その98

キルトログ、スターオニオンズの集会に三たび顔を出す


 冒険者として三国渡りをしている。そのうちにもう一国加わる予定である。ウィンダスにいられるのも期間が限られているので、帰郷した際には必ず、スターオニオンズの会合に顔を出しておこうと決めた。


 倉庫裏で会議が行われているのも相変わらずである。彼らは必ずここにいる。団長がまた拳を振りかざして新しい話をしている。小さい彼は壇上においてようやく私の目の高さにまで届くのである。

 泥棒ミスラがやって来たのだ、と彼は言った。どうやら前回の爆撃において――私は参加してないが――落っことした魔導球を返せ、と脅してきたらしい。あっぱれ団長どのは犯罪者の脅迫には屈しなかった。ナナー・ミーゴを見事に追い払ったのだが、改めて確認してみたならば、例の丸い戦利品がいずことも知れずなくなっている。これはミスラが盗んだものに違いない、と判断して、団長どのは魔導球奪回作戦をもくろんだようなのだ。


 目的よりはまず手段である。めいめい役に立つものを持ち寄れ、と彼は言う。団長はそれを七つ道具と名づけた(かっこいい!)。実際に七つあるかどうかはともかく、こういうのは名づけた者の勝ちである。虫めがね、糸電話、トンカチ、ランプなど、めいめいが思い思いの品物を思い描く。実用的な小道具ならいくらでも思いつくのだが、探偵用として適切なものがいまいち出てこない。そういう私を見てピチチちゃんが助け舟を出した。「うちのおかあさん」に相談したらきっとつけひげを作ってくれるよ。なるほどそれなら七つ道具に入れるだけの資格があるだろう。

 私がその話をすると、旅宿のおかみであるチャママは肩をすくめて、うちの娘がまたしょうがないことをばらしたね、という顔で、サルタ綿花を6つ持ってくれば作ってあげる、と言う。この植物はタロンギに広く分布している。胞子を周囲に撒き散らすので、同地のモンスターの身体から採取されることも多い。タロンギで敵と戦っていると自然に集まるもので、改めて出かけるまでもない。モグハウスにしまったサルタ綿花を集めてきた。おかみさんに渡したぶんを除いてもまだ3つばかり残っていた。

 おかみさんがカウンターの奥へ行ってちょいちょいと魔法をかけると、あっという間につけひげが出来上がった。それを手にすると滑稽な気分になる。いずれにせよこのひげをつけるのは私以外の誰かになるだろう。タルタルは歳を経ても容姿が変わらず、そればかりか言動まで変わらなかったりするから、ひげとか眼鏡などで変化をつけるのは大いに有効だと思う。同じタルタルであれば看破される可能性もぐっと増すが、別種族であれば区別は難しい。相手が名うての泥棒であっても立派に通用することと思う。


 だが結局、私のつけひげは使われることがなかった。ナナー・ミーゴの容疑が実にあっさり氷解したからである。

 団長どのはめいめい持ち寄った品物を提出させた。「ピチチちゃんはどう?」と最後に声をかける。このまだみんなよりずっと幼くて、のんびりした性格らしい娘が懐中から出したのは、きらきらと輝く宝珠のような玉であった。あ、と全員が声をあげる。これぞまさしくナナー・ミーゴの持っていた魔導球なのである。

 ピチチちゃんはどうも成り行きをよく把握してなかった様子だ。団長が品物を持ってこいというので、大切にしている魔導球を何気なく持参したのだ。皆がこれを探し出すのを目的としていることは理解していなかったらしい。彼女は気に入ったこの宝物が、何かの拍子で処分されてしまうのを恐れたのである。こういう動機に罪悪感のあろう筈がない。そもそも爆撃のさい、これを拾って持ち帰ったのは彼女なのであるから、所有権云々に関して咎められる筋合いはないのである(本来の持ち主が誰であるか、また誰が所有するべきかはまたぜんぜん別の問題だ)。


 かくして事件は解決した。団長どのも特に怒りもせず、あっけなく解散を伝えた。私としてはひげが使われなかったのが残念である。私がつけるのも悪くないかもしれないな、とふと思い返す。Chrysalisなぞは立派なひげの持ち主であるから、ガルカだからというのは理由にならない。つけてみれば案外似合うかもしれない。もっともただでさえ目立つ体だから、ひげ如きで人相を変えられるとはとても思えないのだが……。

(02.12.22)
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