その103

キルトログ、ジュノの街を歩く

 かねてから、ジュノには冒険者が多い、と聞いていた。だが正直これほどとは思わなかった。どこへ行ってもすし詰めになるほどの盛況ぶりである。これに比べれば、南サンドリアの競売所前、バストゥーク商業区噴水広場の混雑なんか、休日の朝のそれに思えるほどだ。

ジュノ下層

 私はバストゥークこそ冒険者時代の象徴だと思っていたが、考えを少々改めねばなるまい。象徴的なことに、ジュノは両大陸の中間、すなわち世界の中心地にある。そして国家は――この国を訪れる者同様に――若い。我々が歴史を作る! コンクエストに縁遠いにもかかわらず、ジュノはまさしく冒険者の国なのである。


 大公国の歴史は100年にも満たない(注1)。80年前、大陸間を繋ぐ橋の遺跡の上に、漁師たちが集まってできた集落が母体である。以後、大陸間経済の中継地として重要度を増し、人口を増やした。わずか半世紀そこそこで人類軍を率いるまでになったのだから、いかに急速な発展を遂げたかがわかるだろう。

 この国では――冒険者は言うに及ばず――人種が雑多に入り混じっている。一般にヒュームが中心と言われるが、そもそも彼らは種族人口が多いのだからこれは当然だ。白銀の鎧を着た親衛隊の顔ぶれは様々である。ヒューム、エルヴァーン、タルタル、ミスラ、ガルカ。先住民の伝統がないも同然なので、バストゥークのような種族同士の軋轢がまだ生まれてないのだろう。

 ジュノ文化は混沌としている。成熟するのに80年はあまりに短い。風俗と伝統は、移民たちによって世界各地から持ち寄られた。地理面に限らず、歴史面でも。有史以前の過去と、現在と、未来が混ざり合う都市。遺跡の利用や飛空艇の復活――古代人の技術が、最新科学として生きているのだ。何とも魅力的ではないか。

 爛熟を示した分野が相互に影響を与え合うことによって、新しい可能性が生まれる。混沌は理想的な土壌だ。この国では何かが芽生えつつある。人によってはそう見えないかもしれない。石造りの街並は雄大であり、あまりにも整然としているので、混沌とは無縁のように感じるかもしれない。だがこの街の活気に触れたいま、私はそれが表面的なものに過ぎないとほぼ確信している。

 ジュノの建築様式だが、無駄のない直線主体のフォルムは、技巧ばかりが強調されていて、個人的にはあまり好感が持てない。それでも人類の――古代人と現代人の――叡智の結晶である。温かみを欠く都市は、温かみを欠くが故に崇高である。その姿は荘厳なまでに美しい。


 ジュノは全部で4層に分かれている。

 最上層は、各国大使館と大公邸が集まるル・ルデの庭である。これは、ヘブンズ・ブリッジの柱の天辺に相当する。正方形ないし正円に近いエリアだが、階段が縦横に走っているので窮屈な感じはない。全体的に、この街では縦の空間がうまく利用されている。狭いスペースを有効に使う工夫なのであろう。
 いささか驚くことに、大公邸は一般客の見学が認められている。臨むなら食堂や寝室すら入ることができる。もっとも親衛隊や給仕の話によると、政務に忙しい大公が、施設を利用しに訪れることは滅多にないそうなのだが。

 現在の大公は、カムラナートという名前のヒュームである。エルドナーシュという弟を持つ。兄弟そろって才気煥発、学者が舌を巻く博学を誇り、その分野は多岐にわたる。ル・ルデの庭の設計も彼らによるものらしいが、これは大公兄弟の多芸多才ぶりを示すほんの一例に過ぎない。


ル・ルデの庭

 ル・ルデの庭を頂点とする柱は、三本の橋桁を中継している。

 バタリア丘陵から柱までの通路(北西から南東に走る)がジュノ上層。柱からロランベリー耕地、すなわちバタリア丘陵南方までの通路(北東から南西に走る)がジュノ下層、柱からソロムグ原野、すなわちメリファト山地北方までの通路(西から東へ走る)がジュノ港。ル・ルデより下の三層においては、柱の部分が冒険者用居住地(モグハウス)にあてられている。

 ジュノ上層と下層には商店が建ち並ぶ。武器や防具などを扱う、比較的大きな商店は上層に、雑貨などを扱う小口の商店は下層に多いようだ。あくまでもこれは傾向に過ぎない。例えばヴァナ・ディール各地方の特産品を扱う自由商人たちは、上層にも下層にもおり、立ちんぼうで商いをしている。上層では食事の支度のため、各地特産品を買いあさる婦人の姿を見ることができるだろう。

 三国では、特産品の入荷はコンクエストの結果に大きな影響を受ける。自由商人は、所属国の支配地域以外の品物を輸入することができない。ジュノはこの協定外にあるので、各地特産品が漏れなく販売されている。ここでは金さえ出せば、ほとんど何でも手に入るのである。

 ジュノ下層では、冒険者の売り買いが盛んなようだ。競売所がある上に、上層より通路が直線的で、バザーがやりやすいからだろう。
 ただし現在では、常駐しているバザー商人は、全盛期に比べてぐっと少なくなっている。混雑緩和を目的として、バザーに関税を施す条例が施行されたからである。さすがに全滅というわけにはいかず、商魂逞しい人々は相変わらず座り込んで商いを続けている。だが、私のように施行後に訪れた者にとっては、圧倒的な人の波を前にして、これでも人間が少なくなったのだ、という事実を理解することはなかなか難しい。

 ジュノ港には飛空艇会社の本社があり、各国に定期便が飛んでいる。飛空艇パスは商工会議所で売られている。価格は50万ギルだ……50万ギル!
 何でも手に入るのは確かなようだが、金が払えるかどうかはまた別の問題である。

注1
「今年は天晶暦883年である。グィンハム・アイアンハートの出発は748年、従って彼の時代にジュノは存在すらしてなかったことになる」
(Kiltrog談)

*設定に従い、「現在=クリスタル戦争の20年後」としています。
(03.01.21)
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