その142

キルトログ、パルブロ鉱山で鍵を探す

 ふっと意識がとび、再び気がつくと、我々は見覚えのあるデムの台座に立っていて、クリスタルが放つ温かい光を全身に浴びていた。
 
 Chyrisalis言うところの「タクシー」であるタルタル嬢は、サービスとして、我々にプロテスUシェルUをかけてくれた。それぞれ物理攻撃と、魔法攻撃に対する防御力を強化する呪文である。彼女は座り込んで魔力を回復すると、再び瞬間移動でもといた街に帰っていった。

 円満な別れのあと、奇遇なできごとがあった。Chyrisalisが台座から眼下を見下ろして、Kewellさんがいますぞ、という。彼女は私の知る限り、ノーグという未知の場所にいた筈であるが、厩務員の傍らにいるからには、その旅からはるばると戻って来たところらしい。

 我は台座を駆け下りて彼女に挨拶をした。何処へ行くの、と聞かれたから、パルブロ鉱山へ鍵を探しに向かうのである、と事情を説明した。一緒に行くよ、という彼女の言葉に私は手を叩き、仲間――CryrisalisもLeeshaも喜んだ。Leeshaはドラゴン退治の際に彼女と会い、お互い知己の筈だが、私の知る限りでは、KewellはChyrisalisとは初対面の筈だ。だが先刻同じ飛空挺に乗り合わせたという。世界は狭い、というか、まずは国際人たちの奔放な活動ぶりに感嘆するべきかもしれない(注1)


 パルブロ鉱山へはチョコボで行く。デムの岩厩舎のレンタル料金は500ギル以上する。利用者の多さからこれがほぼ相場になってしまったようだ。

 鉱山へ向かう途中、Leeshaが道をはずれて、バストゥークの門へ向かう。鍵が取りやすいように、シーフに転身してくるというのだ(注2)。ところでKewellもシーフである。Kewellさんとはいつもパルブロに出かけますね、と言ったら、「2回目じゃない!」とたしなめられた。言われてみればドラゴン退治と今回だけである。一緒に遺跡に行ったり、シャクラミを冒険したり、薄暗い洞窟にばかり足を運んでいるので、何だか毎回鉱山に潜っているような感覚がしたのだろう。

 鉱具の散乱した入り口を抜けると、信じられない生き物を目の当たりにし、しばし固まってしまった。私の鼻先で、生臭い息を吐いているのは、まぎれもない剣歯虎である。剣歯虎がこの鉱山にいただろうか? 私はしばし身体を硬直させていたが、獣が襲ってくる気配はない。どころか、Chyrisalisの後を、喉をごろごろ鳴らすほどではないにしても、おとなしく言うことを聞き、ついて回っている。

 このとき、Chyrisalisのジョブは獣使いであった。彼は虎を捕まえておいて、手持ちの魔法の壷にしまっておき、頃合を見計らって呼び出したのである。獣使いにそんなことが出来るとは知らなかった。東洋の古い話に、名前を呼ばれて返事をすると吸い込まれるひょうたんの話があるが、きっとその壷も似たような力を持っているのだろう。

鉱山の中に虎が!

 Leeshaが戻ってきて、「虎だーーー!」と声を上げる。しかしこの本来ならば恐るべき猛獣が、おとなしくしているのを見ると、近寄って頭をなで始めた。「よく慣れていますでしょう?」と心持ち誇らしげにChyrisalisは言う。冗談半分で「Kiltrogを襲え!」などとぞっとしない命令を下すが、虎はじっと動かない。「えさをあまりやっておらんのですがね」と飼い主はこれまたいやな事を言う。大丈夫、筋張ったガルカに齧りつくよりも、ゲップが出るほど亀の肉を食らった方が、虎の方もきっと満足するであろう。

 奴らにとっては手ごわすぎる我々を無視する、ヤング・クゥダフどもの脇を駆け抜けて、エレベーターへと向かう。地下砂州に築かれた業務用のエレベーターは我々を一息に3階へと導く。がっしりとした石壁のフロアへ上がるとさっそく虎が暴れ始めた。

「主人より獰猛なんですよ、こいつは」

 Chyrisalisは笑った。まあ虎より獰猛な主人というのも考えものだが、外見だけなら、Chyrisalisにもその資格がありそうである。


 ランタンの灯火に薄気味悪く照らされた通路を進む。亀たちは無言で徘徊し、もとの無表情ぶりも相まって、余計に不気味な印象を与える。その昔はよくこの鉱山でトレインが起き、大量の死人が出て、バストゥークのコンクエスト戦績を大きく損なったものだ。その頃の記憶が残っているKewellは、目を閉じて奴らを倒せるレベルになっても、やはりパルブロ内をうろつき回るのは少々怖いのだという――無理もあるまい。

 やがて、鉱山内を4人で廻るのも芸がないので、二手に分かれることにした。KewellとLeesha、二人のシーフが東を廻り、我々ガルカ組が西を巡回して、めいめい鍵を持っている獲物を探すのだ。

 本来なら、ささやかではあるが、回復魔法が使える我々二人が、一人ずつ割れるべきであった。だが私とChyrisalisは、ガルカ同士であるし、前日悪くない相性診断が出た仲である。加えてジュノでの雑談中、Chyrisalisがこれまで使っていた古い指輪を貰ったりもしていた。ガルカ同士が、占い屋の前で指輪のプレゼント! またぞろ素敵な声援を受けそうである。


トンボまでペットにしている
 
 パルブロ鉱山内の、3Fにいるクゥダフのうち、いずれかが鉱山の箱のカギを持っている。むろん迷宮のどこかに宝箱が転がっている筈なのだが、今回はエルシモ島行き飛空挺パスと交換するため、鍵は本来の用途に使用せず、モグハウスへ持ち帰らなければならぬ。従って我々は、ひたすらクゥダフを倒して、倒して、倒すのである。たまに悪くない値段で売れる装備品などを落としてくれるので、少なくとも単調な行動の繰り返しのうちに、徒労感を覚えることはない。最悪鍵の出ることがなくても、戦利品さえ売っ払えば、チョコボ料金くらいは浮くだろう、という期待は、我々の大きな慰めになるからである。

 ところでKewellは、3本の鍵とカザム行き飛空挺パスの関係については知らなかったようだが、幸運なことに鉱山の箱のカギは、二つたて続けに発見された。LeeshaとChyrisalisには必要ない。一つはKewellが持ち、もう一つを私が拾った。これでカザムの方角へ三分の一だけ近づいたことになる。

 我々は船に乗って脱出し、ツェールン鉱山へと流れついた。私は手を振って気のいい仲間たちと別れた。さて天晶堂に行かねばならない。港の倉庫へ行くついでに、久しぶり、ガルカたちの住む下町を覗いていくことにしよう。

注1
「偶然というのは続くもので、我々が鳥の背に跨り、出発しようとしたころ、別のところからワープしてきたらしく、台座にSif氏が立っているのが見えた。Sif氏とはこの後、ゼプウェル島への冒険に同行して貰うことになる」
(Kiltrog談)

注2

 シーフは15レベル以上になると「トレジャーハント」能力を身につけます。この能力を持っていると、倒したモンスターがアイテムを落とす可能性がぐんとアップします。


(03.06.15)
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