その124

キルトログ、ドラギーユ城に入城する


「宰相は他国民にはきつい人ですが、どうぞ殴りかからないように……」

 Librossが何だか難しい顔で言う。殴りかかるなとは穏やかでない。まして、Librossにとっては自国の宰相である。その真意は後に判るのだが、私たちは誰何(すいか)を受けることもなく――少々身構えたが――警備兵の脇を通り抜け、ドラギーユ城へ入城した。


場内――大広間

 サンドリア芸術の粋を惜しげもなく注ぎ込んだ施政者の城。その荘厳さは外見からも充分に伺えるが、内部はことのほか素晴らしい。天井の隅にまで行き渡った意匠を見ていると、ジュノ建築が何を参考に(あるいは目標に)しているのか容易に察せられるのだが、本家の風格には遠く及ばない。その決定的な壁は、おそらく歴史の差と、歴史を礎にした矜持(きょうじ)の差から生じるものだろう。

 宰相ハルヴァーというのは、浅黒い肌をした神経質そうな男で、他国民に頭を下げなければならない無念さを隠そうともしない。私たちがミッションを受諾したことに関して、彼が礼を言ったのは最初の一言だけで、じきにその薄っぺらい建前の皮はぺりぺりと剥がれ、彼の口から流れ出てくるのは、侮蔑と愚痴の奔流だけとなった。

 宰相閣下に言わせれば、バストゥークあるいはウィンダスと「仲良しごっこ」をするつもりは毛頭ない。「何の取り得もない奴ら」が「誇り高きエルヴァーンと肩を並べようとする」など言語道断、である。ガルカなどは「使えないデクの坊」とあっさり切って捨てられる。なるほどLibrossが忠告するわけだ。しかし、ここまで国粋主義を徹底されると腹も立たない。むしろ余りの気持ちの良さに尊敬すら覚えそうになる。

 ハルヴァーの要請はこうであった。ゲルスバ野営陣の中腹辺りに、高台の集落と呼ばれる場所がある。そこにウォーチーフ・バットギットというオークのボスがいるので、こいつの首を取ってきて欲しい、というのだ。

 宰相は最後まで当てこすりを忘れない。任務完了は領事館へ届けるように……。ここはお前のような者が何度も来る場所ではない……。まあオークども相手にわざわざサンドリアが出ることもなかろう……とぶつぶつ言う傍ら、我々は彼のもとを離れ、名高い神殿騎士団の詰所へと立ち寄ってみる。


 トリオンとピエージェ、両王子の対立は、サンドリアが誇る二大騎士団すらも巻き込んでいる。国王の側仕えを任された神殿騎士団は、自分たちこそ精鋭部隊であるという誇りを隠さない。いきおい他の騎士に高圧的な態度を取る。王立騎士団にはこれが面白くない。彼らは事実上の国軍なのだが、どれだけ戦場で手柄を立てようと、神殿騎士団の宗教的権威を凌駕することはできないのである。何となく冒険者の立場を彷彿とさせる話だ。

 悪いことに両詰所は、城内の廊下を挟んで向かい合っている。彼らは顔を合わせるたび罵り合う。まんいち顔を合わせなくてもやっぱり陰で悪口を言い合っているのである。

 神殿騎士団団長はクリルラという。女性である。剣を取れば、仕合でトリオン王子を打ち負かすほどの腕前だと言う。さもありなん、個人としてもその位の実力が無ければ、勇猛なサンドリア軍を率いるには値すまい。

神殿騎士団団長、クリルラ

 Leeshaがもの珍しそうに、部屋に飾られた甲冑に見入っているあいだ、私はクリルラと話をしたのだが、彼女は私が冒険者だと見て取って、何か言いたそうな素振りを見せる。だがとりあえずはミッションが先決である。仲間がいるので隅々まで見学するわけにはいかなかったが、用事が済んだら戻ってきて、もう少し城内の人々の話を聞いてみるとしよう。

(03.04.06)
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