その130

キルトログ、贈り物を貰う


 『目玉』が言い残したことの意味を、私なりに考えているうちに、仲間たちは通路を辿り、「船着き場」にたどり着いた。なるほど橋げたに四角い小船が一艘くくりつけられている。傍らでKewellが、我々に向かってにこやかに手を振っていた。

 渡し守の姿はない。代わりに、傍らにレバーが見える。どうやらこれを引いて離岸しろということらしい。我々が全員で乗り込むと、狭い小船はそれだけで満員になったが、仲間たちがレバーを探っているのに、船はいっこうに岸を離れる様子がない。


船は動く様子がない

 どうも定員オーバーらしい、と誰かが囁く。7人では駆動しないのだ。何となく私に向けられる目線に冷たいものを感じる。私はガルカとしては並の大きさに過ぎないのだが、こうした弁明は、タルタルと一緒だとあまり役には立たない。何しろ傍らのApricotは、私の手袋ほどの身長と体重しかないときているわけだから。

 私は前に進み出て、試しにレバーを引っ張ってみた。途端にがくんと船が振動し、水面を滑り出した。何だ動くじゃないか、と仲間の顔を伺ったが、数えてみたら5人しかいない。皆の顔が凍りついている。どうやら一人置き去りにしてしまったらしい。取り残されたのはKewellだった。私は頭を抱えた。わざわざ助っ人に来てくれたというのに、これでは何ともきまずい幕切れではないか……。


 幸いKewellは、すぐに我々を船で追い、ほどなく合流した。私の失敗が取り消されるわけではないが、大事にいたらなかったという点で、まずは一安心である。

 我々が到着したのは、ツェールン鉱山内の鉄扉のこちら側――すなわち、以前警備兵が通してくれなかった場所であった。前に鉱山内の掃除をしたおり(その76参照)、扉向こうに流れる水脈は、パルブロ鉱山が源流であって、ミスリルの運搬に利用されていた、という話を聞いた。この逸話が今ごろ役立つとは思わなかった。鉱石を運んだ船にしては、重量オーバーで作動しなかったのはご愛嬌である。きっと施設が古くなっていたせいだろう。


 鉱山および地下水脈と、閉鎖的で気の沈むような場所からの脱出ということで、バストゥーク共和国の上空に輝く太陽が、いつにも増して眩しいように思われた。

 私は、私とApricotの任務遂行に力を貸してくれたことに、心から礼を言った。友人たちは我々を取り囲んで、口々に祝福の言葉を述べるのだが、何だか面映く感じられる。振り返ってみれば、任務を受けた当人であるのに、全然大したことをやっていなかったように思うからだ。

 やがてRagnarokがかしこまり、「本日の主役」に贈り物があります、と言う。そしてプレゼントを私に手渡そうとする。品物が何であるかを見て私はひどく驚いた。皆は口々に、何だ何だと彼に尋ねるのであるが、Ragnarokは苦笑しながら、黙ってJackを指差すのみである。

 これは別に謎かけでも何でもない。Jackがそのとき着ていた鎧は、百人隊長鎖帷子と言って、30レベルの戦士が身につけるには、最高の防御力を誇る一品である。合成やモンスター・ドロップでは入手できず、個人戦績に応じてバストゥークから支給される品のみのため、バザーや競売所などでは大変な高値で取引される、非常に価値のある鎧なのだ。

 こんなものを貰っていいのだろうか、とRagnarokに言うと、彼は片手を振って、この贈り物に関しては、前から決めていたことだ、と問題にしようとしない。すると皆が、何か自分も負けていられないというような、いわばプレゼント熱というものがにわかに高じたらしく、めいめいに持っている高価なものを私にくれようとする。

 例えばそれは、宝箱から出てきたプラントリーパーという両手鎌であったり、敵から盗んだばかりの獣人ミスリル貨だったりしたわけだが、一人のプレゼントを貰っておいて、他の人を断るというのも、筋が通らない話だ。荷物袋に贈り物を詰め込みながら、私は、この埋め合わせをするには、もっと広くヴァナ・ディールを見聞きして、自分が書いているこの手記を、より充実したものにするしかない、と考え、決意を新たにするのだった。


 我々はツェールン鉱山前で解散した。ひどく疲れていたApricotとJackを帰して、我々はRagnarokを筆頭に、Kewellを例の岩壁の奇穴のところへ連れて行った。これが一体何であるかを話した結果、別の島から通じている出口ではないか、という結論に落ち着いた。確かにこの方角には、遠い彼方ではあるが、今は往来が禁じられたゼプウェル島が位置している。

 同島は、ガルカが旧文明を築いたアルテパ砂漠が存在することで知られる。物理的にも実力的にも、今はまだ叶わない話だが、いつか私も同地を踏めるだろうか。果たしてその時はいったいどんな気持ちがすることだろう?

 私はもの思いにふけりながら、モグハウスで身体を休めた。私は以後、冒険を中断し、長い休みに入ったのだが……はたしてこの時、世界がこれほどまでに変化するとは想像できたであろうか?

(03.05.03)
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