その137

キルトログ、ダボイへ突撃する

ダボイ(Davoi)
 ダボイは、丘の上に小さな美しい修道院が建つ、素朴なエルヴァーン族の村だったが、十数年前、オーク軍残党の焼き討ちにあい、修道僧たちは皆殺しにされ、村は占領下におかれた。
 その後、地下のじめじめした修道窟や防衛に適した地形が気に入ったオーク族は、そのまま住み着き、いつしか村は復活したオーク軍の基地となった。
 この地を奪還することは王立騎士団にとって悲願とされているが、喉元とも云えるゲルスバ山すら占拠されてしまった昨今では、大規模な作戦行動もままならず、もっぱら冒険者の義勇軍に頼っているのが現状だ。
(ヴァナ・ディール観光ガイドより)
 ジュノで再び傭兵生活に入ったが、今回はそう待たずに済んだ。ヒュームのWasser(バッセル)(忍者29、戦士14レベル)に誘われて、私はル・ルデの噴水前までいそいそと出かけていった。

 仲間には侍までいる。忍者と侍! 随分エキゾチックな感じがするが、実際には彼らが、黒装束や直垂(ひたたれ)に身を包んでいるということはない。装備は基本的に近似の職業同士で使いあうので、見かけは特に他の冒険者と区別がつかないのである。ヒュームのVict(ヴィクト)(侍29、戦士14レベル)が着ているのも私と同じチェーンメイルで、少々がっかりはしたが、彼が東洋独自の反身の剣、を両手で構えるさまは、さすがに堂に入ったものだった。


 そのVictが、ダボイに行こうと最初に言ったのである。これにはさすがに一同もびっくりした。

 ジャグナー森林を南下するとダボイに着く。この場所を紹介したことはまだない筈である(注1)。それはそうだ。私はダボイに行ったことはないし、近寄ろうとすら思わなかった。ここはオークの巣窟である。ゲルスバを前線基地としたらダボイは大本営だ。闊歩する獣人どもの恐ろしさはまるで比べ物にならない。

 噂では、近頃オークがますます凶暴化しているという(注2)。危険なのではないか、という意見も出るには出たが、Victの友人の話では、ダボイへ獣人狩りにいって、大成功で戻ったというのだ。とりあえず行ってみよう、ということで話がまとまる。ところでダボイの地図はサンドリアで買えるのだが、往年の金欠で入手していなかったことは、後になってから気づいた。


 ジャグナーは雨模様で気分が沈む。方向音痴の私は道に迷ってさっそく迷惑をかけた。

 ダボイ入口はジャグナーの地図には記載されていないが、例の2重円のマークを焼きつけた柱が、示威的に堂々と立っているので、すぐそれと知れる。チョコボを降りて陣形を整えながら、私はグラディウスをずらりと抜いて、いったいどんな凶暴な獣人どもの血を、この剣に吸わせることになるのだろう、としばし思いを馳せるのだった。

 もともと山村だったこともあって、入り口からしばらくは狭い道が続く。豪雨が容赦なく鎧の表面をぱちぱちと叩く。仲間たちは鬨(とき)の声をあげて、見かけたオークに片っ端から討ちかかっていく(何という男たちだろう!)。奴らはそこそこの強さで、倒したところで大した旨味もないが、放っておくとリンクを招いて危険なのだ。5、6体のオークを血だまりに残したまま、我々はなおも呪われた山村の奥へ進むのだった。


ダボイ

 やがて視界が開けた。右手の奥に建物をみとめたが、水煙りに視界を遮られて輪郭しか見えない。足元には浅い川が流れ着いて、泥だまりを作っている。広場を迂回するように崖に沿って進み、再び隘路に潜り込む。斥候を一匹、問答無用に切り捨ててから、我々はこの場所に陣取ることに決める。WasserとVictがさらに奥へ行き、手ごろな獲物を釣ってくることになった。

 ダボイは大変危険な場所であるから、手ごろなどと言っても、歯を食いしばって戦わなければならないような獣人ばかりである。手始めにオーキシュ・ブロウラーがやって来たが、その一撃の痛いこと痛いこと!! 戦いが終わってみれば、前衛3人はみなひどい怪我で、ヒュームのWira(ウィラ)(白魔道士28、黒魔道士14レベル)の魔法が、さっそく尽きてしまうほどであった。

 我々が万全の準備をした上で戦うぶんには、オーキシュ・ブロウラーは魅力的な獲物であった。危険ではあるが見返りに得られる経験もまた大きい。ハイリスク・ハイリターンというやつである。ただしバランスを失うと一気に大崩れとなる。この場所で斥候を屠ったと先に述べたが、こいつが雑魚のくせに――むろん、6人で討ちかかっての話だが――こちらの知らぬ間に後ろを取っていて、ブロウラーとの真剣勝負に、嬉々として参加してきたりするのであった。

 この危機は二度訪れた。一度目はミスラのD.J.(ディー・ジェイ)(黒魔道士29、白魔道士14レベル)が、闖入者を魔法で眠らせてことなきを得たが、二度目はそうはいかなかった。オーキシュ・ブロウラーが、黄色い顔を二つ並べて襲い掛かってきたのだ……。その絶望感といったら! こともあろうに、Wiraが真っ先に倒れた。敵を自分に引きつけるとき「誰かを助けるのに理由がいるかい?」と言うのが口癖の、侠気ある武士(もののふ)、Victも倒れた。Wasserは獣人を道連れにすべく、ブロウラーのそばで自爆して果てた(注3)。いやらしい獣人の一匹が、ようやく息絶えようというころ、私も死に瀕していた。もう数撃を食らったら、間違いなく仲間たちのもとへ行ける筈であった。


 いざ覚悟を決めた直後である。私は小雨に打たれながら、ダボイの入り口――柱の前に立っていた。傍らでD.J.と、ヒュームのHusky(ハスキー)(黒魔道士28、白魔道士14レベル)が座り込んで、傷を癒していた。何が起こったのかを理解するのに少し時間がかかった。D.J.がすんでのところで、黒魔法エスケプを唱え、一息に脱出したのだ(注4)。無残にも命を落とした三人のことを考えると、助かったのだ、という安堵の息も曇るのだったが、ひとまず完全に体力と魔力を取り戻してから、我々だけで再びダボイの奥へ踏み戻った。

VictとWasserが……

 白魔道士であるWiraが死んでいる以上、前衛の二人を生き返らせてくれる誰かを探さねばならぬ。折りしもダボイは閑散としていた。レベルがずっと高い冒険者もいるようだが、きっと彼らは、彼らにふさわしいもっと奥の方で鍛錬を積んでいるのだろう。

 仲間たちの魂の声が聞こえる。斥候のオークが容赦なく死体を踏みつけているらしい。生き残った三人は、戦士一人に黒魔道士二人といういびつな構成だが、先刻の戦場へたどり着くのはそう難しくないと私は判断して、率先してオークを殴りつけた。するとHuskyが嫌そうな顔をした。彼はインビジという透明になる魔法を使って、獣人どもの間をすり抜けていこうと考えていたからだ。しかも戦闘に入ったのは、彼がいざ呪文を唱えんとするまさにその時であった。何ともばつが悪い。間違ってもてこずるような相手でなくて本当によかった。

 我々が合流しようというころ、親切な御仁が――ヒュームとタルタルの二人づれだったが――Wiraを生き返らせた。レイズはひどく精神の疲れる魔法である(注5)。しばらくの時間を置いて、やはりVictとWasserが、立て続けに息を吹き返した。恩人たちに手を振ってから、皆で思案する。この隘路に陣取るのは危険だ。我々はそう結論を下して、河岸を変えることにした。


ダボイの谷にかかる橋

 少し奥へ踏み込んで、適当な場所を探す。Wiraが地図で見つけた袋小路に我々を誘う。行き止まりの通路で敵を迎え撃つのは、背水の陣のように思えるかもしれないが、三方から決して襲われることがないのを考えれば、かえって安全ともいえるのである。むろん壊滅の危機になったら、エスケプでさっさと逃げ出すのが吉だ。D.J.は私に語った。このレベル帯から先、とりわけここダボイにおいては、鍛錬をするにしても脱出魔法がないとさすがに厳しいだろう。

 谷間に丸木を組み上げた吊り橋がかかっている。我々は崖向こうに渡り、Wiraについて道に入ってみた。なるほど通路の奥は三方が崖に囲まれている。だがVictが苦言を呈する。ここは敵がうろつく場所からは少々離れている。釣ってくるのが面倒というだけならまだよいが、釣り役が先にしたたかな攻撃を受けて、仲間のもとにたどり着く前に死んでしまうこともあり得る。なかなか難しいものだ。我々はしぶしぶその場所を離れた。

 ダボイは危険なところだ、と私は何度でも繰り返して言おう。移動をする間にも敵に見つかって攻撃を受けた。D.J.が魔法で我々を再び入り口に引き戻す。どうにもうまくいかない。D.J.がきりにしよう、というので解散となったが、やはり我々にとって、この場所はまだ少々レベルが高すぎるのかもしれない。

注1
「以前サンドリアで、病気の母を助ける感心なエルヴァーン少年の逸話を紹介したが、くだんの母親が侵されている病がダボイ肺炎であった」
(Kiltrog談)

注2
 バージョンアップにより、一部モンスターの索敵範囲、攻撃範囲の広さが変更になっていました。

注3
 自爆して敵にダメージを与える「微塵がくれ」は忍者のジョブアビリティ。

注4
 エスケプはダンジョンエリアから脱出する魔法。危険な敵からの逃亡のほか、最奥地から歩いて戻るのが面倒なときにも使えます。

注5
 レイズの基本MP消費量は150。

(03.05.23)
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