その111

キルトログ、慣れないリーダー相手に戸惑う


 私は記録に毎度タイトルを明記しているが、今回その意味を勘違いしないで頂きたい。私がパーティの代表者になったわけではない。「慣れないリーダーに戸惑う」のではなく「慣れないリーダー相手に戸惑う」のである。従ってこのリーダーとは私ではなく(慣れてないのは確かなのだが)、私に声をかけてくれたRon(ロン)(戦士25、吟遊詩人6レベル)の方である。


 私がパーティに入り、クフィム島に向かう洞窟入口の前へ集まったとき、すでにメンバーは2人が決まっていた。

 ヒュームのGerge(ジョージ)(吟遊詩人25、白魔道士12レベル)。
 ミスラのDulfer(ダルファー)(黒魔道士24、白魔道士12レベル)。

 新鮮な驚きというやつだが、5人目はPoporon(獣使い24、戦士6レベル)であった。はるか昔、タロンギ大渓谷に初めて赴いたとき、一緒だったメンバーの一人である(その18参照)。Poporonとはそのあと2回ほど会ったきりだが、全く思いがけず知人と組むのは初めての経験である。幸い二人とも互いを覚えていたので、私たちはお久しぶりと朗らかに挨拶を交わしたのだった。

 さて、目ざとい人はすでにお気づきかもしれないが、このパーティには決定的なジョブが欠けている。白魔道士である。Ronが白さん、白さんと言いながら探しているので、私もようやく知ったのである。私は、パーティというものは、最も核となる白魔道士が確保されてから組まれるものだ、とばかり思っていた。正直今でも信じているのだが、この時ばかりは、特に冒険者の数が多かったので、はからずも回復役を後に探すことになったのだろう、と好意的に解釈したものだった。

 だが回復役は見つからない。私が探しても見つからない。これでは鍛錬になど出かけられぬ。一同の前に暗雲が立ち込めたその時である。Poporonが、リンクシェルの仲間に連絡して、白魔道士の人を手配しました、と告げた。みんな口々に誉めそやしたのだが、Ronだけは聞いていたのかいなかったのか、白さんがいないなら赤さんでいいですか、などと言う。Dulferがやんわりと、Poporonさんの友だちが来るのではないのですか、と言うと、一応リーダーはわかった様子でありながら、「赤さんもいないなー!」と続いて愚痴をこぼしているのである。


 その友だち
Waffle(ワッフル)(レベル不明)を加えて、私たちはみんなで話し合い、クフィムでは儲けが少ないという結論に達して、バタリアでの虎狩りに落ち着いたのである。みんなはジュノ上層の入口――私が入国した門の前――に集合した。が、ひとりRonだけは、ジュノ港から階段を上りすぎて、最上階であるル・ルデの庭まで行ってしまった。上層の入口だ、と何度告げても一向に要領を得ない。そのうち間違ってモグハウスに入る始末である。とうとうPoporonとDulferが駆けて直接誘導するはめになった。実に幸先に不安の残る一幕であった。


 私はRonに得物を尋ねた。彼は何を訊いているのだろう、というふうにしばらく回答をためらっていたが、ややあって片手剣ですと答えた。Gergeの得物も片手剣である。従って、連携はGergeが1番、Ronが2番、私が3番ということにして、私はRonのレッドロータスのあとにレイジングアクスを放つことになった。斧はタイガーハンターである。虎が相手だから実に好都合だと言えよう。

 
 最初に近づいた古墳にもう3組もいたので、我々はもう少し南の遺跡に河岸を移した。釣り役は私に決まった。Poporonが補佐のために後をついてきた。この人は獣使いだから、任意のモンスターが近辺どの辺りにいるかを探索することができる。Poporonが探した獲物を、私が引っ張っていく。うまい作戦だと思った。だがこれは実際にはそううまくはいかなかった。

 というのは、例えばPoporonは「北西」というふうに表現するのだが、その言葉の範囲が広すぎて、正確なニュアンスが私に伝わりにくかったからだ。また、遺跡の外で狩りをやっている連中もいて、目ぼしい獲物は彼らにいちはやく取られてしまう。これでは虎を次々に釣ることなど到底不可能な話であった。

 2、3回そういうことを繰り返したあと、私の提案で、Poporonに直接獲物を釣って貰うことにした。ただ本人が、前衛のような重装備をしてないので、皆のところに駆け戻るまでに致命傷を負う危険がある。そこで私が近くにいて、すぐさま挑発で敵を横から引き受ける作戦だった。方向音痴の私が遠出しない限りは、これはうまくいった。Poporonは獣使いの能力を存分に発揮してみせた。玄室での戦闘の最中に、迷い虎がもう一匹忍び込んで来たときにも、厳粛な命令を以ておとなしくしてみせたものだ(獣使いは、モンスターをあやつって命令をきかせることが出来るのである)。

 
 さて、前衛にとって肝心かなめの連携であるが、Ronがこれに不慣れなことが判明した。Gergeが派手な合図をして、ウェポンスキルを放ったあとも、彼は普通に戦っている。レッドロータスを打つのにまごついたとか、タイミングを間違えたとかではない。何しろ普通に戦っている。そこで戦闘が終わったあと、彼が何を知っていて、何ができるのかを、みんなして水を向けて確認することになった。Ronがどういう人物か、仲間たちはもうはっきりと認識し始めていたのだ。

 Ronは、連携の概念と手段を理解していたし、実際に連携を繋げてみせることもできた。ただし、我々がやるように、TPの値を叫んで教えあったりするのは苦手だった。彼に関して何が判明しても、私はもう驚かなくなっていた。率直に言って、彼が連携そのものを知らなくても全く不思議ではないとすら思っていたのだ。


 Ronはハーネスを着ていた。このレベルの戦士は、たいていビートルハーネスか、チェーンメイルを身につけている。後者の鎧――私が着ている――が、ひどく値の張ることはその97で述べた。いちランク落ちるビートルハーネスは、「このレベル帯の前衛が最低限備えておくべき鎧」と一般的にみなされているのだった。

 チェーンメイルを着ていない戦士、その理由の大半は経済的なものである。だがRonの場合、もしかしたら、装備の重要性を把握していない可能性もあった。我々は順調に剣歯虎を屠っていった。虎が徐々に、もの足りない敵になりつつあるのは事実だったが、我々のなかで、お互いが出来ること、出来ないことの整理がついたためだろう。前述の迷い虎の一件以外には、特筆するべき危機のないまま、我々の狩りは終わろうとしていた。


遺跡の玄室

 公平に考えるに、我々は運が良かったのだ。実際には誰が何回死んでもおかしくなかった。断崖の上で傾く小屋の中、床下には空気しかないことを知らなければ、快眠の余韻に浸れたものを、よせばいいのに、朝ドアを開けて、わざわざ下を覗き込んで見たのは、よりによってこの私だった。

 きっかけは些細なことである。Ronの攻撃を何げなく見ていると、例え相手が虎だとはいえ、刃こぼれでもしたのか、と思うくらい軽いダメージしか与えていなかったのだ。失礼ながら、じっと彼の装備に目をこらしてみた(注1)。結果は意外なものだった。

 彼の持っているのは、サンドリアで支給される王国弓兵製式剣、10レベル程度の冒険者用の武器である。

 そればかりではない。盾、篭手、兜、篭手、具足、足袋に到るまでが、得物と釣り合っていた。

 つまり、彼が着ているのは、21レベルから着られる前衛の最低装備、ビートルハーネスなどでは全然なく、サルタバルタを卒業して、そろそろタロンギに足を伸ばそう、という戦士が身に付けているような、11レベル相応の鎧――ブラスハーネスだったのだ!


 私は、開いた口が塞がらなかった(これは随分と控えめな表現である)。遺跡の中でこの発見を口にするのは、恐ろしくて到底できなかった。幸い(まさに!)狩りは無事に終わり、我々はジュノへと戻った。我々は解散の前に、上層の門脇にあるホームポイントの周りに一度集合した。

 手記を公開することを認めて貰うため、「最後にひとつ、お願いが」と切り出すのが、いつもの私のやり方であるが、今回はふたつめが――それも個人に向けたふたつめのお願いが――存在した。

「Ronさん、ちゃんとお金を貯めて、レベル相応の装備を買って下さい」

 私はそう言って秘密を明かした。めいめいがRonを覗き込んで、短い悲鳴をあげたり、言われてみれば肩当てが違う、などと苦笑しながら言い合ったりしていた(ブラスハーネスは肩の防具がなく、剥き出しなのである)。誰も死なずに終わったせいか、表立って立腹する者は一人もおらず、険悪なムードにならなかったのは運が良かった、というべきか。


 私はひとり、ため息をつきながら自室へ戻った。「慣れないリーダー」の記録を、いったいどう表現したものか、と悩みながら……。

 それで今、言葉足らずだと思うが、こういう文章に落ち着いたのである。

注1
 PC(プレイヤーキャラクター)相手にカーソルを合わせて「しらべる」と、その人の装備一式が確認できます。
 なお他人を「しらべる」ことは、バザー品の確認などいくつかの例外を除いて、一般的には無作法な行為だと認知されています。誰に調べられたか、相手にも伝わりますので注意しましょう。


(03.02.20)
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