は最初の目的の半分しか果たさないまま、5人に別れを告げた。自分のために集まってもらった彼らには本当に感謝している。ただ心が重い。成功が目前と見られていただけによけいにそんな感じがする。これが試練だと言ってしまえば身も蓋もないが、せめて人に迷惑をかけている以上、さっさと終わってほしいというのが私の正直な感想である。


注1
 サポートジョブのクエストはマウラとセルビナの双方に用意されてますが、片方をいちど受けてしまったらもう一方は自動的に受けることができなくなります。マウラで必要なアイテムは以下の三つです(枠内はアイテムを落とす敵)。

 一、
野兎の尻尾(マイティ・ララブ)
 一、ダルメルの唾液(ブル・ダルメル)
 一、血染めの衣(ボギー)

 セルビナクエストの難易度の高さはグールの希少性に起因しますが、マウラのそれはボギーの強さが原因です。物理攻撃が効かないだけに、20レベル前後のパーティでボギーを倒すのは至難の業といえます。
 ちなみにグールはグスゲン鉱山などの他地域にも出没するうえ、どのグールもサレコウベを落とす可能性を持っています。一方ボギーは難敵ですが、高レベルの魔道士に手伝ってもらうのが一番手っ取りばやい方法です(その58でタルタルさんがとっていた手段です)。どちらにも一応抜け道はありますが、一般的にはセルビナのクエストのほうが人気は高いようです。

注2
 ロットインシステムは、ランダムに3桁の数字を出し、それが最も高い人が欲しいアイテムを入手できるという、戦利品の分配方法のひとつです。要はくじ引きなわけですが、くじ運がいい人がよい目を見ることが多いので、必ずしも公平ではないと考える冒険者も少なくないようです。
 ある戦利品に対してロットインするかしないかは、パーティの一人一人が任意に選べます。もし一人しかロットインしなかった場合、アイテムはその人のものになります。パーティ全体が特定の人物にアイテムを取らせたい場合は、みんなで示し合わせてこの方法をとります。参入猶予時間(誰か他にロットインするひとがいるかどうか待つ時間)の過ぎるのが面倒な場合は、その他全員に「ロットインしない」を選択してもらえば、ロットインした人がすぐにアイテムを入手できて便利です。


(02.09.17)
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