その106

キルトログ、チョコボに乗る


 手に持った免許証をしげしげと眺めながら、私はジュノ港までくだり、飛空艇発着場の間にある地下階段をおりていった。

【有効期限:死ぬまで】

 ここはチョコボ厩舎である。ジュノには三箇所に厩舎がある。ブルータス氏の姿はない(私の師匠は上層厩舎の担当だ)。
 厩舎には数羽のチョコボが、いつでも出発できるように常駐している。レンタル料を払うとチョコボに乗ることが出来る。期限は、乗ってから下りるまで。あるいは半日(注1)。延滞はない。チョコボたちは、一度鞍を下りるか、または時間が来ると、乗り手を振り落として厩舎に帰って来てしまう。時計も持たない鳥が、どうやって正確に時間を計り、1秒の狂いもなく戻って来られるのかは、ヴァナ・ディールのちょっとした謎となっている。


 交通網の発達した現在、レンタル料金はまあ良心的だ。私が借りた時は270ギルした。さほど懐は痛まないが、毎日なら勘弁して欲しいというくらいの値段である。だが何ぶん初めてのことなので、これが相場より高いのか低いのかはよくわからない。

 料金は固定制ではなく、二つの要素によって変動する。その一つは客の多寡である。客が多くなればなるほど料金は上がっていくのだ。これはおそらくチョコボの酷使を抑制するためであろう。
 もう一つの要素は、乗り手のジョブレベルである。レベルは20以上であることが最低条件である。戦闘不能による経験喪失や、あるいはジョブチェンジによって、メインジョブのレベルが19以下になった場合(免許証の所持如何にかかわらず)、チョコボの借り出しは許可されない。この最低条件を満たした上で、レベルが20に近いほど――すなわち、未熟であればあるほど――料金は相対的に安くなる。逆に、強ければそのぶん追加料金を取られるのである。この累積課税のようなやり方は、一見不公平のように思えるが、そもそもレベルが高ければ収入が多くて当然であり、取れる者からたくさん取ることで金額のバランスが保たれる仕組みだ。あるいは初心者を優遇して、チョコボの便利さを心ゆくまで味わって貰おうという魂胆なのかもしれない。


 私がチョコボを借り出したのは、むろん試乗の意味もあったが、地図を三枚買ったところ、ギルが足りなくなったので、ウィンダスに一回戻ろうと思ったからだった。何しろ地図は必需品である。何処へ狩りに行くのかわからない以上、手に入れられるものは早急に揃える必要がある。私にはジュノで金を儲けるすべがないから、祖国で何とか金を工面して来なくてはならない。

 チョコボは本質的におとなしい動物である。訓練されれば人間の言うことをよく聞く。本当か嘘かわからないが、ある地域ではチョコボを船の動力源として利用しているというくらいだ(注2)
 

チョコボに跨るの図

 移動するのにさして苦はない。鞍と鐙(あぶみ)のおかげで乗り心地は上々である。何しろ初心者だし、半日の付き合いである以上、以心伝心が成立していようはずもないのだが、右や左に曲がったり、立ち止まったりするのは思いのままである。これは自分の腕にうぬぼれるより、素直に鳥の方を褒めるべきであろう。

 チョコボの特技は人間を乗せるだけに留まらない。命じられれば削岩機のように堅い嘴で地面を掘る。素人は
ギサールの野菜という、見かけゴゼビの野草によく似たチョコボの好物をやる必要があるが。運が良ければ地面の下から何かアイテムを手に入れられる。野草は厩舎でひと束100ギルで販売されているから、要は一回100ギルで地面を試し掘りしているに等しい。私も一応やってみはしたが、何の当てもなく穴掘りをしたところで、目の前で100ギルが土ぼこりに化けるのが見られるばかりである。

 最後にこれだけは言っておかねばならない。はやい、はやい!! 風を切るとはこのことである。人間が走る速度のざっと倍は出ている。一度この快感を味わってしまうと、自分の足が必要以上に遅く感じて、街に戻ったときにやりきれない気分になることは請け合いである。


注1
 現実時間で30分です。ヴァナ・ディールの一日は、現実の一時間よりやや短いので、ゲーム内時間できっかり半日であるわけではありません。

注2
 FF10の背景世界ザナルカンドでは、チョコボが走って船を動かしています。

(03.02.04)
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