その120

キルトログ、占い師の館へ立ち寄る

 ロランベリー耕地から戻って門を潜ると、ジュノ下層に到着する。これが奇妙な感覚である。もともとサンドリアルートで入国したのに加え、最近ではバタリア丘陵で狩りを続けているので、上層のゲートこそがジュノの入口、という感覚が身についてしまっているらしい。

 我々の荷物袋は、雄羊の角と毛皮とでいっぱいだったので、とりあえずは競売所に出かけ、人込みをかきわけて出品した。Leeshaは言う。角と毛皮は需要があるから、きっとあっという間に売れてしまうだろう。

 大公国の基本設計に漏れず、このエリアも高さを生かした二層構造になっていて、防具、魔法、雑貨、宝石など、上下階に様々な店が建ち並ぶ。中には随分珍しいのも見られる。例のゴブリンの店もここの通りにあって、その特別な品揃えと、何より経営者への下世話な興味から、ジュノの看板商店の一つとなっている。

占いの館へ行ってみませんかー」

 Leeshaが言う。チュルルの占い館は、競売所の階段を上った場所にある。館といっても普通の店舗である。店構えは少々変わっていて、窓口の上にせり出した軒から、たっぷりした紫色のビロードがぶら下がっている。

 カウンターには水晶玉がひとつ置いてある。タルタルの娘さんが店番をしている。きっとこの人が占い師チュルルその人なのだろう。

 
チュルルの占い館

 我々が必要とする占いなどそう多くない。ここで対象にしているのは、冒険者同士の相性である。特に性別は問わないのだが、特定の二人の相性というと、一般には異性間の恋愛テストだと受け取られやすい。おそらく占いとその歴史に、どこか隠微で禁忌的なイメージがあるからだろう(注1)

 チュルルは5枚のカードを取り出して、私に手渡した。それぞれに奇妙な絵がかかれてある。これはタルットカードと言って、タルタル族に古くから伝わる占い道具である。

 彼女は言う。もし私が占いを望むのであれば、4種類のタルットカードを集めなければならない。そう言えば手持ちの札はみんな図柄が同じだ。私はこの愚者のカード5枚を使って、同じように同一の札5枚を持つ者を見つけ出し、交換を行う。札の種類は愚者、王者、亡者、隠者。愚者は既に持っているから、残りの3種類を集めればいいわけだ。

 Leeshaが、王者なら持っていますよ、と言って、モグハウスへ引き返す。戻ってきてカードを手渡し、角と毛皮がもう売れていて、部屋に入札金が届いていた、と笑う。さすが売れ筋の商品だけのことはある。競売所に出品してから、ものの1時間も経っていないというのに。
 
 カードを集めるのは難しくないという。人が多いとき、声をはりあげて交換を呼びかければ、すぐ入手できるそうだ。そんなものかもしれない。しかも彼女のおかげで、残るのは隠者と亡者のたった2種類だけなのだ。

 私たちはおやすみを言って別れ、部屋に引っ込んだ。念のため寝る前にポストを確かめたら、競売所から大金がごっそりと届いていた。

【追記】

 私は後日、無事にラノリンを入手し、未亡人にキャンドルを届けた。自分で奪い取ったか、泣き落としを使ったかは、読者の方々の想像にお任せするとしよう。

注1
「占いはえせ科学の一種であり、内容はまったく信じるに足りないものだが、人類最古の職業である占い師は、科学啓蒙を経た現代でも廃れていない。これは内容の正確さよりも、未知に対する不安を払拭し、安心を保証するという役割の方が、ほんらい比重が大きいからだろう」
(Kiltrog談)

(03.03.22)
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