その138

キルトログ、エビル・ウェポンに恐怖する

 ダボイで命拾いした日の翌日、私は仲間たちとロランベリー耕地に来て、新しい獲物を狙っていた。

 目当てのエビル・ウェポンは、クフィムにいるダンシング・ウェポンの眷属で、縮めて「エビ」と呼ばれる。冒険者に人気の獲物である。しかし前回のオークがそうだったように、このエビル・ウェポンも近頃いっそう凶暴化しているらしい。奴らの必殺技は、一定の距離内にいる者すべてにダメージを与えるそうなのだが、タルタルのLotus(ロータス)(黒魔道士29、白魔道士14レベル)が言うには、この攻撃範囲が以前よりずっと広くなったのだそうだ。

 もとより私は戦ったことがなく、比較のしようもないが、もしさほど問題なく倒せたならば、効率よく経験を稼ぐことが出来る。我々は小春日和の畑へおどり出して、とりあえず真っ先に目についたエビル・ウェポンに攻撃をしかけてみた。

 死人が二人も出てしまった。

 奴らの頭上に浮かぶ、細身の剣らしきものがくるくると回ると、さながら何本もの鋭利な刃物が通り過ぎていったかのように、全身に激痛を感じた。無駄に頑丈な私などにはともかく、後衛にはきつかったらしい。気づけばミスラの
召還士Moanel(モーネル)(召還士29、戦士14レベル)と、ヒュームのAnju(アンジュ)(白魔道士29、黒魔道士14レベル)が、地面に倒れていたのだった。

恐るべきエビル・ウェポン

 二人の魂がジュノのホームポイントに戻り、再び合流してから、タルタルのRogo(ロゴ)(シーフ29、戦士14レベル)は、ここで狩りをするのは危険であると断言し、リーダーの権限のもとに、バタリア丘陵へ狩場を移すことを宣言した。私は思わず拍手した。撤退を宣言するにおいて、なかなかこう毅然とした態度を取れるものではない。リーダーによっては優柔不断で、戦闘効率に未練を残すがために、無駄に犠牲を多くするものもいるというのに。彼の決断力はけだし大したものである。


 ロランベリー耕地を北上して橋を渡ればバタリア丘陵である。バタリアというと、エルディーム古墳の入り口でよく虎を狩ったことを思い出すが、我々はずっと南側に陣取り、獣人、特にオークを狙うことにした(剣歯虎ではもう、我々のレベルでの欲求を満たすことは出来ない)。

 侍の刀を構える姿に独特の美しさを覚える私だが、ヒュームのYukimura(ユキムラ)(侍29、戦士14レベル)は、槍の方が気に入っているそうだ。彼は東国の有名な侍大将から名を貰っていて、とりわけ朱塗りの鎧に憧れているという。

 エビル・ウェポンは先刻の一戦で懲りているので手を出さず、地道にゴブリンやオークなどを狩っていた。面白いことに、メイ・フライを連れたゴブリンというのを見かけた。我々と獣人との種族血戦になぜ巨大トンボが紛れ込んでいるのかと思いきや、メイ・フライはゴブリン・パスファインダーのペットであるらしい。獣人界にも獣使いがいて、モンスターを手先として操っているというわけだ。


 ところで獣と言えば、召還獣が呼び出されるところを私は初めて見た。

 Moanelが号令するや、地面に小さな魔法陣が浮かび上がり、リスのような生き物が飛び出す。以前同じ表現を使ったことがあるが、これが召還獣カーバンクルである。その姿は水晶のように美しい。

 一般に召還獣は、術者の精神力を使って実体化するので、長く地上に留まることは出来ない。精神力の消費は呼び出す獣によって違う。カーバンクルは召還獣としては下級だから、わりあい長く制御できるようだが、神や悪魔に近い超生物だと、単に召還するだけで脳の力を使い果たすこともあり得る。

 カーバンクルはルビーの癒しという回復能力を持つ。白魔道士の回復補助として勝手がいい。術士が命じるか、あるいは彼の精神力が尽きるかすると、獣は異界へ返っていく。そしてまた声がかかったとき、役目を果たすために現世へ舞い戻るのだ。


Moanelとカーバンクル

 凶暴なエビル・ウェポンに懲りてエリアを動いた我々だが、奴らは少数ではあるものの、バタリアでも姿を見かけることがある。釣り役である私とYukimuraは、絶対に近づかないように気をつけていたのだが、あるとき相棒が槍を抜いてこの悪霊に突きかかったことがあった。

 私は彼がおかしくなったのだと思った。しかし周囲に人の集まるのを見て合点がいった。不用意に歩いていてエビル・ウェポンに目をつけられた人がいたらしく、義侠心溢れるYukimuraは、彼女の救援要請に答えるために槍を突き出したのだった。

 エビル・ウェポンは袋叩きにあった。しかし哀れとは思うまい。7人も8人もで斬りかかるのにまるで体力が減らず、かえってこちらの方が命の危険を覚えたほどである。こういう経験をすれば、嫌でもこいつらを相手にしようなどとは思わない筈だ。実際戦いから得られる経験の一つ一つが、もう少し強くなるまで「エビ狩り」は控えた方がいい、という教訓を切々と訴えていた。

 しかしモンスターというのは、いつだって迷惑この上ない存在なのである。オークに剣をふるっていると、問題のエビル・ウェポンが乱入してきた。我々は舌打ちして一斉に逃げた。近くに口を開いた墳墓があったので、入り口の冒険者たちに挨拶をするのもそこそこに、急いで穴に飛び込んだ。ところがこれが罠であった。時悪く、遺跡の中で戦っていた連中がモンスターに追われて、今しがた丘陵の外へ抜けていったらしい。おそらく入り口にいた彼らだろう――そして化け物たちは、掌中に転がり込んできたカモたちを八つ裂きにしたのである。

 血に飢えたモンスターどもは、私とMoanelとRogoの死体を存分に踏みつけたあと、もといたねぐらへ帰っていった。残る3人は遺跡に入らず、難を逃れたらしい。我々は泣いた。凶悪な話である。もしこれが誰かの作為的な手引きによるものなら、その者は7度でも地獄に落ちるがよい。


モンスターが去っていく……
(03.05.26)
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