その136

キルトログ、コロロカの洞門を覗く
コロロカの洞門(Korrolaka Tunnel)
 はるか昔、獣人に追われたガルカの民が、ゼプウェル島からクォン大陸に移住する際に通ったとされる天然の海底洞窟。
 陸生の珊瑚が繁茂し、美しい景観を作り出しているが、ガルカにとっては、ここは多くの同朋が倒れた悲劇の場所であり、珊瑚はその血を吸って成長したと信じられている。
 共和国工務省によって、数百年もの間、禁断の地と定められていたのだが……。
 ウィンダス政府からお墨付きを貰った私は、意気揚々とジュノに引き揚げ、傭兵稼業を再開することにした。

 それにしてもジュノは凄い人出である。昔から混雑していたが近頃は特にひどい。新しいエリアの広がりとともに、いくらか人間も分散するだろうと思いきや、逆に出戻り組が増えたようだ。

 というのは結局のところ、忍者や侍、あるいは竜騎士など、新しいジョブを得たとしても、結局は鍛錬を重ねるために、この国へ大勢が戻ってくるからである。また何処で狩りをするにしても、人間が多いジュノへ来るのが、人を集めるのには何かと都合がいい。レベルが高くなれば移動の苦労は大幅に減少する。ジュノでチームを組み、飛空挺や魔法を駆使して、狩場へさっと渡ってしまう方が、閑散とした三国で必死に呼びかけを行うよりも、ずっと有益で賢いやり方なのだ。

 この結果起こることを話そう。前衛の職種が溢れ、供給過多になり、私のような戦士がなお声をかけられなくなる。求人の旗を掲げながら過ごす――1時間、2時間――のは、お世辞にも楽しい経験とはいえない。確かに街には人が多いが、時間も押し迫ってくると、白魔道士があらかた姿を消し、これ以上誘われる見込みが非常に薄いことがわかる。それでも一縷の望みを抱いて立ち続けることの切なさよ! この苦痛はきっと多くの人に理解して頂けるだろう。


 ル・ルデの庭でApricotに会った。彼女はモグハウスから出てきたばかりだと言う。彼女と雑談を交わしているうち、まだまだ縁が薄そうとはいえ――とは、お互いに鍛錬が足りないからだが――新エリアに関する話となった。

 冒険者が新しく行ける場所のうち、目玉はエルシモ島とゼプウェル島である。エルシモ方面に定期便が出ていることもあり、私は漠然と飛空挺でなければ到着できないような気がしていたが、ゼプウェルは歩いて行けるのではないですか、とApricotが言う。コロロカの洞門がツェールン鉱山奥に繋がっているわけだから。なるほど言われてみれば確かにその通りである。

 ジュノでじっとしてても声がかからず、埒があかないので、狩りに出かけるらしいApricotに手を振って、ものはためし、バストゥークへ行ってみることにした。


 私が冒険を始めた頃は、大変な賑わいを見せていたバストゥークも、今は全盛期の半分から3分の1程度に人が減っている。そうでなくてもジュノを見慣れているから、余計に商業区が閑散としているように感じられる。

 それにしても私程度のレベルの者がいない。先刻の説明に従えば、人がいなくて何の不思議もないわけだが、いくら何でも全く街をうろつかないことはないだろう、と不安が募る。そもそも門戸が開いているかどうか確かめないで来たのである。むろん鉱山に入ってみればすぐ判るのだが、入り口の木枠を潜る間も、果たして単なる徒労ではなかったか、という思いがなかなか抜けず、足どりが重く感じられるのだ。

 果たして柵格子は閉じられている。警備兵の手前に見慣れぬガルカがいて、ヒュームどもしか通さないのは不公平だ、と声高に不満を訴えている。私が警備兵に話をしたら、この扉はそもそも誰も通さないのだが、勇敢な冒険者のみ通行を許す、とのお達しで、あっさり先へ進むことが出来た。どうやら種族は関係ない様子である。とはいえ警備兵が、勇敢と無鉄砲をどうやって識別しているのかはよく判らないのだが(注1)


コロロカの洞門内部
 
 龍を倒したあとに流れ着いた橋を越えると、天井の高い鍾乳洞に出た。海底を抜けているだけあって、空気はひんやりと湿気を帯びているが、不快な感じはしない。街では見かけなかったレベルの冒険者たちが、そこここで陣形を整えている。私は彼らの間を縫うように一歩一歩あるいていった。

 ところで、私は洞門の地図を持っていない(ふところを探ってみてから、この当たり前の事実に気づいた!)。むろん目の前に道が広がっており、物理的に邪魔するものがない以上、ひたすら奥へ進むことはできる。だがこれは賢明とは言えまい。少なくとも地図は必須だと思うし、それが叶わないなら、せめて屈強で信頼できる仲間と一緒に進むべきだろう。ゼプウェル島へたどり着きたいのは山々だが、私にだってそれくらいの分別はあるのである。

 幸い道は分岐することなくまっすぐ奥へ向かっている。鍾乳石や石筍が随所に見られるが、洞窟の幅は広く、通行の邪魔にはならない。岩を彫りぬいた階段などもあり、人の手が入っているのは確実だ。ヒュームが加工したものだろうか。それともガルカが?

 歴史が伝えるところによると、蟻獣人との激闘に敗れたガルカたちは、この洞窟を通ってバストゥークに渡ったという。敵の攻撃を背中から受け、多くの「先祖」が――とは、妙な言い方だが――ここで命を落とした。600年を経た今になって、多数の冒険者たちが、逆の道を辿って、彼らの……我々の故郷を目指すことになろうとは!

 多数の死者を出した危険な洞窟ではあるが、これまでのところ、コウモリと頭でっかちのクモくらいしか目につかない。このクモが自ら襲ってくることはないようである。私がさらに奥へ進むと、黒いねばねばしたかたまりが地面を這っているのを目にする。ジェリーである。そう言えば同種の化け物をシャクラミで見たな、などと考えているうち、このいやらしい生き物が、体を蠢かせながら攻撃を仕掛けてきた。

 私は28レベルである。強さから言えば、そうそう苦労することなく倒せる相手なのだが、いかんせん相性が悪かった。スライム系の生き物は体質上、刃物ではほとんどダメージを与えられない。私は数種の武器を使いこなせるよう訓練しているが、格闘、槍、片手斧、片手剣、いずれも文字通り歯がたたない。私にも戦士としての意地があり誇りもあるが、さすがに安全には代えられぬ。さっさと見切りをつけて洞窟を駆け戻ることにした。この判断は結果的に正解だった。

 600年前、ガルカ族が獣人から敗走した洞窟を、いま一匹の「子孫」が、ぶよぶよしたジェリーに追われて駆けぬける……。繰り返される歴史! だがその何と無様で滑稽なこと!


 そのうち門へ辿りついた。大怪我をしている。スライムごときなどと侮れたものではない。もう少し策を練ってくる必要がありそうだ。先刻のガルカがまだ入り口で不満を言っている。私はその脇を通り過ぎて、ひとりモグハウスへと帰った。


注1
 拡張パック『ジラートの幻影』をインストールしていないと、ここは通してもらえないのでしょう。あるいは他に条件(レベルやミッション遂行など)があるのかもしれませんが、未確認です。


(03.05.17)
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