その121

キルトログ、臥竜の滝の水を汲む

 私は、もともと整理をよくする性質(たち)ではない。忠実なモーグリ君のおかげで、部屋の中は塵一つないのだが、金庫内の品物は雑多で、さすがにこれはいけないと思い、いらないものはこのさい全部片付けることにした。

 金庫の奥から不思議なものが出てきた。黄金の水筒である。しばらく考えて仔細を思い出す。バストゥークでガルカの商人から、錬金術に使う滝の水を、これに汲んで来てほしい、と頼まれていたのだ。

 あの界隈で滝というと一つしかない。しかし行き方がわからなかったので、後回しにしたまま、今のいままで忘れていたのである(注1)。内心片付けを後回しにするいい口実が出来たと喜びながら、私はチョコボを借り出して、バストゥークへと急いだのだった。


 南北に大きな断層の走る北グスタベルグは、分断された東西に極端な高低差があり、エリアを貫く川が滝となって流れ落ちる。これがバストゥーク名物として知られる臥竜の滝で、西の側からその勇壮な姿を眺めることが出来る。
 
 北グスタベルグ西部に流れ落ちた滝の水は、崖下を通ってそのまま西に抜けるのだが、これを汲めというからには、どうしてもそこまで下りねばならない。普段通り抜ける橋の上から見下ろしてみたものの、吸い込まれそうな高さである。何とか下れそうな道なども見つからぬ。どうしたってここから崖下へ下りるのは不可能である。

 どこか迂回してくる場所があるのだろう、と見当をつけて地図を開く。グスタベルグの西に隣接するエリアは何処か。当たり前に考えれば、コンシュタット高地か、ダングルフの枯れ谷しかない。しかし、コンシュタットはその名が示すように高地である。高地に上がって崖下へ行かれる道理はない。抜け道の可能性がないではないが、当たり前に考えて、その確率はかなり低いと言わざるを得ない。

 そこで私は枯れ谷へ向かうことにした。この場所を訪れるのも随分と久しぶりである(その34参照)。


 南グスタベルグへ下り、西へ抜けると、ダングルフの枯れ谷に到着する。息が詰まるような熱泉地帯である。硫黄くさい蒸気が充満していて、何度来てもいい気持ちはしない。毒々しい色の水たまりが随所で淀みを見せている。地獄とはきっとこんな風景なのだろう。私はまだ見たことがないし、将来見られるかどうかもよくわからないけれど(注2)

 おおよその方角の見当をつけて、エリア北東へ向かう。地面から定期的に吹き上がる例の間欠泉に乗って、段差を軽々と飛び越える。以前は強敵と戦うのを余儀なくされたが、28レベルの私には楽な相手ばかりだ。それでも集団で襲って来られては厄介だから、せいぜい距離をとって、忍び足で通り過ぎる。ゴブリンどもは誰ひとり私に気づかない。これで巡回が務まっているのだから全く恐れ入る。

 私の想像通り、北東へ抜ける道があった。地図には記入されていない。間欠泉の仕掛けにもう一度乗らねばならなかったから、作成者が知らなかったか、あるいは地図そのものが古いのだろう。

 しばらく歩くと、水音が遠くから響くのが聞こえた。私はほくそ笑みながら、音のする方角へ歩いていく。


崖下にもゴブリンが!

 川を挟むように道が並行していて、あいだに木の橋が渡されている。地図にもこの橋は記載されているが、見かけでは崖上の橋と区別がつきにくいので、崖上に二本の橋がかかっていると勘違いされやすい(そして大回りを余儀なくされる)。土地に馴染みがない人は注意した方がいいだろう。

 こんな崖下にもゴブリンがいる! 何が目的なのか見当もつかない。ひとつ言えるのは、奴らがどんな平和的な理由でここをうろついていようと、私が姿を見せたら、間違いなく武器をとって襲ってくるということだ。まったく迷惑な連中である。

 この川には、サンド・プギルという凶暴な魚も生息する。20レベル程度の相手だが、注意されたし。道幅が極端に狭いので避けるのは難しい。下手にすり抜けて行こうとすると、前からはゴブリン、後ろからはプギル、などということになりかねない。敵から距離が保てないと、適時回復することが難しい。ここは多少面倒でも、各個撃破して確実に歩を進めるべきである。

 私は橋を渡らず、真っ直ぐに進んで滝のふもとへ到着した。下から見上げる臥竜の滝は圧巻である。しぶきが私の肌を濡らし、寒いくらいである。轟音で耳が馬鹿になりそうだ。私は水を汲めるような場所を探したが、ここから水筒を差し出すのは少々難しく、観念して引き返し、川向こうの道へ渡ることにした。


 近くにまで来て気づいたのだが、滝の裏に洞窟が口を開けている。私はそちらへ足を伸ばす。ここからなら簡単に滝つぼから水が汲める。水筒をいっぱいにしてから奥へ進んだ。洞窟はほどなく行き止まりとなり、幾度となく見覚えのある、文字の刻まれた石碑がぽつねんと立っている。

 この丘の頂に、共和国に空前の繁栄をもたらしたパルブロ鉱山の開発者達を称え、モニュメントを建てる計画があるらしい。私が訪れた時、丁度その礎石が作られていた。

 礎石の周囲は、元は墓場だったらしく、風化して銘すら読めぬ墓石が点在していた。

 妙に気になり、民間史書を紐解いてみたところ、その墓について興味深い事実が分かった。

 これらは、まだ共和国が貧困にあえいでいた頃、最初の砦、つまり現在の大工房が落成した日に、原因不明の爆発事故で命を落とした、多数の名も無きガルカ技術者たちの墓だったのだ。

 世に喧伝される如く、パルブロ鉱山の開拓者が大望を成し遂げた英雄であるかどうかは分からない。
 だが、ここに眠る者達が、荒涼たる大地を開き、そして骨を埋めた、真の漢だったことは確かだ。

 私は、この名も無き英雄たちに思いをはせながら、ここで一晩飲み明かすことにした。

天晶暦749年 グィンハム・アイアンハート

滝裏には洞窟がある
滝を裏側から見たところ

 ではあの石碑は、もともとは墓だったのか。それもガルカの。

 私は複雑な思いで道を引き返した。


 枯れ谷に出たところで奇遇な出会いをした。Ragnarok(ラグナロク)という、髯面のヒュームの戦士が、友人とともに滝へ向かうところだったのだ。この人は私の手記を読んでくれている人である。私はそれを事前に知っていたから、何処かで会えればいいですねと言っていたのだが、まさかこんなひとけのない場所で顔を合わせるとは思わなかった。

 ところで、彼とはこののち、一緒に大冒険をすることになる。その話は、次回以降に書かれることになるだろう……。

注1
 黄金の水筒は、捨ててしまっても、依頼人のところへいけばまた貰うことが出来ます。 

注2
「自分が善人であるとうぬぼれるつもりはないが、たとえ手におえない悪人であっても、ガルカはもう一度――あるいは何度でも――現世に戻って来なければいけないのである」
(Kiltrog談)


(03.03.23)
Copyright (C) 2003 SQUARE CO., LTD. All Rights Reserved.
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送