その76

キルトログ、ツェールン鉱山の大掃除をする
ツェールン鉱山(Zeruhn Mines)
 近年発見され、バストゥークから直接掘り進められた鉱山。
 ガルカ族が得意とする冶金術、ダーク鉱の材料である黒鉄鋼が発見されており、町中にあることもあって、最近、開発が盛んな鉱山である。
(ヴァナ・ディール観光ガイドより)
 ツェールン鉱山で働く鉱夫たちから、中にいるモンスターを退治してくれという依頼を受けた。安全性ではさして問題はないが、気が散って仕事の能率が落ちるのだという。
 驚いたことに国は対策を講じないらしい。現場の努力が足りないとでも言いたげである。以前なかに入ったことがあった。働いている夫に手紙を届けてほしい、と奥さんに頼まれたのだが、そのときあまりの環境の劣悪さに言葉を失ったものだった。今回の依頼も有志が金を寄り集め、冒険者を個人的に雇うものである。政府の保証があって然るべきだと自分は思うのだが、経済効率の前にはあらゆる問題が無視される。それがこの国の悪しき風潮の一つである。


 鉱山自体にさしたる危険はない。獣人がいないからだ。モンスターはコウモリ類(単体で飛ぶ種、群れをなす種)、回虫、場所によってカニやひるの類が出る。鉱山で恐れるべきは落盤だが、近頃その手の事故があったという話はきかない。ただしタルタルも通れないほど小さな穴を残し、事実上の行き止まりになっている坑道はパルブロなどでも時にみかける。

 鉱山の入り口は鉱山区の西側に開いている。中に進んで右、すなわち北側には、きっちりと区画された四角い部屋が並ぶ。おそらくは採掘品置き場だろう。興味深いのは西の突き当たりにある柵格子である。扉の向こうは
コロロカの洞門と名づけられた洞窟で、地下水脈がこうこうと音をたてている。ここにいる衛兵は頑固に誰も通そうとしない。いわば開かずの格子だ。この水脈はパルブロ鉱山から繋がっていて、以前は掘り出されたミスリルを流れに乗せて運搬していたらしい。パルブロがクゥダフに占拠されてのち閉じられることになった。獣人が襲撃してくる可能性にもかかわらず、完全に潰してしまわないのは、鉱山の奪還を将来的に見越してのことだろうか。彼らに言わせればそれもまた経済効率なのだろう(注1)

 北を見回っていると邪魔者扱いを受けるので、坑道に沿って南下する。すぐにひときわ大きく開けた場所に出る。広すぎて向こうの壁がまったく見えない。

 いったい鉱山内では時間の推移がわかりにくいが、どこからか光が射すものとみえて、昼になると黄色い砂塵が空気中を漂うのが確認できる。これではたとえガルカであろうと肺を病んでしまうだろう。夜になれば闇が本来の色に戻るが、ほこりの比率が下がっているわけではない。ただし見えなくなるので、懸念しても仕方がない環境の悪さを忘れておくことができる――少なくとも半日の間だけは。

ほこりまみれの闇 砂塵の舞う昼のツェールン鉱山
つるはしを振う鉱夫のガルカ ガルカが坑道を掘り進む

 モンスターは次から次から湧き出てきりがない。私の仕事は、奴らの身体に時にこびりついている、ツェールンの煤(すす)と呼ばれる発火性物質を3つ集めることである。これは退治を怠けなかった証拠となるものだ。

 坑道の南の果てには水たまりがある。水脈に繋がったので掘るのを諦めたのだろう。脇道の突き当たりでは、ガルカとヒュームの鉱夫が、ランタンの灯りだけを頼りに、壁にむかって一心につるはしを振っている。怠けている鉱夫も珍しくない。鉱山のことはよくわからないが、規模からすると鉱夫全体の人数が少ないように思える。採掘がさかんだと聞いてはいたものの、もしかしたら以前ほど旨みのある産業ではなくなってしまっているのかもしれない。

 煤を三つ集めるのは他愛もなかった。報酬としてささやかな賃金を得た。気楽でいいのだがこの中の敵は練習相手にもならない。ただ新米の冒険者が腕をならすには丁度いい。最初のうちはよい稼ぎにもなろうから、私がここで去っても、モンスターの退治手がいなくなるということはまず当分ないであろう。


注1
「コロロカの洞門は、ガルカの故郷ゼプウェル島に通じているという。蟻獣人に追われ大陸に渡ってきたガルカが辿った道なのだが、この洞窟内でも多数の死者が出たと伝えられている」
(Kiltrog談)


(02.10.30)
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