その108

キルトログ、タロンギでひたすらに敵を倒す


 帰国のついでに、ゲートハウスまで赴いて、次なる指令を受けておこうと思った。近ごろの経験で順調に強くなり、多少は信用も増して来ているので、そろそろ国外に出かける用事を言いつけられないとも限らない。チョコボがあるなら苦労も半減しそうだ。もっとも、ミッションが楽だった試しは今まで一度もないのだが。

 
 私が引き受けられそうな依頼は、現在二口も入っていた。ミッションが選べるというのはたいへん稀である(注1)。政府からの派遣は信頼と実績の保証が必要になる。そういう確かな人材を必要とするような用件は、五つの院においてもまず起こらない。ギデアスの名水を取りに行くのですら、近くを歩いている冒険者でこと足りる。ということは、ミッションはあれよりもなお緊迫した、そのぶん危険な内容となっているはずである。

 耳の院へ行け、と言われたので、水の区のモグハウスから北上した。同院はエリートを養成する魔法学校である。勉学に打ち込む環境を作るためか、同区でも外れにあるので、冒険者が足を運ぶ機会はそう多くない。大口のクエスト依頼があれば、また別なのだが……(そのせいで、近ごろは鼻の院にばかり出入りしていたのだ)。

 私が命じられたのは、早い話が、試験の実地調査であった。
 
 いささか拍子抜けしたものだが、モレノ・トエノ以下、教師たちは真剣である。教育は未来の礎を築くことである。魔法学校の卒業生は、将来のウィンダスを担う貴重な人材である。しかも魔法の力は強大であるから、便利さの陰で通常見過ごされがちな危険性については、幼いうちからしっかり認識させておく必要があるだろう。
 
 試験は厳格にやらねばならない。生徒たちの将来に深く影響するのであるから。そういう主旨はわかる。充分過ぎるほどわかるのだが、それはともかく、威厳と風格を備えるべき職員室が、お遊戯室と見分けがつかないように見えてしまうのは、やっぱり私の心がけが悪いのだろうか。


耳の院職員室

 以下はモレノ・トエノから聞いた、具体的な仕事の内容である。

 魔法試験は外での実戦を予定しているという。規定時間以内に何匹の敵を倒したかで採点するのである。あんまり敵が弱くても実地の意味がないし、かといって強すぎては危険なので、タロンギ大渓谷とブブリム半島の二箇所が、有力候補としてあがっている。

 しかし、ある程度の実力の冒険者が、果たして同地でどれだけの敵を倒せるものか、正確なデータがない。データがなければ、試験の合格ラインを設定しようもない。そこで私の登場となる。倒した敵を自動的にカウントする、
魔法人形「かぞえるくん」(こういう名前は誰がつけるのだろう?)を携帯し、実際に同地で戦って来て数を調べるというのである。

 試験時間は、タロンギでは一日、ブブリムでは二日である。これには移動時間も含まれる。誤差はわずか1時間しか認められない。1時間を越えて期限に満たなければ、受け付けて貰えないし、超過したら失格となる。一度に二箇所の調査をするわけではないから、今回はタロンギにだけ足を運べばいい。

 覚悟はいいですか、と言いながら、モレノ・トエノが魔法人形のスイッチを入れた。試験の予行演習の始まりである。
 私は扉を潜って脱兎のごとく走り出した。


 チョコボを借り出せば、移動によるタイムロスは大きく減る。そしてありがたいことに、最近ではチョコボ利用者が急増しているため、ホラ・メア・デムの三奇岩に、三国からそれぞれ厩務員が出張することになっていた。従って、帰り道にもチョコボが利用できるわけである。これは大きな利点だ。

 移動時間の目安をつけておかねばならない。東サルタバルタから北上すればあっさりタロンギには着くが、崖を迂回しなくてはならないので、出来るだけ最短のルートを迅速に取らねばならない。帰り道はただ駆け下りればいいから、往路よりは時間の節約がきくとは思うのだが。

 私が計ったところ、水の区耳の院を出て、ワープさせてくれるガードのところへ走り、森の区へ飛ばしてもらって、眼前の厩舎でチョコボを借り、メアの岩の出張所まで辿り着くには、約4時間半かかるのであった。試験の開始はちょうど昼の12時だったので、翌日の5時間前、すなわち午前7時にメアの岩から出発すれば、多少のロスを差し引いても、誤差1時間以内に到着することができるということになる。

 私は斧をしゃかりきに振るって敵を倒した。蜂、兎、クロウラー、マンドラゴラ、ダルメル、ヤグード、ゴブリンなどお構いなしであった。エリアの中でも比較的強敵であるダルメルを相手にしたのは、モンスターの種類こそ注文がなかったが、多少は色を変えた方がいいだろう、との判断と、単純に、今では弱くて練習相手にもならないような小物を、14時間もぶっ続けで倒すのは、あまりにも変化がなくて退屈だと思ったからであった。

 気付かぬうちに、日は沈み、そして昇った。私は敵と見るやみさかいもなしに跳びかかった。血に飢えた悪鬼のようであった。一度だけ、手記を読んでいるという人に声をかけられたが、気持ちが切羽詰っていて、笑顔で手を振る余裕すら持てなかった。あの人が私の非礼に呆れ返っていなかったなら、きっとこの箇所にも目を通してくれることだろう。


 午前7時に近くなると、私の狩りはメアの岩周辺ばかりとなった。ゴーストを倒すのは別に難しくないのだが、面倒くさいし、容姿が不気味で気後れがするので、一匹を倒したのみできりにした。私の記憶が確かならば、夜中に出てくる死霊どもを除けば、同地に生息するモンスター全種を、最低一匹ずつは倒したはずである。

 レベル差とは偉大なもので、プロテスをかけて戦闘したのだが、14時間もやっているのに私が休息をとったのはたったの1回だけだった。最初のうちは倒した敵をカウントしていたが、10匹を越える辺りから混乱して、「かぞえるくん」の見方も知らないから、結局どれだけのモンスターを屠ったものか、自分でもわからなくなっていた。何のことはない一方的な虐殺である。だがこれは仕事であるので、私の方で割り切ってやるしかなかった。

 私はきっかり7時に騎上の人となり、西サルタバルタへ走った。水の区の門から入って、耳の院へ走る。チョコボから下りると、自分が必要以上に鈍足に感じられた。結局職員室にたどり着いたのは、予定より35分はやい11時25分であった。

 モレノ・トエノは「かぞえるくん」を調べて、私が倒したのは68匹だ、と言った。これは予想以上の数字だ、とも。いったいどのくらいの数を目処にしていたのか知りたかったが、きっと教えてくれなかったろう。ブブリムも頼みますよ、と言われたが、こんな疲れる仕事を続けてやるのは嫌だったので、また今度ウィンダスに帰ってきたときに挑戦することに決めた。

 私は徒労感でいっぱいだった。何しろ報酬は無しである。入手した戦利品を売ったら、確かに何らかの足しにはなったのだが……。



 モグハウスへ戻った私は、Chrysalisのくれたアイアンベッドの上で、鼾をかいて眠ったのであった。

注1
 このミッション「試験の行方」は、クリスタルを納めてランクポイントを満了にしていたら、とばして先へ進むことができます。


(03.02.08)
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