その101

キルトログ、バタリア丘陵を横断する
バタリア丘陵(Batallia Downs)
 二十数年前、アルタナ連合軍と獣人連合軍との合戦『ジュノ攻防戦』が戦われた古戦場。
 至る所に築かれた土累跡が、当時の激戦を今に伝えている。
 北方に、アシャク山脈の切り立った崖がそびえたち、侵入者を防ぐと同時に冒険者を拒んでいる。
 また、東方にはジュノへ至る巨大な橋『工房橋』がかかっている。
 (ヴァナ・ディール観光ガイドより)
バタリア丘陵

 ジャグナー森林を抜けると、視界が突然に広くなった。これまでの樹木の密集が嘘のように見渡す限りの広野である。

 地図を開いて現在地を確認した。私が立っているのは南西の端である。道は大きく北へ迂回しながら、弓のようなカーブをえがき、南東へ抜けていく。
シューメヨ海を左手に臨む頃には、ジュノ大公国へと続く工房橋のたもとに立っている筈だ。

 私は我知らず気持ちの昂ぶるのを覚えた。


 左手に石塀が見える。長い年月を経てところどころ崩れ落ちており、その間から焚き火の明かりが漏れていた。それで今が夜なのだとようやく気が付いた。ジャグナーを明るい間に突破したのだから、勿論とっくに日が沈んでいるわけだ。危険を避けるため、私はここで立ち止まり、野宿することにした。

 古戦場の城跡で暖を取っているのはゴブリンである。近くに虎もいるようだ。それも二匹である。
サーベルトゥース・タイガー(剣歯虎)は、ジャグナーの親類が子猫同然に思えるような強敵である。むろんゴブリンどもも指先で私を倒せるような強さなのだ。

 東の空が白むころ、虎は姿を消していた。

 周囲に注意を払いながら歩き始めた。

 なだらかな稜線がコンシュタットを、崩れた城壁がラテーヌを思わせるわりには、バタリアはずっと寂莫とした印象である。ぽつりぽつりと間をあけて立つ小さな石柱、長い年月の間に役目を見失った防壁、苦痛に身を悶えるように曲がりくねった枯れ木以外に、大地を彩るものがないからだろう。身をつつむ朝霧は肌寒く、海から吹き付ける風は冷たく、ここが北の地であることを嫌でも強く思い起こさせる。

 敵の強さを考えれば恐ろしい場所だが、ジャグナーで感じたほどの圧迫感はない。開けたところだから、基本的に迂回がきくのだ。凱旋門のような遺跡を潜り抜けて南東に進路をとる。遺跡と言えば、バタリアには古代エルヴァーン族が築いた
エルディーム古墳が点在している。随所に開いた入り口には心動かされるが、今は先を急ぐべきだ。従ってまたこの中を探索した時に詳しい説明を行いたい。


 気付いたら、私は終点の目前にいた。後に知ったのだが、バタリアはこの界隈のエリアではかなり狭い方なのだと言う。あっけなく思われるかもしれないが、私の鎧の下は冷たい汗でぐっしょりと湿っていた。

 遂に門へとたどり着いた。工房橋が東へ向かって伸びており、霞の向こうに屋根が連なっている。橋は南へも続いているが、こちらは
ロランベリー耕地の方向だ。時に冒険者の群れが東から駆け出てきて、南へと折れ曲がっていく。私が未だ知らぬ怪物どもを狩り出しに行くのであろう。

 私は深呼吸して東への道を辿った。ジュノ大公国は、また一人の冒険者を迎え入れるのだ……。

(03.01.12)
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