その134

キルトログ、タルットカードを集める


「なーんと、そんなことがあったんですか、ひゃあ、こわいこわい……」

 一ヶ月遅れだが、闇の魔物と戦った顛末を報告に行くと、バストゥーク駐在領事パット・ポットは、首を振りながら、緊張感のない口調でそう言った。傍らでは秘書らしきトプル・クペル君が空返事をしている。

 パット・ポットは、やる気のない部下を叱責してから、文書を作成させると、これを天の塔に届けるように、と言う。闇の血族報告書とある。何だか仰々しい感じだが、私の報告を忠実に記述したのなら、仰々しくて当然だろう。何せ第二次クリスタル戦争の危機が迫っているのだ。

「これで本国へ凱旋ですね」

 パット・ポットは私を送り出しながら、領事館員はちゃんと働いてると報告お願いします、と言い添える。ちゃっかりしたものだ。この男は将来、案外いいところまで出世するかもしれない。


 バストゥークで一晩を過ごし、明朝私はチョコボに乗って、ジュノを目指して出発した。

 ウィンダスへ直接向かわなかったのは、待ち時間のある海路を敬遠したからである。さすがに陸路だと非常に大回りになり、半日でとてもウィンダスへは戻れないので、一度ジュノで降りてから、新しいチョコボに乗り継いでいくつもりだった。三国におけるレンタル料は100ギルを切る程度で、良心的である。問題はジュノだ。ここと三奇岩の出張厩舎は、利用者がやたらに多いせいで、日や時間によっておそろしく高額に達するのである。

 
 はたして厩舎へ行ってみたら、730数ギルという、目玉の飛び出るような高さだった。私は仕方なく、ジュノで一泊することにした。

 どうせだからと、モグハウスの荷物を整理して、戦利品その他を競売所へ出した。雄羊の毛皮の値が下がっている。以前は1000ギルで飛ぶように売れていが、今では300、400ギル程度にまで落ち込んでいるようだ。少々残念だが仕方ない。もともと価格というのは流動的で、需要と供給のバランスが崩れるとあっという間に変動してしまうものなのだ。


 私の荷物の中にタルットカードというのが入っていた。ジュノの占い館で貰ったもので、3人の人とカードを交換しあい、4種類をそろえなければならない(その120参照)。

 人の多いところで呼びかければ、カードはすぐ集まるとLeeshaは言っていた。それを試してみることにする。

 私が持っているのは「愚者」で、「王者」はLeeshaに貰ったから、残るのは「亡者」と「隠者」なのであった。すると何とも都合のいいことに、たった一度の呼びかけで、「亡者」と「隠者」の持ち主に声をかけられ、トレードが成立した。時間にして10分もかかっていない。さすがに人が多いだけのことはある。おそらく問題の占い館が、まさにこのジュノ下層にあることも関係しているのだろうが。

【愚者】 正位置「自由」 逆位置「逃避」
【亡者】 正位置「悲哀」 逆位置「開放」
【王者】 正位置「統率」 逆位置「不信」
【隠者】 正位置「知識」 逆位置「孤立」

 カードをめくったときに、絵柄が正しい方向に向いていれば正位置、逆ならば逆位置といって、それぞれに意味が変わってくるのである。占い師はその暗示を総合して結論を出すのだ。


 私がチュルルの館に行き、4枚のカードを手渡すと、どこからか青髪をひっつめに結んだタルタルが現れて、こんな店で占いをしてもらうのはやめた方がいいですよ、と言う。

「まあ、あたしのお客さんに何てこと言うの!」とはチュルル。このクロウ・モロウという青年(?)は、どうやら隣でもう一軒べつの店を構えている占い師のようだが、話を聞くところによると、チュルルとはお互い幼なじみで、知らない仲ではないらしい。

 クロウ・モロウの言うところによれば、チュルルは母親も占い師で、本人曰く「ベテラン」なのであるが、学校の成績は散々であった。一方自分は学生のとき、寸暇を惜しんで練習をした。結局のところ占い師の腕というものは、基礎の習得がものをいうのだ。

「君なんかとは意気込みが違う!」と彼は、幼なじみに向かって指をつきつける。

「だからって、あたしの占いが駄目だってことにはならないじゃないの……」と反論は少々力ない。

 クロウ・モロウは鼻で笑って、

「確かに正確かもな。何せ君とボクの相性はちゃんと「サイアク」って出てたもんな。ハッハッハ!」

 高笑いをしながら行ってしまう。チュルルはその背中を目で追いながら、頬を膨らませた。
「フン、あたしとの相性が「サイアク」なのがそんなに嬉しいのかしら!」

 必ずしも彼女の言う通りではないのではないか、と思う。不吉な占いが当たったからと言って、占い師当人に恨みの矛先が向く、というのはよくある話だ。もしクロウ・モロウがその口だとすると、彼女との相性が悪く出た、しかもその占いが当の彼女から出された、という事実に、憤りを覚えているということになる。

 もし彼が、彼女との親密な関係を望んでいるのであれば、「チュルルの占いは当たらない」という結論に持ち込まざるを得ないわけだ。また彼にとってみれば、彼女は商売がたきである。そこに多少の照れが加わったとするなら、本当は好意を抱いていたとしても、ああいう態度に出る可能性はあるだろう。むろん、まるっきり見当外れの推測かもしれないのだが……。


 さてチュルルは、場をとりなすように、あんなやつの言うことは気にしないで、いつでも来て下さいね!と言う。だが相性占いは、近くにその対象となる相手がいないと実行できないらしい。早い話が二人で店前に立つ必要があるわけだ。

 そのとき私の隣には、髭のヒュームが一人いるのみであった。

 私はモグハウスに帰って、荷物整理の続きを黙々と行った。


(03.05.05)
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