その104 キルトログ、クフィム島で戦う 大陸間にあるというその構造上、ジュノからは実にいろいろな場所へ足を運ぶことが出来る。徒歩で行けるところに限ったとしても、バタリア丘陵、ロランベリー耕地、ソロムグ原野、クフィム島、と四箇所もある。とりわけクフィム島は大人気で、24レベル程度――すなわち私――辺りのランクの冒険者が、好んで狩りに出かける場所としてつとに有名である。 クフィムはジュノの北方、シェーメヨ海沖合いに浮かぶ小さな三日月形の島である。コンクエスト対象地であり、おそらくは離島という地理条件のせいで、クォン側のノルバレンにも、ミンダルシア側のアラゴーニュにも組み入れられず、独立した地域として扱われる。何しろ島ひとつであり、その中でも実際に歩ける場所はごく僅かであるから、クフィム「地方」と呼ぶ事すらはばかられるくらいだ。 島の土壌は貧弱で、生産物は期待できない。地下資源が埋まっているという話も聞かない。従って、領土確保による経済的な見返りはまるでない。ただ狭くても「一票」には違いないから、コンクエストの駆け引きを考えれば、要地ということも出来るかもしれない。 ただその一方で、生物学、地質学、気象学――要するに、金にならない学問――の対象としての価値は計り知れない。現時点で詳細は不明だが、デルクフの塔という謎の建造物もあるようだから、歴史考古学の分野でも収穫がありそうだ。前述したように、鍛錬をもくろむ冒険者には絶好の狩場でもある。この両方の特質を持つクフィムに、私が強く心惹かれるのは当然かもしれない。 パーティの参加希望の意志表示をして、24レベルのまま街をうろついていたら、思いがけず早々とお誘いがあった。 ジュノではパーティ参加を募集する冒険者が大勢いる。とりわけ戦士は、どのレベル帯でもだぶついているので、声がかからないままに数日を過ごすこともあり得ると言う。私は幸運であった。タルタルのKarpin(カルピン)(赤魔道士24、黒魔道士12)には、深く感謝しなくてはいけないだろう。 私はジュノ上層にいたのであるが、港まで下りてくれと頼まれた(もっとも出発直前に思い出して、再び最上階のル・ルデの庭まで上がり、大使館でシグネットをかけて貰わねばならなかったが)。港からは海底洞窟を通り、クフィム島まで徒歩で上陸することができる。初めてのジュノでの狩り、それも未知の土地。無性に心が躍ってやまない。考えてみれば、フルパーティを組むのも随分久しぶりだ。戦士にジョブを戻した直後が最後だから、これまでの間ほとんど一人で鍛錬を続けてきたことになる。 島に通じるゲートの前には、立錐の余地もないほど冒険者がひしめき合っていた。この人間の多さは、クフィムの狩場としての人気ぶりを証明している。けれども、身も蓋もないことを言ってしまえば、この国はどこへ行ってもこんなふうであって、さして驚くにはあたらない。混雑をあまり好まぬ私だが、毎日のことでさすがにもう慣れてしまった。 Karpinと一緒にいたのは、魔道士の二人組である。 エルヴァーンのBuzz(バズ)。黒魔道士23、白魔道士11。 ヒュームのJude(ジュード)。白魔道士23、暗黒騎士11。 Karpinの呼び込みによって、さらに二人が加わった。 ミスラのCornell(コーネル)。シーフ23、戦士11。 エルヴァーンのShoot(シュート)。赤魔道士22、戦士11。 人類5種族をすべて含むバランスのよい構成である。ただし純粋な前衛職は私一人であって、ジョブ面でも釣り合いがとれているかは少々疑問ではあるが……。 ジュノ港の階段を下りると、そこはもうクフィムの一部である。地図(3000ギルもした)を広げると、海底洞窟はまっすぐ北へと続き、ほどなく本島へと繋がっているようだ。 足元には雪が積もっており、既に硬くなって岩の表面にへばりついている。確かにクフィムは極地に近いが、ジュノから外へ出た途端に銀世界が広がるのは少々極端に思える。おそらく海流(寒流)の影響をもろに受けているのだろう。空気は身を切るような冷たさである。深呼吸をするたび鼻孔が凍るような心地がするし、厚いグローブやシューズに守られながらも、手先足先がじんじんと痺れを訴える。 洞窟の傍らには、白い色の岩が剥き出しになっており、通路と並行に本島へ向けて走っている。一見したところ雪と間違いそうだが、象牙のような不思議な光沢は独特のものだ。デム・ホラ・メアの三奇岩と同じ岩である。これがなぜここにあるのか――答は先にある。仲間は一心不乱に北へ北へと駆ける。置いていかれないように、私もせいぜい足を動かす。いたるところで冒険者たちの激戦が繰り広げられるなか、我々はひたすらデルクフの塔の入り口めざして走り続ける。
塔はクフィム北西の端にある。私たちは入り口を避け、デルクフの脇に陣を張った。 この島は白い雪と、黒檀のような岩肌と、灰色の空という、くすんだ色に支配されているが、デルクフの壁は、どことなく温かみを感じさせるクリーム色をしている。現在の技術では、このような巨大なモニュメントを、壁に継ぎ目ひとつつけずに建造することは不可能である。 古代人……謎の遺跡には必ず彼らの影がつきまとう。人類の文明は進化を続けているが、有史以前に滅んだ先住民の科学には遠く及ばない。技術を越えられないばかりか、我々は遺跡の数々が、いったい何のために建設されたのかですら全然理解できてないありさまだ。 我々は連携の順序を決めた。挑発の出来る私、Cornell、Shootが前衛に立つ。格闘武器によるCornellのコンボ、片手剣でのShootのレッドロータス、私のレイジングアクス、という順である。しばらく試して調子は悪くなかったが、のちにShootの提案で順序を逆に入れ換え、私が連携の口火を切ることになった。 (ラファールアクスという技を新たに覚えたのだが、後が繋がらないということで、お披露目の機会はなかった。どうも名前からすると風属性の技のようなのだが……(注1)) 敵は主に、海岸に生息する蟹(このような極寒の地に生息するとは!)や魚、すなわちクリッパーとグレーター・プギルである。前者は軟弱で、後者は少々手ごわかったが、次々とCornellが引っ張ってきてくれるので、リズムよく経験を蓄積できた。KarpinやJudeは時間にも気を配っていて、ワイトの涌き出る20時以降にはすかさず注意をうながす。時に厚い雲の間から寒雷が轟くと、サンダー・エレメンタルに気をつけろと教えたりして抜け目がない。 クフィムには獣人はいない。あの、何処にでも鼻づらを突っ込むゴブリンですら姿を見かけない。代わりにダルメルほどの身長を誇る、巨人(ギガース)族が生息し、島中を歩き回って犠牲者を探し求めている。 巨人の容姿は――魯鈍そうな点も含めて――オークの一種に酷似している。血色の悪い黄緑色の肌。肩幅が広く、筋骨隆々ではあるが、栄養が足りてないのか、ひどく痩せてあばら骨が浮き出ている。下半身はガルカの私から見ても貧弱そのもの。着衣は腰布と、せいぜいリストバンドくらい。戦い方は野蛮で、憎悪を剥き出しにしたまま、小柄なヒュームくらい握り潰してジュースに出来そうなほどの怪力で、手近な岩をちぎっては投げ、ちぎっては投げして襲いかかってくる。
巨人は獣人の亜種――あるいはその逆――なのかもしれない。文化程度は相当低いようだが、ジャイアント・レンジャーやジャイアント・ハンターなど、大雑把ながらジョブを思わせる役割分担ができているようだ。 奴らは恐ろしい敵だが、いかんせん脳みそが小さいので、魔法使いには簡単に手玉に取られる。睡眠を誘う魔法スリプルにあっさりかかってしまうのだ。獲物を挑発してくるさい、Cornellが巨人に絡まれる場面もあったが、そんな時はBuzzが歩いていって、一声で眠らせてしまう。巨人が微動だにせず、氷の上に立ち尽くしたまま、いびきをかく光景は滑稽である。その眼前に、JudeやKarpinが平気で座り込み、回復をはかっている。それを見て私は思わず失笑してしまうのであった。 狩りは数日間続いた。実りが多く、全員がレベルを上げた。24レベルに上がった直後に上京し、たいした戦闘をしてなかった私も例外ではない。事情があったとはいえ、これまで単身レベルを上げていた頃からすると、驚異的な成長スピードである。皆がジュノに来て、仲間を探したがるのも、よくわかるような気がする。 注1 Rafale(ラファール)はフランス語で「疾風」の意。 (03.01.29)
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