その80

キルトログ、Leeshaとコンシュタットで狩りをする


「え〜戦士、戦士のごいりようはありませんか〜」

 ご丁寧にも、コンシュタットで戦う私の耳に直接、それが聞こえてきた。お馴染みLeeshaの声である。
「まにあってます」
 私が苦笑しながらこう答えると、彼女は実に悲しそうな返事をした。

 そのとき私は絶好調だった。14レベルに上がったばかりである。周囲の敵と均衡がとれ、一人で相手をした場合、羊もとかげも丁度よい強さだった。強すぎも弱すぎもしないので、狩りは順調に進み、目的の15レベルにはすぐ到達できるだろうと思われた。

 ただし、調子の良さゆえに上のような返事をしたわけではない。彼女のレベルが不明だったからだ(注1)。私と近後で確認したらLeeshaは15レベル(サポートは白7レベル)だった。それなら私とひとつしか違わない。せっかく誘ってくれたことだし、遅れてこちらから声をかけて、一緒になってもらうことにした(後で聞くと私の名を見つけ、ラテーヌ高原からはるばる渡ってきたそうである)。


 前回Librossと組んで鍛錬したおり、私はレベル、パーティ構成、場所、敵の均衡が取れていることの重要さを思い知ったが、天秤棒がおもり一つで傾くように、そうした調和もまた、ささやかな違いでもろくも崩れ去った。

 私たちは二人で敵を探したが(そういえば彼女とはいつもコンビだ)、Leeshaとの1レベルの差が、思ったより大きく響いた。私にとって丁度いい敵が多い、とは先に述べたが、それは彼女には弱すぎた。二人でこれらを狙うにはあまりにも旨味に欠けたのである。

 同じ種類の敵でも強さは個体差が大きい。だからレベルの高いものになれば、二人で相手するのにふさわしいのだが、そんなのは数が限られた。彼女には挑発は――やむを得ない場合を除いて――なるべく使わないでほしい、と頼んだ(理由は繰り返さない)。彼女は忠実に守った。コンビネーションは問題じゃなかったと思う。3度以上も組んだのはDeniss以外にまず例がない。連携がとれていてむしろ当然である。

 戦士と白魔道士。物理攻撃と魔法防御。サポートジョブの効能から、どちらもケアルが使えるので、一方が眠り込んでしまっても、お互いをすぐに起こすことができる。組み合わせは理想的だ――机の上では。だが実際には、肝心の羊が弱すぎたため、相手をすることはほとんどなかった。せっかく彼女がはるばる来たのに、と思うと実に私は歯がゆかった。

 救われたのはLeeshaが楽天的だったことである。少なくとも表面上はそうであった。座って回復しているとき、

「ああ、これがオーディン風ですねー」

と言った。草いきれが散り、切れ葉が舞い上がる。風車が音を立てて重々しく回転する。ローブが風ではためくなか、私はバルクルムに足を延ばしてみようか、と思い、おおまかな計画を立てた。


 結局私は彼女を砂丘へ連れて行った。私の嫌いな砂丘へだ。確かに強敵が多いけれども、入り口から離れず、敵を選んで戦えば充分やれる、と思った。今思えば功を焦っていたのだろう。

 案の定、私は間違っていた。

 相手を選ぶには、相手より優位に立っていなければならない。我々は危うかった。回復はケアル2がわずか2発と、ケアルが数回だけ。その後は……ない。かろうじて一度だけ女神にすがれるのみである。その中からもケアルは差し引く必要があった。この魔法の効き目は軟膏並みである。ケアルを唱えれば今死ぬことはないが、1分後に先延ばしされた運命を避けることはできない。

 ゴブリンたちは我々の事情を理解してはくれない。たとえ入り口の近くだろうと、強いやつは強いし、弱いやつは弱い。どちらか一方なら可愛げがあるが、厄介なのは両方が、時として同時に襲いかかってくることだ。Leeshaがやられた。彼女はラテーヌへ復活し、私に言ったことが嘘でないことを証明した。私は逃げ出した。親切なパーティが武器を振るってくれ、事なきを得たが、ただちに駆け戻る、というLeeshaの言葉をそのままにはしておけない。私は周囲を見回し、万全の注意を払ってラテーヌ高原へ向かって走り出した。

 グールがよく出るという噂の林の近くで彼女と合流した。二人ともへとへとに疲れていた。どうします、というLeeshaの問いに、しばらく考えて、もう今日は鍛錬をおしまいにする、と断言した。「じゃあ送りましょう」と言って彼女はきびすを返したけれど、それをおしとどめて、高原側へ行くから、と告げた。鍛錬するなら無理にコンシュに戻らずともよい。レベル的には似たような場所だし、こと大羊の問題を考えれば、やたら広いラテーヌの方が遭遇する可能性ははるかに低い。ただバストゥークに改めて戻るのが骨というだけだ。

 何だかすまなさそうな顔のLeeshaと別れて、私は北を目指した。大雨の中を野宿し、起きだしてのち、オークやグラス・ファンガーを平らげた。そこから先は一人である。時間こそかかったが、確実に前に進んでいる実感があった。そうすると単調さは気にならないものだ。
 長き鍛錬を経て、私は目標の15レベルに達した。

 これで白魔道士も一段落だ、と思うと、肩の荷が下りたような気がした。これよりは晴れて戦士に戻り、かねてから引き受けていたミッションの達成に邁進する予定である。

解説

個人情報の非公開化について

 プレイヤーが望めば、ジョブやレベル、種族などの情報を隠すことができます(名前が青色表記になります)。この状態のキャラクターは、直接「調べる」を実行されたり、サーチで閲覧されても、他のプレイヤーに情報が漏れることはありません。ただしキャラクターの外観が隠蔽されるわけではないので、種族などは見ただけでばれてしまいますが。

 お互いにレベルがわからないとパーティが組みにくいので、通常の場合プレイヤーは情報を隠しません。にもかかわらず随所で青い名前を見かけます。理由は様々ですが、最も多いのは、あまりにも高レベルのキャラクターが適正レベル以下の場所で活動しているケースです。青い名前を見かけたらまず40から50、あるいはそれ以上のレベルだと思って間違いないでしょう。

 ジョブによってはこの機能は重要です。特に白魔道士は、白魔道士であるというだけでいろんなところから声がかかります。パーティへの勧誘はもちろん、レイズ(死んだキャラクターをホームポイントに戻さず、その場で生き返らせる魔法)をかけてくれ、という要請など。頼みごとにもかかわらず中には非常識な態度の人もいるので、声をかけてもらいたくない時に情報をカットしておくのは有効な手段です。

 ゲームに慣れていないプレイヤーがこの機能を面白がって使うことがありますが、特別な理由がないときに情報を隠すのはお勧めしません。大勢の敵に囲まれたとき、まず周囲が助けてくれないからです。高レベルのキャラクターが、合成に使うアイテムを集めるために、モンスターを大量に倒しているんだ、と思われるのがおちです。特に最初のうちはスムーズに救援を呼ぶのは難しいので、最低でもレベル30を越えるまでは普通に公表しておくのが無難だと思います。

(02.10.06)
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