その122

キルトログ、サンドリア、バストゥークへの密命を受ける

 祖国を出でてジュノなどで長く暮らしていると、自分が何人なのか忘れてしまいそうなものだが、そこはミッションというのがあって、冒険者はすべからく御国のために働かねばならない。

 ウィンダスへ戻りゲートハウスで仕事を受けて来た。試験の調査はまだブブリム半島のぶんが残っているが、もう一つの面倒なのを先に終わらせておくことにした。噂によるとジュノを除く他の二国を訪れなければならないという。そういえばKewellもそんな仕事をしていたな、と今さらのように思い出す(その20参照)。この事実だけでミッションの面倒さの想像がつこうというものである。

 
 ゲートハウスで話を伺うと、天の塔へ行って下さい、というので、久しぶりに星の大樹に繋がる橋を渡った。いったい何ヶ月ぶりになるだろう。私は一介の冒険者に過ぎないので、政府の中枢になど基本的に用がない。万一こちらで用事があったとしても、向こうで鼻にもかけてくれないのがオチである。

 天の塔の空気は相変わらず厳かである。受付嬢が大きな帳面を取り出して、Kiltrogさん、まだランク2ですか、と失望したように言う。余計なお世話である。このランクというのは国への貢献度の指標みたいなもので、3つのミッションを段階的にクリアすれば、ひとつランクが上がる仕組みだ。従って私が今回依頼を受け、これを上手く遂行できたなら、つごう6つのミッションをクリアしたことになり、ランク3へ昇進出来るのである。

「Kiltrog?」

 天の塔上階へあがる扉が開き、ひとりの人物が私の方へ進み出てきた。ミスラである。身の丈ほどはあるが、見るからに強靭且つしなやかそうな長弓を背負っている。顔には傷跡のような戦化粧が施してある。野生の香りがぷんぷんする。ウィンダスはもともと緑が多く、それゆえに自然に近いのであるが、彼女のような殺伐とした空気を漂わせる人物は、街なかでも余りお目にはかからない。

 彼女がセミ・ラフィーナであると気づいて、私はぐうと唸った。セミ・ラフィーナはウィンダスにおける要人のひとりである。ミスラ族族長ペリィ・ヴァシャイの後継者と目されており、心酔する者は少なくないが、敵もまた多い。彼女を疎んじる者の大部分は、その才能と出世を妬んでいる者か、タルタル族への積極的な迎合策を政治的に容認していない者――あるいはその両方――である。

 これまで噂に聞くばかりで、セミ・ラフィーナ本人にお目にかかるのは初めてである。私は改めて、興味津々で彼女の姿を眺めやった。

「いい戦歴だ」帳面を覗き込んで彼女が言う。
「運も悪いようだ」

 これまた余計なお世話である。セミ・ラフィーナは値踏みをするように私の顔を覗き込む。

「試させて貰うとしよう、君の運と実力と、その瞳に宿る星の輝きを」

 彼女はそう言い残して、いやに芝居がかったしぐさでもとの扉へ戻って行ってしまった。


 私の仕事はこうである。サンドリアとバストゥークの二国にある領事館を訪れ、他国の様子を探ること。二国のどちらに先に行くかは私に一任される。やはり噂は本当であった。

 受付嬢は、ウィンダスが臆病だとか、弱虫だとか、理想主義者だとか、他国で何と言われようとも、20年前の大戦の悲劇だけは、絶対に繰り返してはならない、それが我が国の務めなのです、と力説する。これはウィンダス政府の指針であるとともに、タルタル族である彼女の本心でもあるのだろう。

 領事への紹介状を二通、懐に入れて、私はこの聖なる場所から退出した。


 三国を廻るというので、あらかじめ仲間に連絡をして、集合の日時まで決めておいたのであるが、思いがけず時間を食ってしまい、私は大幅に遅れてジュノへ帰りついた。

 この旅の先には強敵が待ち構えているらしいという、信頼筋の情報で、一大決戦になることを予見し、必勝祈願を済ましておこうと、私は女神聖堂の扉を叩いた。ここにLeeshaとLibrossが待っている。我々は神像の前に立ち、ひざまずいて礼拝する。決意表明をするのに神様ほど適切な相手はない。私は調子に乗って柏手(かしわで)まで打ったが、叩く回数が多くて拍手(はくしゅ)になってしまった。Leeshaが「誰も死にませんようにー」と祈り、私と同じように数回手を叩く。

 気分に乗ってやったつもりだが、聖堂内をばたばたと遊びまわるふたりのタルタルがいて、雰囲気も何もあったものではない。まあそれを咎められるほど、我々も信心深いとは言えないのであるが。

 我々三人はチョコボに跨った。第一の目的地は、LeeshaとLibrossの故郷――サンドリア王国である。


(03.03.25)
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