その65

キルトログ、兄弟について考える

 サンドリアの街並みは美しい。ウィンダスやバストゥークの文化に接してきた身だが、素直にそう思う。力強い直線の中に繊細な曲線の息づく建造物の姿は、頑健だがしなやかなエルヴァーンの特徴と重複する。こうした造形の中に私は彼らの優れた芸術性を見る。とかく優雅さではまったく他国の追随を許していない。

 ただし洗練された外見とは裏腹に、建造物や地所のほとんどが殺伐とした名前を持つ。例えば閲兵場、
槍兵通り、騎兵通り、従者横丁などである。これはエルヴァーンの好戦的な側面と、戦争に継ぐ戦争を繰り返して来たこの国の歴史を反映している。
 彼らの文化はまず「戦ありき」なのだ。サンドリア人は恒久の平和を望んでいるように見えるが、彼らが本当に欲しているのは平和ではない、勝利である。幸いオークという仇敵が存在するうちは、両者は同義でいられる。大戦が終わって20年、軍隊が意味をなさなくなってきた時代に、この国の文化が力を失いつつあるのは当然かもしれない。サンドリア人が真価を発揮できるのは戦場より他にはない。ただその皮肉に気づいているエルヴァーンは少なく、世界で見識を深めているごく一部に留まっているのが現状である。


 軍人の文化である限り、それに準ずる職業に尊敬が集まるのは当然だ。南サンドリアには
ローゼルという腕のいい防具屋がいる。ここは王族もご用達であるというから、その実力のほどは推して知るべしである。

 現に私が主人と話しているとき、王族の使いが来た。曰く、この間こしらえたマントはたいへん出来がよく、王子様のお気に召したようである云々。ローゼルはかしこまって聞き入っているが、もう一人の王子からの依頼も受けているのである。使いは代金を渡して帰って行った。だが主人が緊張していたせいだろう、
領収書を渡すのを忘れてしまった。だから両殿下の住まう、ドラギーユ城まで行って渡してくれと頼まれた。防具屋自身は注文の品を急がなくてはならないからである。

城正門 ドラギーユ城

 ドラギーユ城は北サンドリア、大聖堂の左隣りにある。為政者の一族の居城だけあって堂々としたものだ。二人の衛兵が彫像のように左右対称に直立する。直接門を潜ろうとしたらさすがに誰何(すいか)された。ここはウィンダスやバストゥークとは勝手が違うのである。

 そこで領収書を渡すと、どちらの殿下へのことづけだ、と尋ねられる。
トリオン王子ピエージュ王子か、領収書の字が達筆で判然としない。だが私ははっきりと覚えている(注1)。間違いないトリオン王子ですと答えたら、衛兵は少ししてから戻ってきて、今度はもうちょっときれいな身なりのを遣せと防具屋に伝えろ、と偉そうなことを言う。この国では冒険者は概して軽蔑されるが、その傾向は衛兵に最も強い。冒険者なんかは軍隊に入れなかったみそっかすだから、取るに足りない連中だとばかり思っているのに違いない。


 トリオン王子とピエージュ王子は、この国で最も有名な兄弟である。何しろ
デスティン国王の実の子息であるから、二人の王子のうちどちらかが次期国王だろう、と国中で盛んに噂されている。

 おそらくそのせいと思うが両者は犬猿の仲だ。顔を会わせては喧嘩ばかりしている。共通の妹が一人あるそうだが彼女も辟易するほどだと言う。二人とも優秀な軍人であるが、性格はまるで水と油で、戦場で手柄を立ててこそ本懐、というトリオンは行動派、新しい世界情勢に気を配り、視野を広く持たんとするピエージュは頭脳派である。それぞれが伝統と革新という文化の両側面を代表しているため、国中がどちらの肩を持つかで真っ二つに割れている。刃傷沙汰が起こるほどではないが、両殿下の率いる
王立騎士団神殿騎士団は、出会うたびにいさかいを繰り返す毎日だという。

 ある識者の説によると、オーク撃退が一向に進まないのはまさにこの不仲のせいだという。単に足並みの不一致というばかりではない。王子二人とも、王位継承争いで一歩先んじようと、どうあっても自分が戦果を挙げたいと躍起になっている。目と鼻の先にあるゲルスバ野営陣に攻め込まない――攻め込めないのはそのせいだ。さすがに片方の騎士団だけで片をつけられるほど、獣人は甘い敵ではないからだ。
 おかげで合戦は必要以上に長期化している。西ロンフォールにせり出した
見張り塔には、何人もの物見が不眠不休で詰めている。森を散策していると、伝兵が走り抜けていくのを何度も目撃するだろう。さすがにこの対立を国民も苦々しく思っていて、どちらに肩入れするにせよ、サンドリアがはやく一枚岩となることを誰もが望んでいるようだ。あれでも昔は相当仲のいい二人だったというから、昔を知る者にはなおさらその想いは強いのだろう。

 こういうことがあった。道端で兄弟げんかをしている少年たちがおり(私はエルヴァーンの子供というのを初めて見た)、通りかかった男がこれを見て叱責した。
 同じ血を分けた兄弟同士で争うとは何ごとか、そんなことでは戦に勝つことは出来ない、と。この帰結がいかにもサンドリアらしいところだが、おかげで二人はおとなしくなった。男は少年たちの姿に、自分のあるじたちの醜い争いを見てとったに違いない。

 ガルカには判りづらいが、兄弟は血の濃度が近いせいか、非常に複雑な関係を築くことが多いようだ。兄弟とは親友であり、師弟であり、好敵手である。サンドリア港には兄弟で「少年王立騎士団」を名乗る二人がいた。要するにスターオニオンズである。こんな例なら微笑ましい。思わず応援してやりたい気分になる。

 もし対立するにしても気持ちのよいライバル同士であってほしいものだ。港には、お互い三度の飯より好きな釣りの腕前をえんえんと競い合っている有名な「釣り兄弟」がいる。


釣り兄弟。タルタルとミスラは冒険者 釣り兄弟(埠頭先の二人。左のエルヴァーン女性は共通の知人らしい)

 二人で競ってもきりがないから、お互いに仲間を募って、全員で釣り上げた魚の総数で決着をつけようというつもりらしい。兄弟の近くで釣り糸を垂れるタルタルとミスラはこの争いに加わっているのだろうか。審判を下すのは知人、おそらくは共通の幼なじみのエルヴァーン女性である。彼女の方はずいぶんと迷惑そうであったが、魚を数えるなんてけだし平和な決着のつけ方だと思うのだが、どうか。

 魚を取り逃がしたって、獣人の被害が増えるわけではないのだから。


注1
 このクエストは、領収書を届ける相手がランダムに変わりますのでご注意下さい。

(02.10.01)
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