その152

キルトログ、友と別れる

 モグハウスのポストにしばしば荷物の届いていることがある。多くの場合、それは私が旅先から配送した余分な品物なのだが、まれに友人からの贈り物があって恐縮することがある。

 わざわざくれたものをつき返すのはかえって礼を失する。多くの場合ありがたく使わせて頂く。私は外を歩いているより、モグハウスに篭って筆記をしている時間の方が長い。従って冒険もそれほど進まない。友人の好意に甘えず自活するのに越したことはないが、先立つものを獲得するために裂ける時間があまりない以上、食料や物資を贈って貰うことは、確かに私の生活の大きな支えになっているのだ。

 もっとも程度というものがある――高価すぎる贈り物というのは、恐縮を通り越し、かえって辟易する。ラバオから戻った翌日、私がモグハウスで見つけたのもそれであった。

 ポストに入っていたのはギル硬貨だった。

 現金が送られてくることがないわけではない。競売所で競り落とされた品物の代金は、モグハウスに届けられるようになっている。だが近ごろ出品した記憶はないし、何かが売れたにしても、いくら何でもゼロの数が多すぎるような気がする。

 ひい、ふう、み……

 ゼロが6つ。その額、何と100万ギル!


 抜かした腰を落ち着けたあと、送品記録を調べた。Chyrisalisが送り主だと判る。私は腹を立てた。冗談にしては度の過ぎた額である。他の人に高価な鎧を貰ったこともあったが、いくら何でもこのような大金を贈られるいわれは何もないのだった。

 ところで、100万ギルとは別に、私あてにメッセージが届いていた。くだんのChyrisalisからである。

 私は無造作にそれを開いた。


 私は愕然とした。賢明な読者諸氏であれば、内容は察しがつくことだろう。それは別れの手紙だった。「転生の旅に出るのです」と彼は書いた。身辺の整理をするに際し、今までに築いた財産の一部を、私に譲り残すことにしたのである。

 「自分が解き明かせなかった謎を、あなたが解くことを期待して」

 私は急いでメッセージの日付を確かめた。それは今より何日も前のもので、おそらく友人は既に旅立った後だろうと察せられた。


 ぽっかりと胸に穴が開いたような気分だった。そこに後悔の念が流れ込んだ。砂漠への旅のあと、かくも長く不在をして、友人の別れの言葉をじきに聞けなかったことが悔やまれた。ウェライが去り、抜けがらのようだったグンバのことを思い出した。今なら彼の気持ちがわかる。別れはいつか訪れるものである。しかしその覚悟はグンバにはなく、私にもなかった。身近な人との別れがこれほどつらいものであるとは思わなかった。

 せめて最後に会い、これまでの思い出の感謝を告げるべきであった。シャクラミの迷宮の旅。パルブロ鉱山の鍵取り。戦士の戦い方をレクチャーして貰った。チョコボ厩舎の前で、夜が明けるまで話し込んだこともあった。

 だがもう、決してChyrisalisに会うことはできないのだった。


 ショックの抜けぬままチョコボに乗った。北グスタベルグの、臥竜の滝をのぞむ橋の上で、Leeshaに会った。一部始終を話した。パルブロ鉱山で一緒に鍵を探したので、彼女もChyrisalisとは知己である。Leeshaは察しがよく、大金を送ってきたという時点で彼の真意に気づいた。

 彼女は私をいたわり、ラテーヌへ虹を見に行きましょうと誘ってくれたけれど、私はしばらく一人になりたかった。だから彼女と別れて、単身ジュノへ向けてチョコボを駆った。

 私は彼の遺志を継がねばならない。Chyrisalisは三国を股にかけた猛者であった。おそらく彼の領域に達することすら難しいだろう。しかし私はやらねばならない。もし彼が私を見捨てないでいてくれるなら、肉体を脱ぎ捨て、魂となっていても、きっとどこかで私を見守っていてくれることだろう。

(03.07.15)
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