その107

キルトログ、ソロムグ原野を駆ける

ソロムグ原野(Sauromugue Champaign)
 ミンダルシア大陸からバストア海の方に突き出した半島に広がる、砂塵が吹き付ける荒涼たる原野。
 ジュノ海峡を挟んで、最もクォン大陸に近い地域として、サンドリア王国が城を築いたり、獣人軍が駐屯したりと、時の有力者によって重要な戦略上の拠点とされてきた。
 飛空挺の時代となった昨今でも、その位置的な重要性は変わらず多くの旅人が往来している。
(ヴァナ・ディール観光ガイドより)
 チョコボは、街中や洞窟などの閉鎖空間をひどく嫌う傾向があるので、厩舎から最寄りのオープン・フィールドに放たれる。同設備がジュノに三箇所もあるのはこのせいだ。従って、バタリア丘陵に出たければ上層の、ロランベリー耕地に出たければ下層の、ソロムグ原野に出たければジュノ港の厩舎から、それぞれチョコボを借り出さねばならない(注1)

 ソロムグ原野は、メリファト山地の北、アラゴーニュ地方最北端に位置する。まっすぐ南下すれば、メリファト山地、タロンギ大峡谷を抜けて、東サルタバルタに到着する。先輩冒険者たちが往来するのを見ているから、半日以内で帰国できることは確かだ。私は単騎チョコボを駆って走り出した。

 
 入り口の崩れた塔や、打ち捨てられて老朽化したトーチカなど、古戦場らしい面影は随所に残っている。不思議とバタリア丘陵と同じような印象を受けなかったのは、観光ガイドにも明記してある、この日吹いていた強い風のせいだろう。時に土ぼこりが大きく巻き上がって私の視界を遮る。バタリアに比べたら随分と湿気が少ないのである。メリファトと地続きだからそれもそのはず、ジュノを跨いで東と西では隣り合わせたようなものだが、大陸を異にする以上気候風土が同じでないのも当然である。

 別大陸であることをとりわけはっきりと示すのが生物層の違いである。エリアごとに異相を示す植物はともかく、動物、それも冒険者に特別関係の深いモンスターたちは、クォン大陸に生息するものとは随分と違っている。ついでに言えば、アラゴーニュ地方ほど北方にもなると、ウィンダス近辺で見られたような動物――例えばララブやクロウラー、ダルメルのたぐい――は全くと言っていいほど姿を見ることがない。

 アラゴーニュ地方に特有の獣というと、真っ先に上がるのがコカトリスだろう。ニワトリの頭を持つトカゲといった風体で、外見はユーモラスではあるが、見た者を石に変えてしまう恐ろしい力を持つ。その肉は滋養強壮によく効く。ミスラの名物料理である、ミスラ風山の串焼きの材料の一つとしてお馴染みだろう。戦士など前衛職には必需ともいえるこの料理、私も以前Chrysalisに貰ったのだが、勿体無くてまだ食べてない。だから味の方はまだわからない。思ったほど脂っこくはないだろうと想像している。何しろニワトリとトカゲであるから(私は別に、友人の料理の腕前についてどうこう言いたいわけではない、念のため)。

 俊敏な動きを見せるラプトルのことは、メリファトを旅した際に少し触れたが、ここにはもう少し強いソロムグ・スキンク(ソロムグトカゲ)がうろついている。ラプトルはまだ街道を外れた盆地に引っ込んでいるからよかったが、こちらは堂々と平地を走り回っているうえ、索敵範囲も広いのでまったく油断がならない。メリファト側からジュノへ上京するのが困難なのは、第一にこの青縞の爬虫類のせいである。髯の長い豹を思わせるクアール(注2)にしてもそうだが、ソロムグには好戦的なモンスターが多く、身を隠すことも困難だ。もし私がチョコボに乗らず、もう一度徒歩でジュノへ出かけるとしても、やっぱり遠く迂回してでもバタリア丘陵から入京しようとするであろう。


コカトリス属のアクス・ビイク
ソロムグ・スキンク
チャンペイン・クアール(原野クアール)。しなやかな獣

 いまチョコボについて触れたが、この動物の背に跨っている時には、モンスターが襲ってくることは一切ない。不思議に思えるかもしれないが事実である。昔は普通に、自らの足で往来する冒険者同様、油断していたら攻撃を受けたものだ。それがある時からぱったりと止んでしまった(注3)。理由はいろいろ考えられるが、チョコボの逃げ足がすてきに速いので、モンスターたちが追いかけても徒労に終わることがきっと多かったせいだろう。

 従って、チョコボに乗ってさえいれば、安全に――しかも迅速に――エリアを探索できる。騎乗した状態では、戦闘も石碑の写しもままならないが、時間の許す限り見て回ることなら可能だ(注4)。だから私はそうした。もっともいたるところに段差があるので、隅々まで探るわけにはいかなかったが。


 北岸に出てシェーメヨ海を見下ろした。ソロムグに砂浜はない。この断崖絶壁だけが唯一の海岸線である。はるか眼下で潮流が白い渦を巻く。雄大な眺めである。沖に目をこらしてもクフィムの島影はまったく見えない。

 奇妙なのは崖の断面である。通常伺える地層の重なりはない。一様に真っ黒なのである。石炭か黒曜石(注5)か、私にはそれくらいしか思いつかないが、いずれにしても、水面上のこれだけの高さ、海岸線のこれだけの幅に渡って、同じ層が続いているというのは、私もちょっと聞いたことがない。

 むしろ、何らかの天変地異の爪あとと考えた方がよいのではないか。ソロムグの街道脇には、随所に巨大なすりばち状のクレーターがあり、その場所は地図にも小さな円で記入されている。この両者を結びつける根拠には乏しく、安直にそうするべきではないが、何しろミンダルシア大陸である。アラゴーニュ地方の北東には、魔法の力で封印された聖地リ・テロアが横たわる。これらのことを考えれば、私の想像もあながち的外れとは言えないのではなかろうか?

崖の断面は真っ黒だが……

注1
 迂回してくれば互いのエリアを行き来することは一応可能です(ソロムグ原野からバタリア丘陵へ行くには、ロランベリー耕地を回ってこなくてはなりません)。
 ところで、クフィム島はチョコボで走れないようです。海岸洞窟を通る・寒い・奥が行き止まりである、などが理由でしょう。

注2
 クアール(Coeurl)は、A・E・ヴァン・ヴォクトのSF小説『宇宙船ビーグル号』(39年に第一話発表)に登場する、豹の姿をした超生命体。訳によってはケアル、クァールなどとも。高千穂遥が<ダーティ・ペア>に登場させて以来、転用が進み、ファンタジー系の世界にも姿を見せるようです。

注3
 このシステムはバージョンアップによって改訂されました。何しろ襲われても当然のようにチョコボで逃げ切る人が大半。その場合大規模なトレインが発生し、徒歩の冒険者に多大な被害が及んだことが原因。

注4
「サンドリアでは騎士はチョコボに乗って戦う。クリスタル戦争でも主力部隊となったのはご承知の通りである。しかしチョコボは本質的に臆病な動物なので、剣戟と硝煙が響き漂う戦場に踏みとどまらせるには、相応の専門的な訓練が必要である。
 厩舎のチョコボは純粋に移動用であり、だいいち借り物であるので、その背中に乗ったまま敵と戦うことは出来ない。戦闘する場合は鞍から下りねばならない。するとチョコボは駆け足で厩舎へ逃げ帰ってしまう。地面に立てば敵を襲うのも思いのままだが、一方相手も容赦なく襲い掛かってくるようになる。
 従って、チョコボに乗っている限り、どちらの側からも戦闘になるということはない。安全を期したいなら、半日のあいだ足を決して鐙(あぶみ)から放さないことである」(Kiltrog談)

注5
 黒曜石は、活発な火山活動によって生まれたガラス質の火山石。断面が鋭利な上に加工がしやすいので、縄文人・弥生人によって石器の材料として珍重されました。現在では貨幣として流通したのではないかとの説もあるようです。


(03.02.08)
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