その126

キルトログ、世界の不思議を知る


 Jackは一足先に、飛空艇でバストゥークへ向かうという。我々5人は彼と別れて、陸路チョコボで同国を目指すことにした。

我らチョコボ・ライダーズ!

 サンドリアからバストゥークへ到るには、西ロンフォールからラテーヌ高原に入り、バルクルム砂丘を抜けて、コンシュタット高地を南下して行かなくてはならない。我々は試しに、ようい、ドンと合図をして、一斉に駆け出した。RagnarokやApricotが後続を引き離す。私は見事なびりっけつである。自分が特別にのろまだとは認めたくないが、瞬発力に自信がないのは事実である。焦ってもおかしな方角に走ってしまうのが関の山だから、私は自分のペースを守り、仲間に離されないように、せいぜい後をついていくことにした。

 ラテーヌ高原にようやく私が入ったころ、前方のApricotが、大羊だあ、と声をあげた。するとみんなが一斉に、ラノリン、ラノリン、ラノリンと唱和する。これは要するに、私の手記を読んでいる全員が、前回の羊狩りに失敗したことを知っているので(しかも一人は当事者である)、今ここでチョコボの背を降り、大羊を倒し、目指す宝物を収穫しなくて大丈夫か、という合図なのである。

 既に記したように、私はあるガルカのシーフ氏の助けを借りて、無事にラノリンを入手していたのだが、この時点では誰もその事実を知らないはずであった。だから私は、もう用済みだから、可哀想なバタリング・ラムを――何という余裕!――狩るにはおよばない、と答えた。

 大羊に何か興味があるとすれば、この界隈に馴染みのないApricotだろうが、前に姿を見かけた経験はあったのだ、という。もっとも実際に戦ってみたことはまだないそうなのだが。

 私たちがお喋りに夢中になっている間に、バタリング・ラムはあわれ、ハンターに瞬く間に発見され、とどめを刺されてしまうのであった。


 バルクルム砂丘を抜け、無事にコンシュタットに到着すると、運が良いのか悪いのか、もう一匹の大羊を発見することが出来た。せっかくだから狩っていこう、と誰かが言う。そのためにはチョコボを降りなければならないのだが、ご存じここにはデムの岩があり、傍らに厩務員が出張しているので、すぐに乗り換えることができる。しかも利用者がラテーヌほど多くなく、料金も手ごろである。私たちはApricotの記念にと、トレマー・ラムを総出で片付けたのであった。

 チョコボに乗りなおしてしばらくすると、Librossが、そう言えばこの近辺に空中花がある、という話をした。空中花というのは、文字通り空中に浮かんでいる花らしい。それは面白そうだ、というのでみんなで見に行く。詳しい場所の説明が難しいが、デムの岩のやや東側に、白い小さな花がふたつほど、空に植わっているかのように佇んでいる。女性陣などはそれを見て、口々に可愛い、と声を上げるのであるが、私などは、これは何の間違いだ、というようなことを口にして、無粋なことを言うものでないと、Librossにぴしゃりと叩かれてしまった(注1)


コンシュタット高地の空中花

 コンシュタットを抜けるともうグスタベルグである。緑の豊かなサンドリアから徐々に南下してくると、なおさらバストゥークの荒涼を実感するのであるが、このように岩と土だらけの殺風景な土地でも、同国出身の冒険者の胸には、ふるさとへの特別な思いが去来するのだ。

 グスタベルグの寂寥感は、この地で散ったガルカとヒュームの物悲しさのように思う、とLibrossが言うのだが、私の意見は少々違う。このように何もない土地で生きるという現実は、自ずと人間を自然に立ち返らせる。およそあらゆる生物の中で、生きる意味を問うのは――獣人はいざ知らず――人間だけだ。この国を興した殖民たちは、生きなければならなかったから、生きた。その人生は、悲痛なものだったかもしれないけれども、同時に力強く、誇りに溢れていたはずである。バベンがそうだったように。彼の仲間がそうだったように。

 この荒れた光景の中に、バストゥークが屹然として立ち、隆盛を迎えているという現実は、人間の存在そのものの力強さを体現しているように思えてならない。ジュノも、橋の上という立地条件や、経済大国という点で共通した部分があるが、不思議とそうした印象を感じさせないのは、やはり冒険者の郷愁と、両国互いに浅かりしとはいえ、積み上げてきた歴史の差によるのだろう。


 北グスタベルグに入ってまもなく、私たちは臥竜の滝に近づいた。Apricotにこの眺めを見せるために、私たちは橋の上で立ち止まり、おそらくヴァナ・ディール随一の勇壮さを誇る大滝を見上げた。

 私の前に、橋から釣り糸を垂れているヒュームの御仁があった。私はあっと声を上げた。彼は私の手記を読んでくれているが、まだ顔を合わせたことがなく、ちょうどApricotやRagnarokと同じ立場の知り合いだったからである。私たちは手を振り合って出会えたことを喜んだ。それにしても、まさかこの人たちが一同に会するとは、本当に何という奇遇だろう!



 南グスタベルグからバストゥークへは指呼の間である。Jackを待たせて悪いのだが、入国を果たす前に、私たちは少し寄り道をしていくことにした。

 かねてからRagnarokは、南グスタベルグにある名のない丘の向かい側に、面白いものが見える、と伝えており、前回滝の水を汲みに行く前に、とりあえず探し回ってみたのだが、それらしい風景を発見することは出来なかった。Librossも挑戦してみたのだが、やはり徒労に終わったものらしい。

 そこで、本人が一緒なので、どうせなら案内して貰おう、ということになったのである。私の案に異して、Ragnarokは丘から南西に向かう。私は向かい側と言われたものだから、てっきり海の向こうに何かが見えるのだろう、とばかり思っていた。なるほど何も発見できないはずだ。

 彼が私たちを案内したのは、切り立った崖の前だった。その壁面を見てみなさいと言う。一見なんの変哲もない崖にしか思えなかったが、注意深く目を凝らせば、壁面に奇妙な凹凸(おうとつ)がついているのが確認できた。

南グスタベルグの謎の壁穴

 私は首を捻った。いったいこれは何なのだろう?

 壁面に大きな彫り物がしてあるというのであれば、彫刻の一種だと判断するところだが、これはせり出しているのではなく、むしろ引っ込んでいるのである。

 しかも形が妙であった。墓石のようである。私は後から思いついて、例の名もなき丘の頂上にあった、道祖神を思わせる重ね岩を連想したのであるが、仮に正解であるとして、いったいそれを壁面に刻むことに何の意味があるのか、理解に苦しむ。

 しかもこの穴は、各段ごとに深さが違うようである。Ragnarokが指摘したところでは、一番下の苔むしている部分は、下から細かく見ることはできないが、どうやら通路のようになっているらしい、とのことであった。

 重ねて、Ragnarokの体験が奇妙なのである。彼は先ごろ――私がジュノへ上京したころ――冒険を始め、ほどなくこれを発見したのであるが、当時はこの穴も、ずっとのっぺりした印象で、最下段の苔など無かったのだ、という。いったいこの変化は何を意味しているというのだろう?(注2)

「世界には、不思議なことがあるものだ」

 私たちは首を振りながら、その場所を後にした。この穴が何か、不吉な出来事の前触れでなければいいのだが……。

注1
 「これは何なの? バグ?」が正確な発言。

注2
 考えられるのは、新ディスク『ジラートの幻影』で追加されるマップの出口なのではないか、ということです。「最初の段階では、とりあえず穴だけを開けておいたものが、向こう側の洞窟が作成されるにつれて、出口となるこちらの穴のグラフィックも立体的に変化してきたのだろう」というのが、目下のところ自然な解釈でしょう。穴のある方角には、旧ガルカの都跡を含む新エリアがありますから、この可能性は低くないと思われます。


(03.04.13)
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