その154

キルトログ、リーダーになる

 ラングモント峠から戻ると私はウィンダスへ帰国した。鍛錬という単調な日常に彩りを加えるため、これからも気ままに狩場を移動しようと思っている。どうせ20レベルを越える頃には、長くジュノに身を落ち着かせなくてはならないだろうから。

 早速タロンギ大渓谷に出て、手ごろな兎や根っ子を相手にする。集団での戦闘に慣れると体力の回復がもどかしい。特別孤独を好む事情がなければ、仲間と組んで狩りに出かけた方が圧倒的に効率がいいのだ。私は鍛錬を続けながら誘いの声がかかるのをじっと待っていた。

(文章が途切れている。以下2ページに渡って欠損あり)

 シャクラミの地下迷宮に生息するミミズ(メイズ・メイカー)は、やはり魅力的な獲物だった(注1)。何と一息に14レベルにまで上がった。狩り手が成長するにつれ、当然同じ敵からの鍛錬効率は下がっていくのだが、最後に戦った調子からすると、まだまだミミズからは貴重な収穫が期待できそうである。

 モグハウスで起床し、私は意気揚々とサルタバルタへ出た。だが移動中もお呼びの声はかからない。その理由が判った。私と同じレベル帯の仲間が、この地には少ないのだ。殆どの冒険者は――ウィンダス出身であろうとそうでなかろうと――大陸を移し、バルクルム砂丘で狩りをしているようなのである。

 同砂丘がなぜ冒険者に特別好まれるのかはよくわからないが、人の集まるところは余計に需要が生まれるものである。私もシャクラミでよい経験を積んでいなかったら、マウラから船に乗ったかもしれない。私は待つのをやめて自分でメンバーを探すことにした。リーダーになるというのは勇気がいるものだが、少なくとも今じっとしていたってきっと何も進展しないだろうから。

 サルタバルタにいたLucretia(ルクレチア)というミスラの白魔道士(白14、赤魔道士7レベル)に声をかけて、彼女の用事が終わったあと、合流して貰うことにした。そのあいだ私はタロンギに入り、タルタルのTrick(トリック)(白魔道士12、モンク6レベル)と話をつけた。回復担当の後衛が決まると話ははやい。前衛職は、戦士、モンク、ナイト、暗黒戦士、侍と種類が多いし、引き手あまたの白魔道士と違って、たいていの人物が誘いの声のかかるのを待っていることが殆どだからだ。

 そのとき私の眼前を見覚えのある人物が通っていった。ミスラの暗黒戦士が私に向かって手を振る。
Greenmars(グリーンマーズ)といって、ずいぶん前になるが、ロンフォールの森で話をしたことがある(注2)。彼女は仲間と一緒だったが、雑用を済ませ次第パーティに加わって貰うことになった。何といってもレベルが同じである(暗黒騎士14、戦士7レベル)。こういう縁を見逃してはならない。

 そして、ガルカのVergil(ヴァージル)(暗黒騎士13、戦士6レベル)と、ヒュームのOrdin(オーディン)(黒魔道士14、白魔道士7レベル)が加わった。彼ら二人とはブブリム半島の入り口で落ち合った。私たちはシャクラミを目指してタロンギ大渓谷を駆けていった。


 前衛として身体を張るのは、暗黒騎士ふたりとモンクである。「暗黒騎士は柔らかくて涙が出る」とVergilが言う。柔らかいとは硬いの反語で、守備力が低く、大きめにダメージを貰ってしまう状態を指すが、基本的に軽装であるモンクは彼らに輪をかけて「柔らかい」。Greenmarsがしまったなあ、と言う。彼女に加え、暗黒騎士をもう一人雇うことは、お互いの相談ののちに決めたからである。

 そういうわけで前線の守備力に不安を残すわけだが、14レベルまで戦った肌感覚からして、私は大丈夫だろうと踏んでいた。Vergilがあまり長く付き合えないというので、どのみち狩りは早めに切り上げることになっている。短い時間なりに頑張ればいい。善後策を検討するのは、「この前衛3人ではまるで話にならない」という結論が出てからでも遅くないではないか。

 以前話したように、メイズ・メイカーはレベルの割りには戦いやすい相手だ。奴らはウミユリのように屹立して身体を揺らしている。移動は地下に潜り、また近辺に顔を出すというかたちで行われるが、尻尾は根のように地下に留まり、身体を抜き出して這うという芸当が出来ない。従って攻撃手に早足で逃げられたとしても、追いかけてくることが出来ないのだ(これはメイズ・メイカーに代表される地虫系のモンスター全てに共通する特徴である)。


メイズ・メイカー

 地虫の多くは魔法などの特殊攻撃に特化している。これは移動力に難があるのを補っているが、そのぶん本体の物理的な攻撃力も防御力も低い。従って、前衛が2、3人がかりで殴り倒すという戦術で、少々強めの地虫でも狩れてしまう。冒険者が奴らを好む理由はこれである。そしてシャクラミの地下迷宮には、数多くのメイズ・メイカーが生息し、10レベル以降の冒険者のカモになっているのだ。

 今までの話からして、さぞかしライバルが多数詰め掛けているだろうと思われるかもしれないが、パーティの姿を複数見かけることは余りない。よく知られた場所で、穴場という訳でもないのだから不思議である。必要以上にバルクルム砂丘が好まれている、という理由以外に、他にもっともらしい原因は思いつかない。実際コルシュシュ地方(タロンギやブブリムを含む乾燥地域)で戦う冒険者はかなり少なく、現在は獣人勢力が優勢であるようだ。このままだとコルシュシュは獣人が支配する土地になってしまうわけだが……。(注3)
 

 シャクラミに話を戻そう。この地下迷宮で比較的安全に地虫を狩れるポイントは以下の通りである。

・入り口を入ってすぐの大広間。2、3匹のメイズ・メイカーがいる。ただしゴブリンが数匹うろついているので、奴らをまず片付けてから狩りに臨まなくてはならない。

・大広間から南東の道を下る。坂道の途中に1匹。

・坂道を下りきった小さな広間に2匹。ここからは東(上り坂)と西(下り坂)に道が伸びている。
 下り坂を下りた先には3匹のゴブリンがいる。ときどき偵察で1匹が広間に上がってくることがある。坂を上りきることはなく、たいていいつも引き返してしまうが、メイズ・メイカーとの戦闘中に絡まれないよう注意が必要。

・東の上り坂を上がっていくと、坂の途中に2匹いる。

 これらを一通り倒してしまうと、別の場所を巡回して、新たに湧き出たメイズ・メイカーを狙うのである。単調な繰り返しではあるが、単調に繰り返すだけの価値は大いにあるといっていい。


繭の前でメイズ・メイカーと戦う。
左からGreenmars、私、Vergil

 ところで、上に記した東の上り坂なのであるが、ここの突き当たりは曲がり角で小広くなっている。壁面に例の繭が見える。中にはグールが常駐している筈なのだが、何故か姿がない。この広間にも2匹のメイズ・メイカーがいる。手ごわいグールとの戦闘がほぼ避けられないため、たいていいつもは坂の途中で引き返しているのだ。

 グールは誰かが倒してしまったのだろう、と思いきや、何度戻って覗いてみても繭は空である。かといって周辺にグール・ハンターらしき人物も見えない。モンスターたちが持ち場を変えてしまったのだろうか? 真偽はともかく、グールがいないのなら何も遠慮することはない。私たちは繭の前も巡回の経路に入れ、メイズ・メイカー2匹に遠慮なく練習台になって貰った。

 そのグールは意外な場所で見かけた。入り口近くの広間にいたときである。Ordinがあれは、と声をあげた。一人の冒険者が生ける屍に追いかけられて、タロンギに繋がる通路に逃げ込んでいく。私たちはこっそりと後を追った。

 冒険者はどうやらグールと一対一で戦うつもりのようだ。ここへおびき寄せたのは逃走経路の確保のためだろう。彼はしばらくちゃんちゃんばらばらとやりあっていたが、敵わないと判断してかタロンギの方へ逃げてしまった。グールはうらめしそうに入り口の方を見つめている。モンスターはエリアを越えて移動することはできないのである。

 グールの強さは私たちが総力を結集してやっと勝てるかな、という程度――とてもとても強い――だった。「やる……?」とVergilが言った。「やるなら今」と私は答え、メンバーの返事を待った。これから奴は持ち場に戻るだろう。それが例の空だった繭かどうかはわからないが、どのみち帰るときは大広間を通っていくだろうから、私たちの狩りに余計な危険を招くかもしれない。

 実にいいタイミングである。ささやかではあるがグールは手負いの状態だ。しかも我々の逃走経路は確保されている。だが、ミミズどもはまだしも、この前衛三人がグールの攻撃に耐えられるか? 不安は残るが、どうしても敵わないならタロンギへ逃げてしまえばいいのだ。そう考えると場所も理想的である。天の時、地の利は得た。残るは人の和である。いざと言うときは東へ逃げることを確認してから、我々はグール目がけていっせいに飛びかかっていった。


 結論を述べると、グールはとても手強かった。しかし気持ちいい戦いだった! こういうぎりぎりの戦闘は実にスリリングで、我々に強い生の実感を与えてくれる。我々はやられかけたが、Ordinの「魔力の泉」で何とか持ちこたえた(注4)。最終的にとどめをさしたのは私のコンボであるが、これは気持ちいいくらいに死霊の脊髄を貫いて、元の乾いた骨の山へと変えたのだった。


 シャクラミで鍛錬をしたのは正味3時間程度であるが、実りの多い狩りであった。あんまり調子がいいので、「ブブリムは危なくて仕方がない」と本音を漏らしたら、何人かがくすくすと笑ったくらいだ。我々は全員がレベルをひとつずつ上げた。Vergilの時間の都合できりになったが、戦ってみた実感では、15レベルになった今でも、シャクラミからの恩恵を受けることが出来そうだ。もうしばらくはこの周辺から離れられないような気がする。


注1
 管理人の不注意によってメモを紛失し、ウィンダスへ帰還し、シャクラミで成長するまでの記録(組んだ相手など)が不明となりました。このくだりはやむなくKiltrogの帳面の破損というかたちで処理しています。

注2
 もともとKiltrogの記述の読者であったGreenmarsとは、サイトの連絡を通じての知り合いでした。彼女とKiltrogが森で会って話したくだりは「ガルカ単騎」の中には特に記載されておりません。 

注3
 冒険者は各地方でモンスターと戦い、地方ごとの総合戦績を3国で競い合います。そこで最も芳しい戦績を残した国が地方の支配権を(一定期間)得る、これがコンクエストの概要です。
 冒険者はモンスターに勝つとポイントを大きく稼げますが、敗れて戦闘不能になると、逆にポイントを大きく失ってしまいます。3国の冒険者たちが揃って目覚しい戦績を残せなかった場合――すなわち死にまくった場合――相対的に獣人の支配力が強まります。もしコンクエスト集計後、3国の戦績を獣人勢力が上回っていると、その地方は次回の集計まで獣人支配となります。
 獣人支配となったエリアでは、シグネットをかけていてもクリスタルが入手できません。また、コンクエスト中継地(アウトポスト)から警備兵が撤退してしまうので、ホームポイントの設定、シグネットのかけ直し、アイテムの売買などのサービスが受けられなくなってしまいます。

注4
 「魔力の泉」は黒魔道士が最初から持っているジョブアビリティで、制限時間内にMPを消費しないで黒魔法を使うことが出来ます。一度使うと実時間で2時間が経過するまで使用できません。


(03.07.28)
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