その75

キルトログ、セルビナである婦人に会う

 灯台の辺りをうろついていて思い出したことがある。どうせバストゥークに戻ってくるのなら、セルビナへ寄って、石碑をうつしとった粘土板を町長に渡してくればよかった。ご存じのようにこの近くにも同種の石碑がある。この調子なら世界のいたるところに同じものがあると思われるので、常から粘土を持ち歩き、見つけ次第に記録を残していくのが効率的だ。

 私自身の不手際も少しあった。先達に敬意を表して、碑文を書き写しておくのを習慣づけようとしたが、ふとしたことで西ロンフォールの書きつけを紛失してしまった。サンドリアくらい行こうと思えばいつでも行けるのだが、歯に肉が挟まっているようで気持ち悪い。セルビナまであがるのなら、思い切って遠出をして、メモを新しくしてこようと考えた。そこで戦士の装束に着替えてバストゥークを旅立った。

 出立の間際に、
PIvo(ピヴォ)という冒険者とすれ違って話をした。彼はとあるリンクシェル・グループの主催者であり、かねてからお互いを知っていたが、じかに言葉を交わすのは初めてであった。そこで挨拶をし、旅の無事を祈り、お互いの友情の誓いをたてた。私にとって非常に光栄だった。旅立ちの直前という事情もかさなったから、少なくともこの地へ戻ってくるまで、幸運が約束されたもののように思われた。

 私はいずれのリンクシェルにも所属していない。誘いは何度かあり、中には親しい友人からの勧誘もあったが、辞退させて頂いた。私はもともと短気で、せっかちで、飽きっぽい性格なのだが、冒険に大しては非常にマイペースなところがある。目新しいものが好きなのにもかかわらず、風土を空気で感じとれるまで、ひとつところに比較的長くとどまったりする。手記をつけている――そして、それを公表している――影響というのは随分と大きい。これに付随する制約を、時に窮屈に感じることもあるが、これまでのところ私自身はおおむね満足している。

 手記の執筆者としての責任と、リンクシェルの一員としての責任を両立することは、たぶん難しいと思う。可能だと考えれば応じるかもしれないが、道義上リンクパールは、簡単に貰って簡単に捨てられる類のアイテムではない。それが社会的契約の一種であるかぎり、いずれにせよ熟考を経る必要があるだろう。


 セルビナで粘土板を渡したら、800ギルをくれた。報酬のことはちっとも考えてなかった。たぶん自分の興味が優先していたからだが、趣味と実益が兼ねられればこれほど嬉しいことはない。

 この町では貴重な出会いを二つ経験している。ひとつは職工ギルドの店へ出向いたときだった。セルビナは規模が小さいながら、職工ギルドと漁師ギルドの二つがある。意外かもしれないが、考えてみれば当然のことだ。この町は自治領であるし、現在の主産業は畜産業と漁業なのだから。

 職工ギルド店の店長は憎めないおやじだ。外で羊を可愛がっている。だから彼の妻と娘が店を切り盛りしている。この娘というのが美しいヒュームの婦人である。名は
マチルド、歳のころは20代後半。5年前に結婚し、現在は4歳になる子どもがあるという。

 彼女の母親が興味深い話をきかせてくれた。マチルドとその両親は、たいへん家族仲がよいことで評判であるが、実は血はつながっていないらしい。すなわち、マチルドは二人の実の子ではないというのである。

 彼女は20年前の大戦のおり、ふらふらとさまよっているところを二人に保護された。二人は彼女を養女として迎え、マチルドも二人を実の両親と慕った。彼女は大戦前の事を何も覚えていない――ただひとつの例外を除いて。獣人との血戦という場所に放り出されて、その衝撃を経てなお記憶の底に残るもの、それはある男の子の名前なのだという。何という名前なのかまではさすがに聞かせてくれなかったが。

 「彼」が何者なのかは当のマチルドにもわからない。彼女の親友か、あるいは兄弟なのだろう。戦場で生き別れたのなら死んでいる可能性が高い。だが万が一、彼が生きのびているなら、ヴァナ・ディールのどこかで、彼女のことを思い出したりすることがあるのだろうか。もう死んだものとして思い出に封印してはいないだろうか。二人が出会い、お互いの無事を知って、旧交を温める日が果たして訪れるのだろうか。

マチルド

 私は鎮痛な面持ちで表へ出た。

 ホームポイント近くのアーチを潜り、砂丘の方へ一歩踏み出すと、私を走り抜いておきながら、あっと声を上げて駆け戻ってくるタルタル氏がいた。この人は
Xerox(ゼロックス)と言う。奇しくもPivoと同じ立場の知り合いである。こういう出会いが一日に二度あるというのも実に不思議な縁だと思う。

 彼がサンドリアでしばらく合成の練習をするのだ、と言うので、そこまでご一緒させて頂いた。Xeroxは私を想像通りの人物だ、と言う。おそらくまじめで堅物だという印象なのだと思うが、私はけっこういい加減な性格だし、冗談好きでもある。だがこの辺りをくどくどと説明するのも馬鹿らしい。だいたい、明るいから話しかけて下さい、などという人間に限って性格が暗かったりする。余計に言葉を重ねると墓穴を掘ることになる。不覚にも私は半分掘ってしまった。ええ、ガルカが墓に入っていったい何とするものぞ。

 Xeroxのおかげで無事にロンフォールへ着いた(Solと同じく彼は熟練の冒険者である)が、どうせだからサンドリア門まで一緒に行くことにした。彼とも友情の誓いを交わしておいた。今度こそしっかりと碑文の内容を書き留める。その71の後半は、Xeroxの協力がなければ決して書けなかった部分である。改めて彼に感謝の意を表したい。

 

解説

フレンド登録について
オープニングムービーについて


 文中で「友情の誓いを交わした」とあるのは、フレンド登録した、ということを意味しています。

 フレンド登録は、FF11の親コンテンツである「プレイオンライン」の機能です。実はゲーム上ではそれほど大きな意味を持ちません。登録をしたもの同士はフレンドリストに載り、ログインやログアウト状況が確認できたり、メッセージのやりとりが出来たりしますが、ゲーム内のツールだけでもまずコミュニケーションに困ることはないので、傑出した特典が得られるわけではないのです。

 プレイオンラインのコンテンツが極端にFF11に偏っている現在、フレンド登録は精神的な意味合いが大きいものとなっています。お互いに特別な親しみを感じている、ということを表明する手段として実行する人が多いようです。サービス開始からしばらくは、組む仲間組む仲間フレンドにする、ということもわりあいあったようですが、「クラスメイトを片っ端から手帳に載せる」ような行為は、最近では減ってきたようです(のちのち名前を見ただけでは思い出せない人も多数出てくるのが現実です)。ちなみにフレンドリストの上限は200人だそうですが。

 Kiltrogも何人かの方と相互登録させて頂いてます。平均はわかりませんが、かなり少ない方ではあるでしょう(何せ、75回目でようやくこのシステムの解説が入るのです!)。上に登場する二人は、キャラクターより先にプレイヤーを知っている、という特殊なケースです。ルールに従って変名にはしていますが、あまり意味がないかもしれませんね。

 http://isweb36.infoseek.co.jp/play/uz_999/
 http://www5c.biglobe.ne.jp/~zax/

 
 なお、このマチルドという婦人は、FF11のオープニング・ムービーに登場する少女のようです。この映像は、FF11のロード前にしか流れませんが、ディスク本体に入ってますのでいつでも見ることができます(注:他の多くのゲームと違い、FF11のデータはハードディスクに収録されるので、インストール後はディスクを挿入することなくプレイできます)。

 人類の町がクリスタル戦争で陥落。少年は姉を戦火で失い、冒険者として仲間とともに戻ってくる、というのがオープニングムービーの概要ですが、これがどこの町か、など詳しいことは伏せられ、プレイヤーの想像に任されています。ちなみに少年は「アルド」という名前です。『キルトログ記』にもいずれ出てくるかもしれません(少なくとも現在は未登場です)。

 少年はムービー中では主人公っぽい扱い方をされていますが、映像からすると戦争当時6〜8歳くらい、20年後の現在は20歳後半といったところでしょう。話や設定が大人びているところを考えると、これが何となくプレイヤーの対象年齢を暗示しているようで興味深いところです。

(02.10.27)
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