その116

キルトログ、ラテーヌの大羊を狙う

 バタリア丘陵からジャグナー森林を抜けていくと、ラテーヌ高原に到着する。快速のチョコボなら数時間の旅である。高原に入ると雨が降っていてたちまち鎧が濡れてしまう。ジュノで修行を積んでも個人的なジンクスには大して影響しないらしい。もっとも雨は早々に止んで、いつものように太陽がきらきらと照り始めるのであったが。

 ご存じのように大羊は、こことコンシュタット高地の二箇所に生息するのだが、ラテーヌはコンシュタットに比べて格段に広く、そのぶん敵を見つけることが難しそうである。もっとも条件はかなり絞り込むことが出来る。地図を見ると、南東から北西へ抜けていく街道のうち、エリア中央付近は山に挟まれたせまい道であり、私が過去二度目撃したのもだいたいこの周辺である。高原の広さに比して恐れられることの多かった大羊は、きっとこの誰もが必ず通らねばならない地点に出没するのだろう、と見当をつけて、張り込むことにする。片手剣から既に得物は持ち替えてある。幾日かかるとも見つけ出して斧の血錆に変えてくれん、という意気込みである。

 それにしても奇妙なのは、私なんぞよりずっとレベルの高い人々が、街道脇に立ちんぼうや、座りんぼうをしていることである。全体の数は4、5人程度だが、互いによそよそしい態度からして、パーティを組んでいるものとも思えない。何が目的なのか少々気になるところだ。


 2時間ほど待ち続けたが、大羊は影もかたちも見えない。居心地が悪いのは、確かにここに現れる、という保証が何もないからで、もしかして全く別の場所をうろついているのではないか、と不安になる。かと言って何処へいてもこの疑念は常に付きまとう。せめて大羊の生死だけでもわかると良いのだが、姿が見えないという事実は何の証明にもならないのだ。

「あれ?」

 と、誰かが声をかけてきたと思えば、お馴染みのLeeshaである。彼女は修行を二の次にして、チョコボでふらふらと各地を廻るのが趣味なのであるが、意外な場所で私を見つけたので興味を覚えたらしい。私が大羊を狙っているのだ、と話すと、「嗚呼ラノリンですか」と合点をして、自分はいまシーフで、サポートジョブが狩人だから、協力しましょうかと言う。これは心強い援軍である。狩人の探査能力の便利さは、グール狩り(その60参照)で既に証明されている。どのように探査を行うのか私にはわからないが、少なくとも、悶々とただ待つ状況からは抜け出せるだろう。


Leesha

 Leeshaはシーフらしい軽装であるが、面当てのせいか、忍者のように見える(ニンジャとは東方世界の刺客で、サムライに雇われる日陰の存在である。冒険をしている者もいるらしく、近々その生き方が我々に伝授される機会が訪れるだろう、とは、このごろ漏れ聞く噂話である)。

 私よりずっと大羊の生態に詳しいLeeshaの言うところでは、出現場所は二箇所もあるらしい。一箇所は私が推測したとおりの、エリア中央の狭まった道で、もう一箇所はこれよりやや北東、見通しのよい林の付近だという。大羊はそのうち一方から姿を見せる。どちらから出現するかは、その時が来るまでわからない。

 冒険者の中には、大羊を専門に狩りだすハンターがいて、三国に名を轟かせたあの恐るべきけものも、近ごろでは出現するなり屠られてしまうそうだ(強敵との遭遇率が減って、後発の冒険者はさぞかしほっとしていることだろう)。前述の古強者たちの目的がわかった。彼らは全員、バタリング・ラムの出現を待っているのだ。従って、私がきゃつを倒そうとするなら、私よりずっと経験のある彼ら全員を出し抜かねばならないのだ!

 二つあるスポットのうち、Leeshaは東の林の方を狙おう、と言った。中央の狭い道には、バタリング・ラムなど歯牙にもかけないような、強力な羊が出現することがあり、こちらを待ち伏せている猛者も多い筈だと言う(解説参照)。そこで我々は、東に向けて走ったのであるが、Leeshaは「とんずら、ごー!」というかけ声とともに、たちまち丘の向こうへ消えてしまった。シーフなだけあってさすがに俊足である(注1)


 だが、林の方ならチャンスがある、と考えたのは少々甘かったようで、せっかく我々が駆けつけても、大羊の巨大な死骸が横たわるのを眺めるばかりであった。それに比して、ハンターの方は息ひとつ乱していない。


ハンターに狩られた大羊

 大羊は一度やられるとなかなか出現しない。最低でも3時間近くは待たなくてはならない(注2)。Leeshaは狩人の能力を活かして、得物の出現を探知すると、例の「とんずら」で駆けていくのであるが、どうしても誰かに先をこされてしまうのであった。この日我々はバタリング・ラムを5、6度も目撃したが、直接攻撃することが出来たのはたった一度だけ。しかもその大羊は、ラノリンを身に帯びてはいなかった。


 ラノリンを自力で入手できなければ、多少値が張ろうとも、売買で手に入れてもいい、と思っていたのだが、Leeshaによればそれは無理なのだという(注3)。私はサレコウベの苦労を思い出した。またあの時のような七難八苦が待っているというのか。

「どうしても駄目なときは、奥の手があります」

 Leeshaはそう言って意味深な笑みを浮かべる。それはどういう手段であるか、私が尋ねる。彼女はこう言う。もし誰かが羊を倒した場面に出くわしたら、その傍らで、無念そうに、悲しそうにこう呟いてみるのがよろしい。

「ラノリン……」

 すると「あーら不思議」、ハンターさんが拾得物を分けてくれることがあるという。ラノリンは一度手に入れたら、もう二度と用のない代物だからだ。

「……それは、泣き落としというやつですか」
「そうとも言います」

 いずれにせよ、女の子が泣くのと、ガルカが泣くのでは、雲泥の差がある。私はそれを文字通り、最後の手段にとっておくことに決めた。

 Leeshaが突然、思い出したように私の方を振り返った。でも自分は、ちゃんとラノリンを自力で手に入れたのだ、泣き落としは使っていない、と力説する。私にしてみればどっちだって構わないのだが、そういう手段で品物を手に入れることは、シーフとしての沽券に関わるのだそうだ。

 しかし、再び大羊が倒されるのを目の当たりにしたとき、彼女はいかにも無念そうに、悲しそうに、涙をほろほろとこぼしてみせ、私に向かってペロリと舌を出すのだった。嗚呼強きものよ、汝の名は女なり(注4)

既に取られた獲物。
立ち尽くすLeesha

 さて、このように競争相手が多い以上、首尾よくラノリンを入手できる目処はまったく立たない。私はふと、コンシュタット高地にも、このようにハンターが大勢いるのか、と思った。トレマー・ラムを狩る人々はずっと少ないのだ、とはLeeshaの弁である。ならばそちらへ移動して大羊を狙うのはどうか。彼女は、トレマーはラノリンを落とさない筈ですが、と首をひねる。しかし私の手元にある指南書には「バタリング・ラムとトレマー・ラムが落とす」とはっきり書いてある(注5)。そう断言されると、彼女の方も自信がなくなってきたらしい。

 このように戦闘すらままならず、煮詰まっているくらいなら、コンシュタットで戦でもした方がましである。だんだんとLeeshaもその気になってきて、二人してホラの岩の傍にいる、チョコボ厩務員におずおずと声をかけてみた。総じて出張所は利用者が多く、料金がどうしても高くなりがちだからである。

 厩務員の答に、我々は言葉を失った。590ギル! 三国から借り出すのであれば、せいぜい高くても200ギル程度である。いくら何でもぼったくりではないか、とぶうぶう言っても始まらない。待っていたら安くなるのでは、と期待を込めてみたが、この値段でも借り出して行く人が後を断たず、値が下がるどころか更に高騰しそうな雰囲気である。

 いっそサンドリアへ走り、そこからチョコボに乗ろうか、とも思ったが、目的地はコンシュタットである。バルクルム砂丘を越えるだけだから、走るなら直接同地へ向かった方がはるかに早い。

 私は走ってもよかったので、Leeshaに一任することにした。彼女は悩み抜いていたが、トレマー・ラムを倒して、雄牛の角や毛皮を手に入れれば、充分に元がとれる、そう判断して、二人して騎上の人となった。でもやはり、無駄な出費のようで懐がかゆい。

 南に向かって走る途中、Leeshaが私に言うのだった。

「……ラノリンが手に入ったそうです」

 妙齢の女性の涙を見るに見かねたハンターさんからの返事である。だからと言って好意を受けるわけにはいかぬ。横からむさいガルカが、揉み手をしながら出て行ったのでは詐欺同然である。

 我々は肩をすくめて、コンシュタット高地めがけてチョコボを駆るのだった。

解説

ノトーリアス・モンスターとネームド・モンスターについて

 同じモンスターでも、とりわけ強力で、外見も凶悪な個体が登場することが(まれに)あります。この個体をノトーリアス・モンスターと言い、通常NMと表記します(NMは固有の名前を持ち、強さを調べると、調べた側のレベルに一切関係なく「はかり知れない強さだ」と表示されます)。
 NMはほとんどのエリアに登場しますが、各エリアで出現するNMの種類はあらかじめ決まっています。
 例えば、タロンギ大渓谷には、サーポパード・イシュターという、ダルメルのNMが出現します。
 西サルタバルタには、トム・ティット・タットという、マンドラゴラのNMが出現します。
 ブブリム半島には、ヘルダイバーという、鳥のNMが出現します(これらは、ほんの一例にすぎません)。
 NMは常に徘徊しているわけではありません。同エリアで同一種のモンスター(つまりブブリム半島なら鳥)が、極端に狩られた場合、まれに出現することがあります。出現サイクルは、地球時間で最低でも1時間に1回、それよりずっと頻度の低い種類もいるのですが、レアなアイテムを持っていることが多いので、訓練をつんだハンターたちの格好の標的になっているのです。

 さて、上記のラテーヌ高原に関してですが、この地にはランブリング・ランバートというNMが登場します。ラムのNMです。つまり、バタリング・ラムが大量に狩られることで、ようやく出てくるNMということになります。ラテーヌ羊狩りの競争率が高い理由がおわかり頂けるでしょう。
 上でLeeshaが、東の林の方にしよう、と言っているのは、NMの出現条件は、中央に現れるラムだけが対象になっているからで、「NMハンターなら、東のラムを狙っても仕方がない」から、チャンスがあるだろう、という判断ですね(まあ既に書いたように、そう話はうまくなかったわけですが)。

 ちなみに、NMはネームドモンスターとも呼ばれていますが、厳密にはノトーリアスとネームドは違うものです。
 ネームド・モンスターは、「個体名のついているモンスター」全般を指すので、ノトーリアスより若干意味が広くなります。ギデアスにいた「エー・モン・アイアンブレイカー(斬鉄のエー・モン)」というヤグードは、ネームドモンスターですが、ノトーリアスではありません。バタリングとトレマーの両ラムも、ネームドの一種と考えていいでしょう。

 しかし、概念として紛らわしい上に、NMはネームド、ノトーリアス両方の略語に相当しますから、混同されているのが現状です。冒険者が「ネームド」と言った場合、9割以上「ノトーリアス」のことを指している、と考えていいでしょう。ノトーリアスは全てネームドモンスターですから、決して間違ってはいないのですが(逆に、「ノトーリアス」と言った方が通りが悪かったりして)。

注1
 「とんずら」は、シーフ25レベルで覚えられるジョブアビリティで、一定時間移動速度が速くなり、スプリンターのようなダッシュを実現します。モンスターから逃げるとき、目の前の目的地へ急ぐとき、あるいはただ単に速く走りたいときに有効です。

注2
 ゲーム内時間。実際には8分。

注3
 アイテムの中には、譲渡も売買も出来ず、自分で入手するしかないものがあります(これをEXアイテムと言います)。ラノリンのほか、サポートジョブ取得に必要な三品などがこれに含まれます。
 文中でLeeshaが分けて貰おうとしている方法は、「ラノリンが出たら、一時的にパーティメンバーに加えて貰って、ロットインで入手する」というもの。システムの盲点をついたものですが、バージョンアップで改良されたようで、どうも実行は無理な様子。「戦利品にロットインするためには、その戦闘に参加しておく必要がある」みたいです。まあそうであっても、あらかじめ仲間に加わっておき、ラノリンが出るまで待っておればいいわけですが。

注4
 「弱きものよ、汝の名は女なり」(ハムレット第2幕1場)

注5
 攻略本『ヴァナ・ディール・ワールドリポート・Ver021002』254頁にはそう書いてあります。その117でまた述べますが、どうもバタリング・ラムしか落とさないもよう。

(03.03.13)
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