その87

キルトログ、レイズをかけられる



 私は宙に浮かんでいた。

 足元に目をやると、黒い巨体が地面にうつぶしていた。ぴくりとも動かない。傍らでもう一人のガルカが、すまなかった、申し訳ないといいながら、夜の帳のはぎれのようなコウモリを打ちのめし、生命の残り香に惹かれてやって来た、黄泉の戦士――すなわち、骸骨――どもを殴り続けていた。

 骨の砕ける音を聞きながら、私は、自分が死んだのだと悟った。これでもChrysalisのそばを離れなかったが、それでは充分でなかったらしい。気がついたら攻撃を食らっていた。何が引き金になったのかは今でもわからないけれど、雲霞(うんか)のようなコウモリの群れと、心なしか嬉々として鎌を振り下ろす骸骨、どちらかが私にとどめをさしたのだ……。この事実だけはかろうじて理解していた。

 自分の死骸を見下ろすのは不思議な体験といえる。これは真の死ではない。証拠に魂の尾はまだ繋がっている。私がその気になりさえすれば、ただちにでもホームポイントへ帰参できるのだが、Chrysalisはしばらく待て、と言った。蘇生魔法のレイズを使える人間を探すという。なるほどこれまではいざ知らず、シャクラミほどレベルの高い迷宮になると、高位魔法を使える冒険者も決して少なくないだろう。


コウモリが迫り来る!

 問題はそういう人物が近くを通るか、であったが、彼――あるいは私――は運がよかった。先だって我々と並んで進んでいた白魔道士のタルタル氏がいたのだ。我々の騒動の間にずいぶん距離をあけたのだが、なにしろ単身なので難儀をしたらしく、手ごわい敵にあって悲鳴をあげていた。すぐさまChrysalisがすっとんでいって助力をした。障害を片付けたあと、Chrysalisは彼に嘆願した。「レイズをお願いできますまいか」

 何か柔らかく暖かい光の毛布に包まれたあと、私は地面に再び立っていた。全身がひどく気だるかった。すかさずタルタル氏が回復魔法をかけたが、確かにそれが身体の隅々に行き渡り、血と肉を活性させたにもかかわらず、倦怠感は薄れなかった。それもそのはず、体力の限界値が落ちているのだった――いつもの4分の1ほどに。

 私は驚きの声をあげた。

 Chrysalisの説明によると、レイズによって復活した後は、しばらく虚弱状態が続くのだ、という。一定時間が立ちさえすれば、自然ともとの状態に戻る。だが厄介な問題があった。Chrysalisはウェンディゴの潜む繭を指さして、骸骨どもが持つ性質について私に語り始めた。

 骸骨姿の敵は、負の生命力にたいへん敏感である。体力を4分の1以上失った状態の人間を、奴らはすばやく感知して、通常なら考えられないような遠距離からいちもくさんに襲いかかってくる。従って他のモンスターとの戦闘中に体力を失うと、近くをさまよっていた死人に察知され、標的にされる危険性がある。むろん骸骨はすべからく生者を敵とみなすのだが、怪我人に関しては張り巡らされたアンテナがとりわけ敏感に反応するのだ。

 いま私は、体力の限界値が4分の1に落ちている。時間がたてば元に戻る。だがそれは限界値に関してであって、体力そのものは回復の対象にならない。つまり限界値100はいずれ400に戻るが、今たとえ体力が満タンであるとしても、体力100は結局100のままである。するとどういうことになるか。

 限界値400に体力が100、これは大怪我をしているも同然である。従って体力を直ちに満タン、ないしそれに近い状態にまで回復させねば、たちまち骸骨のターゲットとなるであろう。

 私は震え上がった。こんな危険な迷宮は一刻もはやく出たほうがよいと思った。幸いに出口が近かったので、タルタル氏に礼を言い、クロウラーを狙いに来ている冒険者連中をすり抜け、ブブリム半島から差し込む光の中へ飛び出していった。

 Chrysalisがくれたハイポーションのおかげで、幸い死人どもにまた襲われることはなかった。


 土壁の閉塞感から解放される気分は格別だった。荒涼としたブブリム半島であるが、今の我々、少なくとも私にとっては、たとえ雲を通してでも太陽が頭上にある、という事実が、とりわけありがたく思えた。

 どうせなら石碑を見に行きませんか、とChrysalisが誘った。それは東の果ての海岸沿いにあった。面白いことに、グインハムの石碑ではない。記述者はエニッド・アイアンハートとなっていて、日付からすると彼より若い親族――おそらく息子――と推測される。それを聞いてChrysalisはううむと唸った。もしかしたら、とある直感がひらめいた。この同じ空の下、まだ見ぬどこかで、アイアンハートの子孫が生き残っているかもしれない。それを聞いてChrysalisはまたううむと唸った。

 果たして、我々が大冒険家の一族に会う日は訪れるのだろうか。


 ここ、ブブリム半島の名物と言えば、現地のタルタル族がギブブ灯台と呼んでいて、名前の通り、実際に船乗りや漁師に利用されている、天然の奇岩群でしょう。

 塔のようにそびえたつ、ねじくれた奇岩には、天辺に巨大な鉱石の結晶体がはまっていて、夜になると怪しげな光で明滅します。

 一体、これは何なのでしょうか?

 私の考えではこうです。大昔、ここには硬くて軽くて純度の高い鉱石がありました。伝説のオリハルコンなのかもしれません。長い年月を経て、周囲の岩盤は侵食されましたが、鉱石とその成分を含んだ部分は、残りました。

 後に、タルタル族が魔法をかけ、灯台にしました。……それでも、謎は残ります。

 鉱石は、何故ここにあったのでしょう?

 天晶778年 エニッド・アイアンハート


解説

レイズについて

 レイズをかけて貰って復活するメリットは二つあります。

1)ホームポイントまで戻らなくて良い
2)失われる経験値が、ホームポイントに戻る場合より少なくてすむ

2に関してはメンテナンスで変更されている可能性があります。

 レイズをかけて貰うと瀕死の状態(HPがごくわずか)で復活します。文中にあるように、HPの限界値も落ちていますので、しばらく休み、虚弱状態を回復した方がよろしいでしょう。

 なお、白魔道士にレイズを頼む場合は、礼を失しないようにしましょう。白魔道士はジョブの性質上「レイズをかけてくれ」とやたらに頼まれるので大変なのです。中には非常識なプレイヤーもいて、遠く離れたエリアから呼びつけたり、「回復して貰う」立場とはとても思えない態度をとったりで、親切な白魔道士の人を泣かせています。逆に恩着せがましい白魔道士の人がいたりもするのですが、そこはプレイヤーの問題であって、ジョブの問題ではありません(メンテナンスが行われたのは、膨大なレイズ要請から白魔道士を救うためです)。
 こういったマナーは一般常識に基づくものです。くれぐれもご自分の良識に従って行動して下さい。

(02.11.27)
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