その128 キルトログ、パルブロ鉱山最深部を調査する 私の先輩であるKewellは、彼女自身の手記と友人網によって、既にそれなりに知られた人物であったが、私の手記に目を通してくれている友人たちには、普通に彼女を知る以上に、親近感を感じて貰っていたに違いない――私はそう信じる。もし以上のような事実がないとしたら、私の筆がまだまだ拙い証拠だろう。 いかに故郷への旅とはいえ、パシュハウ沼から駆け戻って来るのは、彼女にとってもしんどかった筈だ。それが無理を言って、わざわざパルブロ鉱山の入り口まで来て貰ったのである。私は申し訳ない思いだったが、その傍ら、Kewell本人が目の前にいるということで、みんなが感激をし、口々に挨拶をしたり、手を振ったりしているのを見るのは、決して悪い気分がしなかった。 それで、当のKewellはといえば、彼女自身の髪と見まがうほど、頬を赤く染めて、ひとしきり照れているのであった。この場をお膳立てした私は、にやにやと笑いながら彼女の様子を眺めていた。
ところで、Jackのことを忘れてはならない。我々がチョコボに乗り、空中に浮く花とか、滝とか、岸壁に空いた奇穴などを観光しているあいだ、彼はありったけのつるはしを背負い、一人で鉱山の地下へ下りて、採掘にいそしんでいたのである。 従ってKewellと出会ったとき、彼はまだ合流しておらず、我々は5人のままだった。挨拶は済んだが、彼女とここでさようならするのも切ない。どうせだから、魔法陣の手前まで同行して貰うことにした。随分と厚かましいお願いなのだが、Kewellもただ帰るつもりはなかったとみえて、一人だけシーフ34とずいぶん高めのレベルながら、我々のパーティの一員となった。 問題はJackである。もし彼がこの6人組を見ると、自分ひとりがのけ者にされたような印象を受けるだろうから、友だちであるRagnarokの口から、あらかじめ事情を説明してもらうことにした。彼が合流したら、アライアンスを組みなおせばよろしい。 我々は満を持して、洞窟の入り口を潜る……。仲間が心強くもあるし、先が心細くもある。複雑な心境だった。 打ち捨てられたパルブロ鉱山は、入り口の近くこそ粗末な洞窟だが、じゅうぶん奥まで進むと、多少古ぼけてはいるが、立派な石造りの坑道が現れる。 洞窟にいるクゥダフは、もはや用を足しながらでも倒せるような、弱っちいやつばかりだった。我々は難なく石畳の通路を進んでいった。さすがにここまで深くなると、周辺をうろつく亀どもも、多少強めになっていたが、我々のような猛者が6人も揃って、真正面から斬り合っていれば、四足の亀づれに遅れをとるとは考えられない。 我々は奴らを、片っ端から血祭りにあげた。ちょっとした虐殺ショーだった。これが不用意なリンクを避ける、最も確実な方法なのである。無益な殺生だと、謗りたい人は謗るがよろしい。私は自分に忠実であるし、冒険者の本質――少なくともその一部から、目を背けるつもりは全くない。ついでに、獣人を蔑み、恨んでいる自分の感情からも。 いつしか我々は、私が以前到達した、最深地点を通り過ぎていた。Librossがわざとだろう、道をそれて、V・O氏の工具箱をいじりまわし、苦笑しながら戻ってきた。そこで誰かが(誰だったろう?)そう言えばここから卵の部屋が近い、と発言した。 「何の卵?」とRagnarokが尋ねた。 「ああ」Jackが合点合点した。「見たことある」 少なくとも、私とApricotに、事情のわかろう筈がない。 「気持ちいいものじゃないでしょ」 「せっかくだから、見に行ってみましょう」 不思議な洞窟だった。石造りの通路はいつしか途絶え、また自然のままの、ごつごつした岩肌が露出した場所で、我々は地面から白い蒸気のふき出す、蒸し暑い岩部屋で立ち止まった。
何個ものへこみのある、甲羅のような半球が、岩棚の表面からいくつも突き出ていて、それぞれに5個から8個ほどの卵が添えられている。明らかに何者かが、地熱で卵を温めて、孵化させようとしているのだ。 クゥダフの卵だ。私はぞっとした。 奴らは卵生か、とLibrossが呟いた。 我々は近くに寄って、それをしげしげと眺めた。亀は通常、地面に卵を埋めて、地熱で孵化をさせる(たいていこの時の温度で雌雄の別が決まる)。むろん爬虫類は、道具を使うほどの知恵を持たず、自然の摂理のもとで、あらかた捕食されてしまうわけだが――クゥダフどもは知恵を絞って、何とか出生率を高めるための方法をあみ出したというわけだ。いや、必ずしも、奴らの発明というわけではないかもしれない。影にいる何者かが、余計な知恵を授けた可能性もあるではないか。 これは小耳に挟んだ噂で、真偽のほどは定かでないが、パルブロ鉱山はもと、亀獣人の聖地だったのだという。この地下の熱が、クゥダフの多産――数え切れないほどのヤング・クゥダフを最下層とし、知恵や力に優れ、運に優まれた者たちが、上に進む階級社会――を支えているのだとしたら、確かに奴らが、ここを「約束の地」だと認識したとして、何の不思議もないだろう。 私は感嘆の言葉を飲み込みながら、卵の部屋を後にした。 「プレジデントのおみやげに持っていくかい?」と、バストゥークの人に少々辛らつな冗談を言ったつもりだったが、卵を好きなのは大統領じゃなく大臣だと、Kewellに訂正されてしまった(注1)。 我々は遂に目的地までたどり着いた。
この奥に、目指すものが――何であれ――待っている筈だった。私はグロームの言葉を思い出した。同時に、竜の呪いについて語った、Ragnarokの話も。 全員が乗っても、魔法陣はびくとも反応しない。どうやらリーダーである私が、中に入るという決断を下さなければならないらしい。 私はKewellに手を振った。みんなも振った。彼女が振り返した。また会おう、と言った。出口で会おうと。6人とも無事で。 そして我々は、ひと呼吸したあと、地下へ――底知れぬ闇の中へと落ちていった。 注1 バストゥークのミッション2−2「涸れ谷の怪物」では、太った大臣からトカゲの卵を入手して来るように依頼されます。その目的は――彼が珍味を味わいたいという、それだけの理由です。 (03.04.30)
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