その151

キルトログ、ラバオに到着する

ラバオ

 貿易路確保のため、商人たちによって砂漠の真ん中に築かれた町、それがラバオである。ラバオは現在ゼプウェル島唯一の集落である。遠く昔に滅んだ我らが都とは直接の関係を持たない。それでもガルカの大半は――私のように――このオアシスの土を踏んだことに特別な感慨を覚えることだろう。

 過酷な地理条件と歴史の浅さのせいで、ラバオは物質的な充実には乏しい。中央にある泉を中心に人々が集まっているが、建物の影は殆どなく、大半は単なるテントに過ぎない。従って「町」という言葉のイメージからは遠い。それでも住人たちは逞しい開拓者精神を誇っており、町全体がいきいきと活気づいている。ラバオが熱気に包まれているのは何も砂漠の風のせいばかりではない。

 私は泉に続くなだらかな丘を下りていった。


 町のはずれの市場へ足を運んでみた。店構えは総じて貧弱である。天幕ならまだしも、中には木箱を並べただけの店まで存在する。それでもここでしか手に入れられない商品もあり、なかなか繁盛しているようだ。
 ある商人は言う。

「砂漠のど真ん中に豊富な水と物資、これ以上何かを求めたら贅沢だとは思わんかね?」

 その通りである。私は念願の地図――コロロカとアルテパ――を買って、泉へ向かう。砂漠の地図はラバオの見取り図を含むため、おかげでこの集落を迷わずに見て回ることが出来る。 


泉のほとりで、エルヴァーン翁が思案にふける
砂に沈む夕陽

 オアシスの水は澄みわたり、水晶の輝きの奥にターコイズの深い蒼みを覗かせる。冒険者も商人も、みな思い思いに水辺で涼んだり、釣りに興じたりしている。泉の恩恵は、砂漠を越えてきた者に分け隔てなく与えられるのだ。私の仲間たちも、とっくに汗ばんだ鎧を脱ぎ捨てて、水遊びに興じている。なので私も具足を片付け、肌着一枚になって水の中へ飛び込んだ。

 砂漠の熱気の中にあって、泉の温度は特別低くはないが、灼熱の太陽にさらされた肌を水に浸すのはすごく気持ちがいい。岸辺で数台の風車がゆっくりと羽根を回している。夕焼けが水面に風車の長い影を伸ばす。美しい光景である。夜は夜でまた違う趣があるが、特にラバオの夕刻の情景は、私が旅し見てきた中でも屈指の美しさだ。私はすっかりこのオアシスが気に入ってしまった。


 疲れた仲間たちが、三々五々と休んでいく。中には呪文で大陸まで一息に戻る者もある。私は彼らにあつい礼を言って再会を約束した。

 ラバオにモグハウスはないが、泉のほとりに、人間の忠実なしもべであるモーグリの姿が見られる。彼らは料金をとって、荷物の取り寄せだの、ジョブチェンジなどの手伝いをするのだ。いかにも砂漠らしく、頭にターバンを巻いているのが滑稽である。疲れの限界を越えたApricotやPivoは退去してしまったが、Sifらはまだ余力を残している。彼らはモーグリの力を借りて、足枷から解き放たれたかのように、次々とレベルの高い本来の役職に戻るのだった。

 Leeshaは近くにクリスタル――例の三奇岩で見られる水晶――があるのだ、という。クリスタルが移動魔法テレポの到着点であることは、先日のパルブロの冒険にて発覚した(その141参照)。これらは便宜中ゲートクリスタルと呼ばれる。もし私がルテのゲートクリスタルを入手すれば、はるばるコロロカを突破せずとも、魔法で楽にラバオの近くへ移動できるのだ。私は彼らにそこへ案内してもらった。さすがに今度ばかりは彼らも、無知な私を先頭で右往左往させたりはしなかった。


ルテのクリスタル

 私はてっきり、今回もあの、白くてのっぺりした建造物を見出すだろうと思っていたが、違った。ルテのクリスタルは奇岩を必要としないらしい。それは遺跡の迷路の中でくるくると回り、日が暮れたあと、周囲に集まった冒険者たちの顔を紫色に染め上げていた。

 私は造作もなくクリスタルを拾って仲間たちとラバオへ戻った。


 かくして、魂の故郷への旅は終わった。私はオアシスに一泊し、翌日バストゥークへ戻って、日常の冒険を再開することにした。

 最後にアルテパ砂漠について話しておきたい。買ったばかりの地図を開いて私は唖然とした。アルテパ砂漠を東から西へ抜ける経路は二つあった。一つは我々が辿ったとおりの、ひたすら西へ向かうルートだが、もう一つはずっと単純で安全なものだった。コロロカの洞門を抜けて砂漠に降り立ち、Librossが私の自由意志に任せた地点から、何と――ちょっとだけ北に歩きさえすれば、エリアを渡れたのである。しかもそこからラバオは指呼の間であった。

 砂漠の名称に惑わされず、何も考えずに北を目指せば、一日とかからずオアシスへ辿り着けたのである。同地を訪れた冒険者はしばしばこう言う。「ラバオは近くて遠い」。

 この意味は明らかである。私は腹を抱えて笑った。それにもかかわらず、私の満足感は相当なものであった。


(03.07.15)
Copyright (C) 2003 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送