その132

キルトログ、山奥の秘湯につかる(1)

ゲルスバ砦(Ghelsba Fort)
 オーク帝国先遣部隊が駐屯する木製の頑固な城。
 この砦の中で、オーク族は長射程の投石機や、破城槌を多数作り上げ、着々とサンドリア攻略の準備を進めているらしい。
(ヴァナ・ディール観光ガイドより)
 モグハウスを久しぶりに抜け出し、外へ出てみたら、南サンドリアだったのでひどく驚いた。少し考えて、そう言えば皆と別れ、一晩休んだあと、ささやかな用事でサンドリアへやって来、結局ここのモグハウスで一ヶ月を過ごすはめになったのだ……私はそれを休みぼけの頭でぼんやりと思い出した。

 と同時に、ミッションが無事終了した次第を、バストゥークとウィンダス、どちらの政府にも報告していないことに気づいた。これはいかんとチョコボを借り出しに行く。世界情勢の変動により、また冒険者の数が増したものと思われるが、貸し出し賃は100ギルにも満たない。ジュノに人が集まっている構図は変わらないわけだ。なるほど同国が譲歩して、特産品交易の輸入優先権を放棄するのも頷ける(注1)


 ロンフォールの森へ出る。外見は特に変わった様子はないが、ときどき冒険者の傍らに、見たことのない生き物が寄り添っているのを確認する。光り輝くリスのようなのは召還獣の一種だろうし、またこれは後でわかったのだが、タンチョウのように飛び回っている鳥は――そうは見えづらいが――駆け出しの竜騎士に寄り添う竜の子供であるらしい。

 ラテーヌ高原に入ってしばらく経ったころ、私がモグハウスから抜け出てきたのを、目ざとく見つけたLeeshaが、真っ先に声をかけて来た(注2)。私は彼女と会うためにもと来た道を辿っていった。

 Leeshaは復帰祝いと称して、私のためにガルカの伝統料理を作ってくれた。アイアンパンは外皮が鉄のように硬いのでこう呼ばれる(他種族のやわな顎では噛み切ることすらできまい!)。このパンを生成していると、ごく稀にスチールパンという上等種が出来ることがある(注3)。彼女はどうせならそれを食べさせたかったらしいが、多分に運に左右されるものだから、気持ちだけでも十分ありがたい、と感謝の言葉を伝えてよしとした。

 手作りのパンはいちダースもあるので、一つだけ口に放り込む。モグハウスの金庫は食料も新鮮に保存できる。モーグリ君の苦労をないがしろにするわけではないが、やはり焼きたてのあつあつをその場で食べるのは、気分の面で大きな違いがあるのである(注4)


 Leeshaが、温泉に行ってみませんか、と私を誘う。その話は聞いたことがあった。ゲルスバの奥の奥に岸壁から湧き出る秘湯があって、一部の冒険者にひそかな人気を呼んでいるという。

 私はドラギーユ城に赴き、神殿騎士団の本部に足を運んだ。クリルラ団長は女性ながら有数の剣の使い手だ。面当ての隙間から前髪がひとふさ垂れて、左目を覆い隠している。彼女の冷たい美貌はそれで一層引き立っているのだが、鎧を着ていてこれでは、遠近感をつかむのに邪魔になるだろう……と思うのは、よそ者の余計な世話というものか。

 彼女は人目を避けるように、私に頼みごとをする。ホルレーの岩峰の奥に温泉が沸いているそうだが、この湯を汲んできてくれないか、というのだ。なるほどクリルラが、秘湯を汲ませるために、信頼できる冒険者を探しているという噂は本当だった。そのくらいいくらでも部下に頼めばよかろう、という気持ちを、彼女は最初から見越していて、騎士団の連中を使わないのはいろいろわけがあるのだ、と先に釘をさす。もとより私に依頼を断る何の理由もない。

 頼りになる先導人がいるので、迷い道の心配をしなくてすむわけだが、何せ久しぶりのヴァナ・ディールだから、私は妙に新鮮な気持ちで周囲を眺めやっていた。だから何度もLeeshaの姿を見失って、申し訳ないことに、そのたび彼女に無駄な足踏みをさせてしまう。

 覚えのある吊り橋を渡り、我々はバットギットと死闘(奴にとって!)を演じた野営地の真ん中まで来た。前回は気づかなかったが、天幕が張られていて、中央に粗末だが、明らかに権力者が座るための大椅子が備え付けられている。どうやらバットギットの私物であるらしい。

 Leeshaは遊びで、椅子の上に飛び乗ってみせてから、天幕の裏にある通路を通り抜けた。「Kiltrogさん、きっと驚きますよ!」と彼女が請け負う。

 果たしてトンネルを潜ると、切り立った崖の上に、集落の屋根がつらづらと並んでいた。ここから先が、オークの本拠地ゲルスバ砦なのである。

オークの住居?

「ここには生活臭がありますよね」とLeeshaが言うように、ゲルスバ砦からは、オークの普段の生活ぶりがはっきりと伺われる。奴らの知能や文化程度を考えると、住居が高床式なのもさして驚くに値しない。柱と柱の間に紐をさし渡し、食料をぶら下げているのも散見される。おそらく干して保存食を作るという生活上の知恵であろう。

 尖った杭が一面に植えつけられている壁面を通り越すと、粗末な木製の塔がちらほら見えるようになる。あれは何だとLeeshaに問うと、おそらく見張り台だろう、という答だ。両腕が不器用そうな割にはしっかりと出来た建造物だが、先を尖らせた木材を八方に向けて植えてあるのが解せない。塔の用途もよくわからないが、そのような仕掛けが、敵の撃退にさほど効果的とも思われない。家の作りを見てもわかるように、使う柱使う柱すべてが先を削ってあるので、あるいは単なるオークどもの気分の問題なのかもしれない。


槍ぶすまの壁
塔。
見張り台と思われるが……

 ところでオークの陣地には、それこそ馬鹿のひとつ覚えのように、随所にあの二重丸のマークを染め抜いた麻布が翻っている。旗印にしては実生活に深くかかわり過ぎているように思うので、おそらく宗教的な意味――例えば浄化を表すお札のような役割があるものと推定される。

 一方Leeshaは、印が『闇』を表現しているのではないか、と自説を披露する。なるほど紋章は日食の様子に見えないこともないし、それはあり得る話だ。ただ、だからといってすぐさまオーク性悪説に飛びつくのは軽率だ。確かに斧や剣で斬り合っている最中には、奴らは生まれつき邪悪に違いないように思えるものだが、そもそも生物的には夜行性だから、奴らがもし闇を信奉しているとするなら、それは、我々が太陽のもとで光を信奉するのと、全く同じ様な理由によるものなのかもしれないのである。

 私は何も、オークが本当は邪悪でない、などと寝ぼけた平和主義を説く気はない。人間は往々にして、人間の営みに反する生き物を全否定しようとする。害虫、害獣は人間との関係上そう呼称されるが、そもそも自然界の中で自分たちの役割を果たしているに過ぎない。その属性を無理に善だ悪だと解釈するのは非科学的である。私は残忍で野蛮な獣人たちを、残忍さと野蛮さゆえに嫌うのと同様、非科学的な発想を、その非科学性ゆえに嫌悪しているのである。


木製のエレベーター。
粗末だがちゃんとレバーで作動する

 崖に近づいていくと、雄大な機械――といっても木製だが――が我々を見下ろす。何と上にあがるためのエレベーターである。見かけよりずっとしっかりしていて、レバーを引けば快適に可動床が上下するようになっている。高床式の住居に住む獣人どもにしては立派なものだ。もっとも、入れ知恵をする者がいると知った近頃では、獣人文化を表面通り素直に受け止めることができないでいるが。

 我々は崖の上へ上がった。ここから砦の本拠地である。目指す秘湯はまだその先にあるのだ……。


注1
 ジュノで全コンクエスト対象地域の特産品が購入できる、という特典は、『ジラートの幻影』バージョンアップ後になくなりました。

注2
「このときLibrossも声をかけてきていた。彼は勇んでエルシモ島へ出かけたのだが、ユタンガ大森林で道に迷ってしまったという」(Kiltrog談)

注3
 生産の際にまれに出来る特別品をHQ品といい、高値で取引されます。

注4
 アイアンパンの効能→効果時間のあいだ、VIT+1, HP+4。

(03.05.03)
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