その67

キルトログ、吊り橋の上でオークを迎え撃つ
ゲルスバ野営陣(Ghelsba Outpost)
 オーク帝国軍の先鋒、残忍無比な戦闘隊長バットギットが率いる、斬り込み隊の野営地。
 元来強暴なオーク族の中でも、死を恐れぬ選りすぐりの戦士が集められており、討伐に派遣された多くの冒険者が、ここで血祭りにあげられている。
(ヴァナ・ディール観光ガイドより)
 職業を変更したところで、人間の中身が急に変わるわけでもない。それを痛感したのは、私がゲルスバ野営陣へ殴り込みをかけたときである。

 敵の軍留基地を襲う! ギデアスもパルブロも獣人の巣窟だったが、あれは住処であり、その意味では私がやったのはむしろ「潜入」だった。今度は違う。何と言ってもオークは(少なくともゲルスバでは)人間が攻めて来て当たり前だと思っている。そこには自ずから、ただの潜入とは別の論理が働く。これはおおげさな言い方でも何でもない――ゲルスバへ赴く冒険者は、覚悟があるにせよ無いにせよ、みな個別に戦争に出かけているのである。

 身体の血が無性に騒いだ。白魔道士になったからと言って、こういう武人としての感覚が抜けるわけではない。魔法がすぐに尽きてしまい、杖でひたすら殴るのが戦法だったりするから、案外やってることは戦士とたいして変わらなかったりする。私は後衛にのんびり収まれるタイプではなさそうだ。何よりもガルカの資質が二重の意味でそうはさせない。


 ゲルスバ野営陣は西ロンフォールの北西にある。すぐ東には南サンドリアへの入り口があって、見張り塔がせり出している。本当に目と鼻の先なのだ。ゲルスバに近くなると、呪術的なシンボルを染め抜いた旗印と、杭を重ねたバリケードが目立つようになる。あちこちで冒険者とオークとの小競り合いが始まっている。これは戦争の前哨戦だ。最前線にいる下っぱどもに勝てないようなら、こんな物騒な場所には近づく権利すらないのである。
 
 ゲルスバは非常に興味深いところだ。獣人の居留地に来てそう思うのは初めてである。というのは、ギデアスもグスゲンも、獣人たちが実際に住んでいるにもかかわらず、その文化がほとんど反映されてなかったからだ。かろうじて前者にて、ヤグードの穴居の習性とレリーフの技術が知れたくらいである。

 この土地はオークの戦争に対する姿勢をまざまざと映し出す。広場には木で組んで布を垂らしたやぐらが建っている。建築技術は粗末だが実用的だ。一方で効率的な警備のノウハウには乏しい。オークは敷地内をうろうろと歩き回るばかりであり、前線に弱者を配置するというまずいやり方が、冒険者に潜入の余地を与えている。私以外にもオークと戦っている連中は数多くあった。獣人の視野はただでさえ狭いうえに(注1)、足並みが揃わないせいで、手ごわいオークも各個撃破でやっつけられていく。これでは利口なのか馬鹿なのかよくわからない。


木と布で組まれたやぐら 広場中央に組まれたやぐら

 周囲の冒険者はたいてい10レベルを越えていた。私は7レベルで少し実力が足りない。以前にBalltionと来たことはあるが、地図を欠いたうえ早々に通り過ぎたから、感覚的には初めて来たに等しい。ここは仲間がいた方が安全である。できれば前線に立てる戦士が望ましい。

 目ぼしい人が一人だけあった。だが連絡をとってみたら、まさに今しがたオークにやられて、サンドリアに強制生還したところだと言う。それでもすぐにそちらへ行くから待っていてくれ、との話だった。だから私は待った――思ったより長くかかったが、やがてロンフォール側の入り口から、ヒュームの女戦士
Leesha(リーシャ)(戦士7、モンク3)が姿を現した。

 彼女はサンドリア人である。サポートジョブも身に付けているから、この地域にはかなり詳しいはずだ。興をそがない程度に、先に何があるかを尋ねた。ゲルスバはいくつかの広場が隘路で繋がっているのだが、地図を見ると北上するにつれて構造が複雑になっていく。時に見える大小の洞窟はユグホトへの入り口だ。Leeshaは、岩屋は敵が強くて駄目です、とかたく目をつむってみせる。最奥地には
ゲルスバ砦があり、こちらのオークもとても手ごわいのだという。かと言ってこの辺りの青二才ではさすがに弱すぎる。話をしているうちに襲い掛かってきた2,3匹を軽くいなしてから、私たちはLeeshaの先導で奥へ向かった。行きがけに二人にプロテアをかけておくのを忘れない。これはまさに7レベルからの白魔法であり、確かウィンダスで獣人相手から入手したように記憶している。


 駆け足で野営陣を抜けながら、私は非常に興味深く周囲の光景を眺めやった。それにしてもあんなもの――私の獣人観を根底から覆すようなしろもの――を目にしようとは、まさか夢にも思っていなかった。

 先に進むにつれ、ゲルスバは上り坂が多くなっていく。兵法の定石通り砦は山頂にあるのである。ひとつの坂の手前に、小さな洞窟の入り口が開いていた。Leeshaと話している間に、そこから奇妙なものがぬっと覗いた。私はおやと思った。間違いなくオークの一種のようである。だがそれはこれまでに見たどのオークとも違う。少々遠目に見たところでは、人のかたちすらしていなかった。丸い洞窟の入り口を塞ぐ球形に近い巨体である。頭上、といっても頭部を識別できたわけでもないが、通常なら頭上にあたる部分に何かが細やかにうごめいていた。私は最初それを触手だと思った。だがそんなオークがいるなどとは聞いたことがない。ミュータントの類か、巨大な寄生生物と一体化しているのか、私がいぶかしんでいたところ、Leeshaが剣を抜いて襲い掛かっていく。敵に近づいても私の疑問はさっぱり解消されない。というのは、それがオークという連想からは程遠い形態にあったからで、奴が洞窟から全身を乗り出し、全貌が見えるようになったあともしばらく、それが何なのか理解するのに時間がかかった。結論から言うと、それはオークどころか「生物」ですらなかったのである。

 Leeshaが声高に言う――「あれは戦車です!」

 巨大な爬虫類か、あるいはオーク自身かをかたどった、ガルカも包み込めそうなほど大きな戦車。戦車! 獣人にそんなテクノロジーがある、ということが私をひどく驚かせた。ただしこれが乗り込みを必要とする白兵武器なのか、自動人形なのかまではわからない。というのは、Leeshaの剣と私の杖とでひどく殴りつけられた結果、
オーキシュ・ストーンランチャーはさっさとポンコツになってしまったからだ。

 戦車が動かなくなったので、動力源を推察することは難しくなった。どうやら触手に見えたのは何らかの外付けの装置だったに違いない。戦車の心理的効果は大きかろうし、実際私には大きかったが、冷静に考えると、機動性に難があるし、強さも大したことはない。見かけほど強力な武器ではないようだ。慣れてしまえば脅威でも何でもない、オークの建造技術はどうあれ、何とも割りに合わない兵器だということは言えそうである。


洞窟前の廃戦車。爬虫類をかたどった屹立型 破壊されて機能を失った「戦車」ことオーキシュ・ストーンランチャー

 私たちは残骸を乗り越えて先へ進んだ。幸い平地には戦車が走り回っている様子もない。
 この辺りから丁度いい強さの敵が多くなってきて、下っ端の
オーキシュ・フォダーなどは姿を見かけなくなる。黄色い顔で露骨に獣性をさらけ出しながら殴りかかってくるのが、オーキシュ・グラップラー。種族内のシャーマンと思しきオーキシュ・メスモライザー。主な敵はその二種だ。山道を駆け上ると、意外にしっかりした造りの吊り橋が谷間を横断している。上から見るととんでもない高さだ。転落したら決して命はあるまい。そう思ったら、底板の小さな隙間が妙に心細く見えた。特に高所恐怖症でなくとも、ぞっとさせられる。吊り橋の上だろうとオークは容赦なく襲ってくるから、文字通り綱渡りのような状態で戦わねばならない。

リーシャ。吊り橋の上 Leesha
吊り橋を斜め上から見た光景 吊り橋の上で回復をする

 吊り橋を渡りきったと思ったら、もう一本が先の方へ伸びている。対岸には木の杭を打ち並べたバリケードがこしらえてあって、オークが陰に隠れているのが隙間から見てとれる。調べてみたら結構な強さだ。少し開けた場所で、何匹かが周辺をうろうろしているのもわかった。幸いまだ誰もこちらには気づいていない。一斉に襲われたら大変である。私の回復呪文はすぐに尽きてしまうし、敵陣の最奥地という条件上、入り口まで逃げおおせる可能性はゼロに近い。何とかうまく一体ずつひきつけて仕留めなくてはならない。

 Leeshaの言葉では、ここが野営陣の終点なのだそうだ。バリケード向こうの広場にはゲルスバ砦が建っている。入り口にいるオークがとても強そうなやつで、さすがに二人では勝てる気が全くしない。ある程度他の冒険者連中も見かけるのが不幸中の幸いである。いざという時助けを求められるかどうかは別として、対面しなくてはならない危険の数は間違いなく減少する。少なくとも私たちと同程度のレベルの一団が、状況を切り開けないほど絶望的な場所ではない――かつて経験した、ブブリムやバルクルムのようには。

 私たちは吊り橋に陣取り、一匹づつをこちらに招きよせて各個撃破するという作戦をとった。私が魔力の回復に努めているあいだ、Leeshaが獲物を挑発しておびき寄せて来る。これは文章ほど理想的な作戦ではなかった――というのは、メスモライザー辺りは魔法を使うからうまく近づいて来ないし、唐突に吊り橋に別のオークが現れて襲ってくることもあったから(注2)――ものの、決してまずいやり方ではなかったように思う。私たちは死ぬことはなかったし、天に祈らなければならない状況にも陥らなかった。ただし私がパーティ戦での立ち振る舞いを正確に把握してなかったことから、幾度かLeeshaを危険な目にあわせて、彼女が悲鳴をあげたことはあったが。挑発役が一人しかいないし、回復役が頼りないからある程度は仕方がないにしても、私は今回回復する一方で殴りにも参加していたので、考えようによっては白というよりは、赤魔道士のような役回りに近かったのではないか、と思う。

 そろそろいい時間だったので、私たちはサンドリアに戻った。ある程度死ぬのを覚悟していたにもかかわらず、無事生還できたことが、私をほっとさせた。私たちは二人とも8レベルになっていた。魔道士は新しい魔法が覚えられる可能性もあるし、とりわけ偶数レベルはサポートジョブも伸びるから気分がいい(注3)。ただしオークの落としたのはブライン(注4)やバインドの巻物で、白魔法が全然なかったことだけが不満だった。少なくともこちらに関しては、オークよりヤグードの方がずっと先を走っているようである。

注1
 モンスターの索敵方法は種類によって異なります。獣人にも特徴があって、暗視の能力を持つオークとゴブリンは、光の射さない場所の方がぐっと視野が広くなります。反対に昼でないとよく見えないのがヤグードです(トリ目というくらいですから!)。クゥダフは視力より聴覚に頼っているので、音を立てている敵を真っ先に識別する傾向があります。
 ちなみに敵を追うのに嗅覚に頼るオークのようなモンスターは、獲物が川を渡ったりして臭いを消してしまうと、それ以上追いかけることが出来ません。

注2
 一度倒した敵は一定時間後に自動再生されます(これを
ポップまたはリポップと呼びます)。この時陣取った吊り橋の上には本来オークが配置されているので、時間が来たらいつのまにか現れて襲い掛かってきたりしたのです。
 モンスターが死んだあと、次のリポップまでは、地球時間で8分間かかります。

注3
 サポートジョブのレベルは、メインジョブのレベルの半分に、自動的に抑え込まれています。従って、サポートジョブのレベルが実際に成長させてあるレベルよりも低い場合、メインジョブが偶数レベルに達すると、サポートジョブも勝手に1レベルぶん上昇します。
(例:キルトログは白魔道士7レベル。サポートジョブのモンクは実際には8レベルだが、3レベルに抑えられている(端数切り捨て)。ここで白魔道士が8レベルになると、サポートジョブは勝手に半分の4レベルに伸びる。この現象はサポートジョブのモンクが8レベルを越える領域、すなわちメインジョブが、倍の16レベルになるまで続く)

注4
 ブラインは獲物の視力を一時的に奪って、物理攻撃の命中率を減少させる黒魔法。

(02.10.05)
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