その135

キルトログ、天の塔へ報告書を届ける


 翌日起き出して、すぐにチョコボ厩舎に出かけたが、法外とは言わないまでも、じゅうぶん財布を開くのにためらうような値段だったので、もう一日待つことにした。結局二日間足止めを食らったことになる。幸運にも読者氏の一人に出会うことが出来たから、結果的にこの滞在は無駄ではなかったのだが。


 私は無事にチョコボに乗って祖国へと帰り、報告書を持って天の塔の門を叩いた。

 まだウィンダスを訪れたことがない人に、ここの荘厳さを説明するのは難しい。フロアを包むのは緑の柔らかい、温かい光である。星の大樹の巨大な根の一つが、石造りの壁を貫いたりしているのだが、この場の空気がもたらすのは、そうした豪快さよりも、有機物と無機物が融合した調和の美しさだ。そう、調和こそまさに自然の本質である。

天の塔内部

 1階の中央に、神秘的な泉が鎮座するのだが、噂通りに星を写すことがないと言って、失望する観光客は少なくないという。天文泉は残念ながらこれではない。係員の説明によると、それはもっと上階にあって、星の神子さまが、天の啓示をきくのに使われるという話だ。

 星の大樹の役割は、天の星々と大地とを結び、人々の想いを空へ、未来へ導くことである(少なくともウィンダスではそうみなされている)。タルタルはエルヴァーンのように、アルタナの教えを頑なに守ることで、神へ恭順の意を示すようなことはしない。彼らの念頭にあるのは、ルールではない、自然への畏敬の念である。アルタナ教の根源的理念への共感はその延長上にある。場合によっては、エルヴァーンに冒涜と取られかねない大らかさが、ミスラ族の信頼を勝ち取ったのは確かだ。というのは、ミスラ族もまた、独自のやり方で自然を尊ぶ種族だからだ。

 天の塔内部で聞いた噂だが、星の神子さまの側近であるミスラの一団――セミ・ラフィーナを筆頭とする守護戦士たち――は、20年前の大戦でみんな親を失っているのだという。彼女たちが今の地位にいるのは、何か彼女たちなりの恩返しなのかもしれない。
 

天の塔地下
木の実の収穫

 天の塔に地図はない。そのため少々気づきにくいのだが、地下のフロアに向けて階段が下りている。私はせっかくだから大樹の根元を見ておこうと思った。

 星の大樹というのは、もともとは小さな、タルタルの頭ほどの木の実であったが、何の奇跡か、かかるほど巨大に成長したため、タルタル族の――ひいては、連邦全体の守護神とみなされるようになった。

 地下には清らかな水が湛えられており、星の大樹から取れた木の実を植えて、大樹の子が育てられている。その苗が成長し、固い、茶色い木の実をつけるわけだが、この一個一個がカーディアンの頭になるそうだ。カーディアンは星の大樹の孫なのである。そう考えると、タルタルたちがあの自動人形を大事にする理由が、何だか少し理解できる気がする。


「おっかえりなさいなのです」
 
 天の塔の受付嬢はクピピという。私が顔を見せると歌うような調子でそう言った。

 私は奥の扉を眺めた。前回ここで指令を受けた際には、あそこから偶然にもセミ・ラフィーナが下りてきて、貴重な出会いが経験できたものだった。そして今回、私が経てきた冒険は、そういうセンセーショナルな序章に似つかわしい内容だった、と大いに自負している。

 しかし事務の処理はあっけないものであった。クピピ嬢が帳面に書き付けておしまいである。奥の扉が動くこともない。私が懐に手をやると、「おみやげなのです?」と彼女は身を乗り出したが、それがパット・ポットの報告書であるのを見ると、あからさまに失望した様子を隠そうともしない。

 カウンターから離れない私に、彼女は、「まだ用事があるのです?」と嫌そうに語尾を上げて、「ああそうそう」と、一通の許可証を投げて寄こす。冒険者の証というこれは、政府の認可を受けて三国を廻ったお墨付きの書類だ。すなわち、国際人としての保証書である。

「よかったですね、さっさと帰れなのです」

 容赦がなく追い出されてしまう。3000ギルという、なかなか贅沢な賞金を貰ったうえ、ランク3に上がれたのはいいが、バストゥーク領事館員は勤勉に働いてます、などと、言い伝えるタイミングすら見つけられなかった。

 申し訳ない、領事どの。


(03.05.07)
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