その127

キルトログ、役人にたらい回しされる


 バストゥーク駐在領事は、パット・ポットという名のタルタル男性である。おそらく魔法学校の出身で、将来を嘱望された存在だったのだろうが、辺境の国へ左遷され(彼はそう信じている)、すっかりやる気を失い、初対面の筈の私にも、やたら愚痴をこぼす始末なのであった。

ミィ・ケット君!」

 受付の机に向かって、領事はお茶を出せ、と声を張り上げた。この部下のミスラが、また輪をかけてやる気のない様子である。お茶っ葉はとっくに切れてますよお、と言う。別の机に座っていたタルタルのお嬢さんが、では私買ってきましょうか、と立ち上がったが、さて売ってたかなあ、と首をひねっている。そう疑問に思うからには、領事館では客人にウィンダスティーを出しているのに違いない。

 嫌な予感がした。では君、買って来てくれたまえ、などと言われかねない雰囲気である。ウィンダスティーだとすると、はるばる海の向こうまで戻らなければならない。しかも儀礼的にそのお茶を飲まされるのは私なのである。

 お茶なんかいいから、と私が言うと、パット・ポットは申し訳なさそうに、こんな仕事をしていると、人の顔色ばかり伺ってどうもとぶつぶつ呟く。ようやく仕事の話に持ち込めそうだったが、肝心の概要を忘れてしまったとみえて、また奥へ向かって部下の名を呼ぶ。

トプル・クペル君!」
「何ですか」
 嫌そうな返事がある。今度はタルタルの男だ。
「依頼する仕事だよ! ホームシックだからってしっかりしたまえ!」
 ホームシックはあんただろう、と思ったが、これは黙っておく。
「たしか、パルブロ鉱山に行く用件だったと思うんですが」

 やっと本題である。パット・ポットがつまりながら話すには、どうもクゥダフに不穏な動きがあるとかで、その偵察を兼ねて、鉱山の最深部に向かうように、とのことである。何だか曖昧だなあ、とは領事自身の弁だが、指令を下す側がこの姿勢で、遂行に自信を持てるわけがない。「詳しい事は、大統領府にいるピウス殿に会って話を聞くように」とのお達しで、それならそう早く言えばいいのにと、私はさっさと領事館を後にする。


 階段を下りると、Librossが申し訳ないような、一方苦笑を押し殺すような顔つきで、役人にはたらい回しされるけど、あんまり怒らないように、と忠告する。彼の言葉を聞いていると、どうも公務員に関する感想というのは、世界中どこへ行っても大して変わらないものらしい。
 
 我々はバストゥーク政治の中枢、大統領府の扉を抜けた。領事館からは目と鼻の先にあり、私はこの点に関してのみ、バストゥ−クの建物配置をありがたいと感じた。

 ピウスという役人は、パット・ポットより随分と尊大な男で、せっかく他人を見下せる仕事に就いているのだから、思い切り威張らなければ損だ、と考えているかのような人物であった。

 困るんだよねえ、と彼は不快感をあらわにする。冒険者相手の依頼は本来大統領府ではなくて、役所の仕事となる筈なのだが、外国人相手だから、特別にこちらの管轄となるのだ、と言う。来てくれてさぞ迷惑と言わんばかりである。だから仕事が終わったなら、領事館へ報告に行くように、とのこと。肝心の調査の詳細に関しては、以前パルブロ攻略戦に参加した、グロームというガルカに聞いてくれ、という話だ。要するにピウスは全然仔細を知らないし、指令内容に興味だって持っちゃいないのである。

 そのグロームという人物は、大工房の食堂にいるらしい。世界に跨る依頼の終着駅が――終着するとして――食堂とは!! 私が首を振りながら部屋を出ると、私の連れたちは、大統領政務室の前に立つアイアン・イーターを遠巻きに眺めやっていた。ご存じウェライに銃の手ほどきを受け、現在ミスリル銃士隊に選抜されている勇士である。


勇士アイアン・イーター

 実はこの冒険の終りに、ミスリル銃士隊のもう一人と、奇妙な出会いをすることになる。詳細はそのときに触れることとしよう。


 大工房の食堂は、食いしん坊のハングリー・ウルフが顔を出すことで有名だが、今回用事があるのは、常駐しているもう一人の客である。大声で攻撃的な話し方をする点は、これまた典型的なバストゥークのガルカだ。

「ウィンダスの人間が、バストゥーク役人の言いつけに従って来たのか?」

 グロームは不快感をあらわにして言う。ガルカの単純明快さは、種族本来の性格であり、一種の美徳でもある。腹芸を好む一部のヒューム連中が、我々を扱いづらいと感じるのも当然だろう。

「俺のところに遣すヒュームの神経もどうかと思うが」
 まったく同感である。
「あんたの国の奴らも相当だな、おい」

 グロームはヒュームへの不満をさんざんぶちまけた。彼は危険区域に派遣され、九死に一生を得て戻った。しかも特に賞賛を受けるわけでもないし、役人は悪びれることなく、政務への協力を強要する。ヒュームへの不信感は相当つよいようだ。特にそれが実体験に基づいているだけに根が深い。

 攻撃的な口調が一段落して、グロームはようやく彼の秘密について話し始めた。

 近ごろ、馬鹿なクゥダフに組織だった動きが見られる。新しいリーダーが現れた、という噂があるが、真偽のほどは定かでない。いずれにせよ、謎の鍵は鉱山の最深部で得られるだろう。不思議な魔法陣があって、中に入った者は誰も帰って来ない。そこへ行けば何かがわかるかも知れない。

 同行するのはごめんだ、と彼は手のひらを振った。あんたもせいぜい頑張ることだな、と言って、グロームはそれきり黙り込んでしまった。


グローム

 私が概要を掴むと、Ragnarokが一同を集め、龍との戦い方について一席ぶち始めた。

 まず、ナイトであるJackが、ドラゴンを惹きつける。他のメンバーは、先に「目玉」と対戦し、これをやっつけたのち、全員でドラゴンを退治する。これが基本的な戦法となる。

 ドラゴンの吐く息には呪いの効果がある。だから前衛以外は、目いっぱい離れた地点から攻撃しなくてはならない。もし前衛が呪われたら、死を覚悟すること。何故なら誰も治すことが出来ないからだ(注1)

 普通の戦闘なら連携を繋いでいくところだが、ドラゴン戦の場合は、基本的にウェポンスキルを単独で放つ。その他、マイティストライクなど、効果的なジョブアビリティは惜しまずに使う。強力な黒魔法もどんどん打ち込んでよい。文字通りの総力戦である。私は我知らず、武者震いに全身をふるわせた。


 そこにある人物から、私のもとに連絡が入った。


 Ragnarokの説明が続く傍ら、私は彼女と打ち合わせをした。ドラゴン戦の6人は、もう揃ってしまっている。しかし、もし顔だけでも出してくれるなら、みんな喜ぶだろう。あなたには迷惑かもしれないけれども。

 彼女は快諾した。コンシュタット高地から、チョコボに跨ってこちらを目指すという。

 私は一同にこう話した。

「皆さん、Kewellさんが、こちらにいらっしゃるそうです。パルブロ鉱山の入口で、彼女と落ち合いましょう」

注1
 ダークドラゴン戦にはレベル25キャップがかかります。これは、25以上のレベルである者も、戦闘に入れば25レベルまで一時的に引き下げられることを意味します(レベルオーバーの装備は、その時点で脱げてしまいます)。
 ところで、呪いを解く白魔法カーズナは、29レベルの魔法なので、戦闘中に呪いを解除することはできません。同魔法を覚えている白魔道士がいれば、戦闘後に呪文を唱えて貰うことは可能でしょうが。


(03.04.20)
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