その79

キルトログ、行方不明の親方、およびその犬を探す

 人間の世界には、死後も魂は不変であり、いずれまた人となって現世に戻ってくる、という思想がある。おそらく彼らにとって、ガルカが転生するという事実は非常に心強いものなのではあるまいか。

 以前私は、第二、第三の生が約束されている我が種族の死生観について語った。それはガルカをおのずと超然たる存在にする。だが我々も、やはり個体としての最後、自我の終焉である死を恐れる。その点では全く皆と平等だ。死は人類が未だ知らないものであり――そして、この先永遠に知ることのない唯一のものである。


 バストゥーク港区の、放棄された建設現場の近くで、行方不明の親方の話を聞いた。部下だったガルカの話によれば、親方はそう高齢でもなく、転生の旅に出るにはまだ早いはずだと言う。親方は懇意にしていた子どもにのみ行き先を告げていった。「北の山」である。子どもの言うには、親方の飼っていた犬がすぐ後を追ったそうだ。親方と忠犬は以来ようとして行方がわからないと言う。

 ガルカは死期が近づくと転生の旅に出る。死体を衆人に晒さず、ひっそりと現世から姿を消す。なぜそうするのかは私にもわからない。ただ、転生の様子を公に晒すべきではない、という価値観は確かにある。それが他の種族から、ガルカをさらに謎めいた存在にしているのは疑いない。

 鉱山区には年寄りが二人いる。一人は賢人で、語り部の亡きいま、事実上最も尊敬を集めているウェライだ。もう一人はその近くに住む
バベンという老人である。彼はウェライとは対象的で、嫌人癖があり、訪問者には誰であれ心を開こうとしない。果たしてどんな経験が彼をそうさせたのかわからないが、世界を拒絶する姿は、最年長のウィライよりよほど彼を年かさに見せている。

 遠くない将来、二人とも転生の旅に出ることだろう。それがいつか、どこへ行くのか、果たして彼らは知っているのだろうか。あるいはその時が来るまで、誰も知り得ないものなのかもしれない――ちょうど「死」そのものがそうであるように。

 
 親方の痕跡を求めて北の山へ上がった。とはいえ、初期開拓者の石碑を探索したおり、おおかた隅々まで見ている。私的には、これ以上新しい発見があるとは思えない。

 私の今のレベルでは、獣人たちにもほとんど襲われることはない。そうして頂点を目指すと、あっけなく石碑のもとへたどりついた。大きな山だとはもとから思ってなかったが、これほど規模が小さかったかと思うと随分あっけない感じがする。

 山頂で西にあった太陽はとっくに沈み、下山する頃には夜のとばりが下りていた。国の周辺であっても深夜には死霊がさまよう。サルタバルタで出会ったマジックト・ボーンズを思い出して頂ければいい。グスタベルグにも同種の骸骨が出るが、このゼーガムの丘では時に四つ足の生ける屍が見られる。みな
ブラック・ウルフと呼ぶ。大した強さではない。少なくとも14レベルの私なら目を閉じていても勝てる相手である。

 その妖怪を退治したさい、一匹が
犬の首輪をしていた。私でもじかに首に巻けそうなほど大きい。今回の依頼に何か関係がありそうと言えばそれくらいのものだ。

 私はそれを港区のガルカのもとへ持ち帰った。

死体(二度目の) ブラックウルフが横たわる

 彼は目を見張った。犬の話はすでに聞いていたらしい。そのブラック・ウルフは、親方の忠犬が死んだのに間違いないという。そうとも限らないのではないか、と私は思ったが、彼はひとりで納得してしまったようだ。確かに私も、あの山で犬が一匹生きのびられるとは思わないが。

 「もしかしたら、もう親方も……」

 彼は口をつぐんだ。そして、その不安を打ち消すように、転生の旅路に出て、無事に新しい生を得たに違いない、と続けた。私にというより、自分に言い聞かせているかのような口調だった。

 彼はぼた山の方を眺めやり、ただ一つの心残りを吐露した。

「終わらせてやりたかったよなあ、この仕事」

 私はこの技師から、
グスゲン鉱山の地図を頂いて工事現場を離れた。

(02.11.03)
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