その153

キルトログ、ラングモント峠の様子を伺う
ラングモント峠(Ranguemont Pass)
 実際にはトンネルで繋がれた部分が多いラングモント峠は、長い間、『北壁』を越える唯一の道とされ、王立騎士団によって厳重に護られてきた。
 しかし、二百年ほど前、オーク族が山越えする別のルートを開拓し、続々と軍勢を送り込んできたため、サンドリア王国はそれまでの南下政策を中断し、北辺の護りにも兵力を割かねばならなくなった。
 名前の由来は、遥か昔、楽園への扉は『北壁』の向こうにある、との噂を真に受けた修道士ラングモントが、己の拳で掘った、という伝承による。
(ヴァナ・ディール観光ガイドより)
 私は生活の大半をモグハウスの中で過ごしているが、時は容赦なく過ぎ去っていく。それこそ矢のように。この状態で実戦感覚を保つのは難しい。戦術やノウハウは日々進化し変動する。私は28レベルの戦士であるが、正直いま外に出て、要求される仕事をこなす自信はなかった。リハビリテーションのため、しばらく他のジョブで訓練を積んだ方がよさそうだ。

 私はモンクとなって出直すことにした。戦士として鎧を着る前、私は拳法着に袖を通していた。金庫を探ってみたが当時の衣装はない。何故か10レベルからの装備が一そろい見つかった。きっと来るべき日のために買い集めておいたのだろう。私は現在8レベルである。少し鍛錬を積めば、ようやく当時の約束を果たすことが出来るというわけだ。

 競売所で集めた装備はちぐはぐなものになった。だぶだぶの道着に、よれよれの帽子。どこぞの名探偵のような風貌である。私は、同じく8レベルで召還士の修行をしていたLeeshaと一緒に、東ロンフォールの森へ鍛錬に出かけた。


 ロンフォールの森では白魔道士の時期にさんざん狩りをしている。だからといって気を抜くわけにはいかない。オークどもが焚き火を囲んでいるのを見かけたが、どれも丁度いい強さのようだ。28レベルのつもりで気軽に傍らを通り過ぎようものなら酷い目にあう。しばらくは緊張感を保つ必要があるだろう。かといって、いきなり肌感覚を切り替えるのは困難だけれど。

 我々は懐かしいシュヴァル川のせせらぎを下っていった。ここではおいしい魚が釣れるそうだ。Leeshaはさすが料理人である。釣りも料理も疎い私には、この川は凶暴なプギルの印象しかない。

 川辺を徘徊するお馴染みのゴブリン・フィッシャーと対戦した。Leeshaはさすが召還士である。水色に光り輝くカーバンクルを呼び出して戦闘に参加させる。私と一緒に敵を殴り、蹴りつけるのはカーバンクルの方である。こんなふうに書くと、召還士はさも安全そうに聞こえるかもしれないが、油断をしていたら危険であることには何の変わりもない。実際Leeshaは獣人にやられてしまった。私がわき見をしていた隙にである。これは私のミスで、彼女に頭を下げて謝った。モンクとして出直したのはいいが、こんなことでは修行の先が思いやられるというものだ。

 東ロンフォールに来たのには目的があった。グィンハム・アイアンハートの石碑である。ここは随分と近場でありながら、まだ粘土で型をとっていないのだった。龍王ランペールの墓の近く、崩れた城壁の内側に石碑は佇んでいた。私とLeeshaはその碑文を覗き込んだ。

 ここロンフォールの森は、代々エルヴァーン王族の狩り場として、丁重に保護されてきた美しい森だ。

 勇壮で知られる秋の狩猟大会を見物しに、私はわざわざ訪ねたのだが、残念ながら荘厳な儀式ばかりが延々と続き、実につまらないものであった。

 その原因の一端は、狩りの獲物にありそうだ。本来獲物であった筈の雉や鹿は、姿を消して久しい。その代わりに、大羊が獲物として放たれているのだ。 予定された獲物。これでは狩りの醍醐味も薄れて当然。

 大食漢で悪食の大羊が、下草や根を食べ尽くして生態系を崩し、この美しい森が損なわれないことを願いつつ、ここに記す。

 天晶751年 グィンハム・アイアンハート 

東ロンフォールの石碑

 表面に図が描かれている。「エルヴァーンの男女でしょうか?」とLeeshaが言う。なるほど簡潔ではあるが、槍と盾を構えた二人の兵士に見えなくもない。


 我々はしばらく、グィンハム言うところの悪食の羊を主に退治していたが、思ったほど手ごろな強さの個体がいない。そこでLeeshaが妙計を案じた。

曰く「ラングモント峠に行ってみませんか?」

 恥ずかしい話だが、私はこの峠の名前を耳にはしていたものの、正確な場所については何も知らなかった。Leeshaが言うには、東ロンフォール北東から到達できるとのことだ。そういえばこの土地から、ラテーヌとランペールの墳墓以外のエリアへ抜けることができる、と聞いた覚えがあった。ただしとんでもなく手ごわいモンスターが闊歩している上に、行ったきり戻れない道だということらしいから、現実の選択肢からは消去されていた。どうも同時にエリアの存在自体を忘れてしまったらしい。それが件のラングモント峠というわけである。

 クォン大陸北端は、俗に「北壁」と呼ばれる険しい山脈で遮られている。そのはるか向こうに人外境バルドニアがある。クリスタル大戦時、忌まわしき闇の王の本拠地があった場所だが、この恐るべき敵は、20年前にフォルカーら勇者に退治されたはずだった(王に復活の動きがあることは、ドラゴン戦の際に書いたとおりである)。

 ラングモント峠は、辺境のバルドニアへ続く道である。

 Leeshaがぽっかりと口を開けた洞窟の前で立ち止まった。

 我々は連れ立って中に入った。つるつるした岩肌がエメラルドのような光沢を放っている。眼前をコウモリの群れが通り過ぎていく。Leeshaはこれを狩るつもりだったみたいだが、思ったほど手強くはなくて、どうも当てが外れたようであった。

 洞窟の道は西と北へ向かっている。今いる洞窟は何であろう、と私は地図を広げたのだが、そこには「ラングモント峠」と書かれてある。ここがそうなのか? 私はLeeshaに訪ねた。間違いない、という返事が戻って、私はいささか拍子抜けした。というのは、峠などというものだから、きっと関所のある丘陵の如き形状だろうと思い込んでいたのだ。

 我々はコウモリを無視して北への道をとった。ほどなく大きな両扉に突き当たった。私はそれを開けた。


ラングモント峠
ボスディン氷河に繋がる赤い扉

 扉の先にあるものは、実に興味深かった。石造りの大広間になっていて、突き当たりは分厚い紅の扉で終わっている。台座に上って扉に正対しているのはサンドリア兵である。「私はミフェール」と兵士は言う。「扉の向こうは恐ろしい魔物がたくさんいます。一度行ってしまったらここからは戻って来れません……それでも開きますか?」

 私はとんでもない、と言って後ずさった。開けるだけなら害はないですよ、とLeeshaは言うのだが、とてもそんな気にはなれなかった。なるほどこれは禁断の扉だ。我々の傍らを古強者の冒険者たちが通り過ぎ、次々に扉の向こうに身を投じていった。鍛錬を積めば私も魔物を恐れないですむのだが。さて、戦士であれモンクであれ、そこまで強くなるのはいったいいつのことになるやら……。

(03.07.24)
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