その77 キルトログ、白魔道士としてコンシュタットに出撃する 魔法使いとしてできそこないである、という自覚は常にある。私の脳みその力では、仲間一人を回復させるのがせいぜいだし、しかも長くは続かない。パーティで俗に言う、「ケアルタンク(貯蔵器)」には決してなれない――「ケアルを使うタンク(戦車)」にはなれるかもしれないが。 だが誘われた。しかも本格的な6人編成である。いろいろ不安もあるがやってみないことには仕方がない。しかもガルカの白魔道士と確かめてからのお誘いだったので、感謝の意味も込めて参加することにした。 順番でいうと私は4人目だった。メンバーは以下の通りである。 ヒュームのCoolblue(クールブルー)。赤魔道士11レベル。折れた竿の修復方法を気にしていたので、後で釣竿をあげる約束をした(私は釣りの腕を鍛える時間がないのである)。パーティのリーダー。 ガルカのMars(マルス)。モンク11レベル。考えてみれば同族の人と組むのは初めてである。 ミスラのMazarine(マザリン)。白魔道士10、黒魔道士5レベル。私をパーティに誘ったのは彼女。どうやら交渉役を担っていたようだ。 北グスタベルグへ抜けたのち、MazarineがヒュームのSamonji(サモンジ)(詩人11、戦士5レベル)をスカウトしてきた。彼女が戦士を探しているうちに、新しい仲間と少し話をした。 彼らはどこへ出撃するのかを考えてなかった。CoolblueとMarsは、自ら初心者をもって任じている。経験の面からするとMazarineが頭ひとつ抜けているが、彼女はウィンダスから来て間がなく、どこに行くのがいいかを私に尋ねたくらいである。いま思えば私をバストゥーク人と勘違いしたのかもしれない。 Samonjiはコンシュタットがいいと言う。私もそれしか思いつかない。そのうちMazarineが戻って来て、くだんの高地に戦士がいる、と言ったので、みんなしてそちらへ走ることになった。いよいよ6人編成における白魔道士のデビューである。 参加してみて、不慣れなのは何も私だけではない、という事実に気がついた。 CoolblueとMarsの二人は、連携についての知識がなかった。概念から理解していないので、本来ならいちから順序だって説明するべきだが、その時間も余裕もなかった。教師が多く、めいめいいろんなことを言うので、彼らは混乱したに違いない。要点が伝わったのかどうかも正直疑問である。 もっと重要な問題が他にあった。私の魔力は貧弱で、ケアル2は2回しか唱えられない。たったそれだけで回復の術は尽きてしまう。確かにMazarineはいるが、都合の悪いことに彼女はレベル10であり、ケアル2を唱えるのにあと一歩足りない。6人で戦って歯ごたえのある敵――攻撃力も防御力も高い――が、ちまちまとしたケアルの回復でまかなえるような、貧弱なダメージしか与えない、ということはまず考えられない。 このレベルの6人に充分な経験が得られる敵は、コンシュタットにはいないかもしれない。だとしたら砂丘だが、こちらは逆に強すぎる。バストゥーク近辺はどうも11〜13レベルの冒険者に厳しい。これがタロンギなら、皆で迷わずダルメルを追い回すところなのだが。 ヒュームのMiyo(ミヨ)(戦士12、黒魔道士6)が加わった。幸い狩りはコンシュタットに始まり、コンシュタットで終わった。砂丘の話も出るには出たが、結局行くことはなかった。 私たちは移動しながら、マッド・シープやゴブリン連中を狩っていった。CoolblueもMarsもやはり調子をつかんでいないようで、連携を狙うのに悪戦苦闘していた。私はと言えば……いっぱいいっぱいだった。前衛がこれだけいるので、殴り合いに参加する必要はない。傍らで戦況を見守り、挑発が出来るせいで余計に傷を受けやすい、MiyoやSamonjiを重点的にケアする。何しろケアル2は2回だけである。唱えるとすぐMazarineにバトンタッチし、座り込んで魔力を回復して、いざという時に使えるようにまたケアル2の用意をしておく。 そのうちに拠点を決めようという話が出た。丘の上の岩壁に黒い洞窟が口を開けている。誰かが何の穴だと聞いた。私は答を知っていたが、素直に教えてよいかどうか躊躇した。Samonjiがその隙に話してしまった。 「中には石碑が立っているのです」
そう、グィアンハム・アイアンハートの碑文である。洞窟はすぐに行き止まり、暗闇にお馴染みのモニュメントが浮かび上がる。私もこの間、うろうろしていてこれを見つけた。粘土を置いてきたので写すのは無理だが、セルビナに向かう用事があれば、町長のところへ届けたいものである。 私たちはこの洞窟の前に陣取って、Samonjiが引っ張ってきたマッド・シープを片づけ続けた。その頃になると私もだいぶ落ち着き、余裕をもって戦況を眺めることができた。だがそういう時にこそ落とし穴があるものだ。私たちはこの羊を、特に厳しい相手でもないと軽んじ過ぎてしまったようだ。 我々はシープ・ソングでいっせいに眠り込んでしまった。睡眠は攻撃を受けたり、ケアルをかけられたりすればたやすく覚める。だがいま攻撃されているのはMiyoだった。彼女はすぐに起きたが、パーティに対して何ができよう? 一人で戦うには厳しい羊を相手にして、Miyoはあえなく倒れた。 我々が後で敵を八つ裂きにしたのは言うまでもない。 最後に、石碑の全文を紹介しよう。文面は、サンドリアとバストゥークが戦争状態にあった頃の、商業が果たした役割について説明する。もっとも戦争は続いているようなものだ――ずっと穏やかにはなったが。特にラテーヌからコンシュタットまでのザルクヘイム地方は、コンクエストにおいて、いまだクォン大陸にある両国の最激戦区であり続けている。 ちなみに、騎兵の力で大陸の大部分を制したサンドリアは、バストゥークの発明した火器「銃」の前に敗れ、ロンフォールへ撤退した(注1)。以来ザルクヘイムでの戦績がいつも頭一つおよばないのは、もしかしたら一種の伝統なのかもしれない。
そうそう、冒険が終わったのち、間違いなくCoolblueに釣竿を送ったこともついでに書き添えておく。 注1 「銃の登場は革命的だった。おそらく個人が持てる武器の中では、これ以上強力なものは生まれないのではと思う。 銃は見た目、引き金のついた鉄の細長い筒にしか見えない。これに弾丸(だんがん。俗にたまとも言う)と呼ばれる金属のかたまりを詰め込み、引き金をひいて、筒の奥にあらかじめ仕掛けた火薬に点火をする。弾丸は飛び出して筒先の延長上にいる獲物に命中する。その破壊力はすさまじく、至近距離で命中すればたちどころに命を失う。鎧を着ていようが着ていまいが問題にしないくらいの勢いだ。飛んでいる弾丸を肉眼で見ることは不可能で、通常は硝煙という火薬の煙が漂うのをただ確認するばかりである。 銃を従来の武器にあてはめるなら、弓矢の種類に属すると思う。少なくとも両者は、多くの根本的違いこそあれ、武器を発射して遠隔の敵を狙うという点で一致している。バストゥークでは銃が大量生産され、優秀な冒険者のうちの希望者に、コンクエストの個人成績ポイントとひきかえに配布している。だがその強力さにもかかわらず、まだ銃が武器の主流となる時代は到来していない。なぜか? 銃には根本的弱点がある。コストだ。弾丸は高いうえに使い捨てであり、おそろしく金を食う(強力な弓矢と同一の問題である。この点でも銃と弓矢は共通する)。少なくとも科学が進み、弾丸を安価で供給する時代が到来しない限り、我々が剣と盾を捨てる日はまだ遠い。それがどのくらい未来のことかを断言するのは難しいが」 (Kiltrog談) (02.11.01)
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