その155

キルトログ、第二の鍵を入手する

 ある水曜日のこと、私は森の区にいて、タロンギに出発する準備をしていた。

 どうせしばらく鍛錬が続くのだから、峡谷で野宿すればいいものを、と思われるかもしれない。なぜわざわざ国まで戻るのか? 気分の問題である。正直な話、あの埃っぽい場所にあまり長く留まりたくはない。できればモグハウスのベッドで快適な起床をしたいという、ただそれだけの単純な話なのだ。

 森の区にLeeshaがいたので、接触をはかった。私の方から話しかけるのは珍しい(たいてい連絡はいつも彼女の方から入る)。Leeshaは、Kiltrogさんお暇ですか、ギデアスへ宝箱の鍵でも取りにいきませんか、と私を誘う。これから狩りにでも出かけようかと思っていたが、時間的に遅く、メンバーが見つかる見込みも薄いだろうと考えて、彼女と一緒にギデアスへ向かうことにした(注1)


 ミンダルシア大陸の南海に浮かぶミスラの故郷、エルシモ島。ここのカザムという町にジュノから飛空挺が飛んでいる。パルブロ鉱山、ゲルスバ野営陣、ギデアスにある宝箱の鍵を収集し、飛空挺会社の係員に渡せば、カザム行きのパスポートが発行される。先日、Chrysalisらの協力により、パルブロ鉱山の鍵入手には成功した(彼の魂に安らぎあれ!)。今度はギデアスである。みごと獣人都市の箱のカギを入手して戻れば、また一歩ミスラたちの故郷へ近づけるのだ。

 私たちはチョコボに乗って同地を目指した。行きがけにLeeshaは、エクストラ・ジョブのうちでは、何になりたいと思うか、と私に尋ねた。エクストラ・ジョブというのは、条件を満たすことで就くことが出来る冒険者の職業である(具体的には、ナイト、獣使い、狩人、吟遊詩人、暗黒騎士、侍、忍者、竜騎士、召還士の9つのジョブをさす。これらに就くためにはそれぞれ特別な試練が必要とされるのだ)。

 正直な話、私には全然ぴんと来なかったので、戦士とモンクで十分であると答えた。Leeshaはなるほど、と頷いたが、私の答えに満足したのかどうかはわからない。ナイトなんか似合うと思うんですが、とは彼女の弁だが、Greenmarsには詩人になってほしい、と言われたことがある。ジョブの選択はすなわち冒険者の生き方の選択だが、私は職業には自分で驚くほど執着心がない。世界の秘密をいろいろ見て考えることが出来れば、鎧とローブのどちらを着てようが全然構わない。だいいち私はそう器用ではないので、複数のジョブを使いこなすのはきっと難しいだろう、などと感じている。


 私たちはギデアス奥地へ向かった。徐々に風景の宗教色が強まってくる。木の幹を前にLeeshaが立ち止まり、赤いマークをさして「うーん、やはり翼なんでしょうかね」と言う。あるいは植物を意味しているのだろうと答えると、それは私も考えました、と、彼女は笑って言うのだった。

 私が訪れたこともないような深い位置に来ると、泥を固めたドームのような建物があって、中にヤグードの祭祀が一匹頑張っていた。通路がドームを抜けて奥へ続いている。倒して内部を見渡してみた。椀を伏せたように壁が薄く、丸い。ヤグードは爪と嘴で住居を掘るのだというが、もしこれを奴らが自力で作ったのなら、どうしてどうして大した器用さである。

 ドームを抜けた通路の先は長方形の大きな広場になっていた。何か儀礼的な建物があるかと期待したが、例の赤いマークが施された裸子植物が乱立しているばかりである。これには少々失望した。

 問題のカギは実にあっさりと出た。それもほんの2戦目のことである。私もたいした強さなので戦闘自体あまり起こらないのだが、最奥地周辺のヤグードは、28レベルの戦士相手でも勝負を挑んでいく根性を持っていた。そうした連中の一匹がちゃりんとカギを落とした。そういうわけで、用事はあっけなく済んでしまったのだが、このまま帰るのも素っ気ない話である。

 単純に「ギデアスの奥」といっても、終点は二つあった。私の今いる広場と、東にもう一つ。細い通路が伸びていく先は地図では確認できない。どうせだからそっちを見てみることにした。道はずっと手前から分岐しており、互いに交錯する部分がないので、かなりの大回りを強いられることになったが・・・。


 先刻見たのと同じ光景が眼前に広がった。灰色のドームとヤグード。一つ違っていたのは、死体となって横たわるその獣人の枕元に、紛れもない宝箱が鎮座していたことだ。Leeshaがあっと声を上げた。私の手元にはカギがある。これは本来この箱を開くためのものなのだが、特別な指令により、本来の用途を無視してジュノへ持ち帰らねばならない。

 開けてみようかな、と冗談を言うとLeeshaはひどく慌てた。本当にやりかねないと思ったのかもしれない。私たちは後ろ髪をひかれる思いで通路の先へ向かった。


魔法陣(バーニングサークル)と塔

 両脇に松明が立ち並ぶ通路の終点は、炎のように燃え盛る魔法陣だった。禍々しい黒い塔が傍らに立ち、鉤爪で大空を掴んでいる。その腹にはマグマのように明滅する獣人軍のしるしがあった。闇の魔王の配下どもが作った異空間への入り口に違いない(注2)

 冒険者の一団が私の傍らを駆け抜けて、魔法陣の前に集合した。どうやら戦いに臨むところらしい。すぐに飛び込まないところを見ると、慎重に作戦を練り、互いの役割を確認しているのだろう。Leeshaは彼らに声援をおくり、来た道を引き戻った。ドームにさしかかったときに、あれっと彼女が声を漏らした。宝箱が消えている! きっとさっきの一団が開けていったのだろう(注3)。人間とは勝手なもので、なまじ目に見える富を発見すると、単に最初にそれを見出しただけなのにもかかわらず、所有権を得たような気になるものだ。むろん彼らに何の非もあろうはずがないのだが、なまじ何が入っていたのかわからないだけに、変に私たちには口惜しい感じが残るのであった。

 
 さてギデアスに留まる理由はこれ以上ない。私は入り口目指して駆け出したが、突然に世界が回り始めた。また例の眩暈か、などと思っていたら様子が違う。足が言うことをきかなくなった。木の幹に身体をぶつけた。身体がくるくると横に回った。目も回った。とたん世界が暗転した――何か世界に異常が起こったのだな、と感じた瞬間、私は気を失って地面に倒れ伏した(注4)

注1
 サーチ機能を使って、ログインしている自分と同じレベル帯の白魔道士を探します。既にパーティに加わっているプレイヤーの名は水色で表記されますが、もし結果が水色一色であった場合、「白魔道士の空きがない=パーティが新規に結成される可能性が少ない」という結論を導くことが出来ます(回復魔法のエキスパートである白魔道士は、パーティに必ず一人以上誘われるほど重要なジョブなので、彼らがフリーであればあるだけ、新しく前衛職が雇用される可能性が高くなることを意味します)。
 従って、サーチの結果の結果を見ることで、誘いの声を待つべきか、それとも別のことをするべきか、という目安を得ることが出来るのです。

注2
 その122において、Kiltrogは自分の所属国であるウィンダス以外の2国を巡るよう命令を受けました。この「三大強国」というミッションでは、全ての冒険者が残り2国を訪ね、最後に訪れた国でドラゴンと対戦します。従って、もしサンドリア、バストゥーク出身のプレイヤーが、最後にウィンダスを訪問した場合、この魔法陣の中でドラゴンと戦わなくてはならないのです(魔法陣は燃えているので、バーニング・サークル、通称BCと呼ばれます)。
 魔法陣は何もドラゴンとの戦いの舞台のみではありません。あらゆるモンスターが落とす「獣人印章」を集め、それが一定数を越えると、ムーンオーブあるいはスターオーブと交換して貰うことが出来ます。このオーブの中にいる強力な魔物との戦闘も、BCで行います。本文中の冒険者一行はムーンオーブを開きに来たパーティのようです(Leesha推測)。

注3
 シーフツールリビングキーなどがあれば、シーフはカギ無しでも宝箱を開けることが出来ますが、失敗するとステータス異常(毒、呪い他)などのペナルティを食らいます。シーフのレベルが高ければ高いほど成功の確率は大きくなります(ただし、ペナルティの負荷もそれにつれて増大します)。

注4
 サーバー側の異常により、ログインしていたキャラクターの殆どがダウンしたもよう。


(03.07.31)
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