その91

キルトログ、Kewellとホルトト遺跡に潜る(1)


 ナナー・ミ
 
 ホルトト遺跡の隠し通路に入るたび、Bluezのことを思い出す。彼はこの通路の発見者――少なくとも私にとっての――であり、印象的な友人だった。彼がヴァナ・ディールにもういないようなのは寂しい。願わくば今すこし冒険がしたかった……せめて、この奥に何が待っているのか確認するくらいまでは。


 隠し通路の食えない部分は、途中で南に分岐する道を辿ると、敵が恐ろしく強くなる点である。当時はまるで歯が立たなかったかぶと虫、ビーディ・ビートルが這いまわっているのはこちらだ。地図を見ると綺麗な長方形の広間で行き止まりになっている。そこに何があるのかは、バストゥークの良き友人であり、先輩であるKewellが過去に確かめている。彼女は自らの死を以て、狡猾なゴブリンどもがうろついていることを確認し、自身の記録に書き残した。だが奴らが何を守っているかまでは結局見届けなかったようだ。

 Kewellがウィンダスを訪れ、単身で乗り込んで行ったとき、彼女はレベル20の戦士だった。今の私はそれより2レベルも上だ。今挑めば、きっと真相の全貌が掴めるに違いない。

 それが二人ならば、なおさらのことだ。


 そういうわけで、私はKewellに連絡を取り、一緒に遺跡の探索をする約束を取り付けた。Bluezの去った今、この洞窟に関して彼女よりふさわしい同行者はいないだろう。

 彼女とは古くからの知己同士だが、これまで共に行動した経験は少ない。随分久しぶりの顔合わせだった。残念ながらレベルが合わず、Kewellは27レベルのシーフとなったが、鍛錬ではないので気にしなくていい。幸い絶望的というほどの実力差でもない。

 私たちは緑色の暗闇へ降りていった。ゴブリンどもがひたりひたりと歩いているが、私たちの邪魔をするような度胸もない。

 あっけなく隠し通路の分岐点まで到達した。

 私は南の道の奥を指差した。かぶと虫の角が陥没した地面から覗いていた。愚かな昆虫だが、襲いかかるべきでない敵の分別はつくとみえて、私たちは難なく通り抜けた。コウモリとかぶと虫の巣窟となった道は、大きなカーブを描き、やがて緑色の光に包まれた城壁にぶつかった。おそらく地上の塔を支えている礎石なのだろう。その周辺で、多少は骨のあるゴブリンどもがうろついていた。

 そのときKewellがひとりの冒険者を見とめた。
 獣人をおびき寄せては退治している彼は、24レベルの白魔道士であったが、驚くことにサポートジョブをつけていなかった。Kewellは言った。
「こんなときに、こんなところでレベルを上げなくてもいいのに……」(注1)

 そして私に向かって、声をかけてみましょうか、と言った。迅速な行動は彼女の長所の一つだ。だが返事はなかったらしい。おそらく何か事情があるのだろう。一人で狩りをしている彼の邪魔をする権利はない。私たちは彼と離れて、城壁に空いた横道へと滑り込んだ。

 道がまっすぐに伸びて堂々とした石の大扉に突き当たっていた。扉はおおげさな音を立てて開いた。そこが大広間なのはすぐにわかった。広々とした空間で、向こうの壁面はぼんやりした薄闇に消えていた。左右に魔導器――例の祭壇――が立ち並び、その間をゴブリンが徘徊していた。このレベルでは強力なうちの一種、ゴブリン・マガーの姿さえあった。

 「全部楽(な相手)」

 Kewellがそう言うとき、強さの差を実感してしまう。ガルカの戦士である私と、エルヴァーンだがシーフである彼女は、体力こそたいして違わないのだが、確実に5レベルの差が存在している。私一人ではまだこのマガーには勝てぬ。一方彼女は楽に倒せる。

 扉がずずずと重々しい音を立てて開き、新しく二人の冒険者が入ってきた。先の白魔道士ではない。一人は匿名だが、もう一人は20数レベルの戦士であった。私たちは顔を見合わせ、何でこんなところにやってきたのだろう、という好奇の視線を――自分たちのことは棚に上げて――彼らに注いだ。私は少し落胆した。もしクエストか何かで先に行く用事があるのなら、未踏の地を調べるはずの私たちの探索も、いささか色あせたものになるかもしれない、と考えたからだ。

 そういう私たちの思いをよそに、彼らは武器を抜いて、人類共通の敵であるところの獣人たちと小競り合いを始めた。私たちも迫る火の粉は払った。二人なので、個々の敵は大したことなく倒せるものの、いかんせん狭いので、回復している内に次のゴブリンに襲われてしまう。

 匿名氏はさすがに堂々としたものだった。魔法使い、それも赤魔道士なのはすぐにわかった(エン系の魔法を使っていたからだ)。我々が少々てこずっていると、援助のケアルやらプロテスやらを傍らからかけてくれた。それに礼を返したりするうちに、話をするようになった。口火を切ったのはやはりKewellだった。


 4人の冒険者は暗い穴倉の中で対峙した。こんな場所に居合わせたという事実が、我々の間に奇妙な連帯感を生んでいた。

冒険者4人が対峙する

 戦士氏が口を開く。

「俺はクエストで来たんだ」

 肩を落としそうになったが、続く彼の言葉にて「特ダネを探しに来た」のだとわかった。彼はウィンダス人ではなかったから、なまじこれだけの強さになるまで編集長の依頼を受けず、本来なら危険だった筈の脇道を疑いもなく進んで来てしまったのだ。二人で話すと混乱するので、行き先が違う、という説明はKewellに任せた。一方匿名氏は、強い獣人の魔法使いが落とす巻物が目当てだったようだ。
「だから、ここである必要は特にないんだけど……」

 私たちは互いの健闘を祈り、手を振り合って別れた。戦士氏は扉から出て引き返し、匿名氏はまた周囲のゴブリンどもと遊戯のような戦闘を始めた。

 さて私たちは、地図上の最奥である広間にいたわけだが、松明の明かりに挟まれている大広間の西壁が、隠し扉であることは一目瞭然だった。あらかた片付けたはずの周囲にも、新しいゴブリンがすでに結集しつつあった。

「行きましょう!」

 Kewellの合図で私たちは駆け抜け、扉を潜り抜けた。重々しい音を立てて背後の壁が閉まる。
 目の前に続いているのは、一本の細い通路だった。その先には何が待っているのだろうか……。

注1
 この時は特にアクセス数の多い金曜日の夜だったので、バルクルム砂丘やジュノ周辺に行けば、パーティに入れてもらって効率のいいレベル上げが出来るのに、という意味。

(02.12.08)
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