その165

キルトログ、空の旅をする

 私はジュノ港地下のカザム乗り場入り口にいた。係員のガルカは、三本の鍵が偽物でないことが判明次第、飛空艇パスを発行するという。さぞかし待たされるだろうと思いきや、検査は簡単簡潔で、私は無事にパスを手にして地上に戻った。後はただ旅立ちの時刻を待つばかりである。

 
 カザムへはApricotとMyuaが同行してくれることになっていた。彼女たちは既に飛空艇で同地を訪れたことがあるが、村を隅々まで見て回ることはしていないという。一方私はカザムに行ったこともなければ空の旅も初めてだ。いきおい期待が募るのだが、待ち合わせの時刻が過ぎても、Apricotが姿を現さないのだった。何か問題があったのかと私は心配になった。例えば日時の伝え方が悪かったか――あるいは、彼女が何らかの事情で遅れているのか?

 あらかじめ予告をしていたこともあり、カザム行き乗り場前には、何人かの友人が送迎に来た。中でも前日に思い立って(注1)、はるばるバストゥークから、戦士レベルがわずか5であるにもかかわらず、パシュハウ沼やロランベリー耕地を単独突破して現れた、エルヴァーンのBorg(ボーグ)には頭が下がる。残念ながら彼がしてくれたことに報いるものは、私には何もないのであるが……。

 Apricotが現れたとき約束の刻限は大幅に過ぎていた。彼女はあらかじめ、用事が押すかもしれないので、時間以内に現れなかったときは、自分を置いて出発してくれ――と伝言していたのであるが、私はすっかりそれを失念していたのだ。だが何はともあれメンバーは揃った。入り口に立っている係員に問いただすと、飛空艇入港の時間が迫っていたので、慌しく友人たちに手を振って、我々は階段を急いで駆け下りた。

 飛空艇に乗るのには200ギルが必要である。料金を払って扉を抜けると、港へ出た。待ち時間を利用して数人の冒険者が釣り糸を垂らしている。ほどなくぶるるんという空気を切り裂く羽音が響き、1隻の飛空艇が水面を滑りながら、ゆっくりと入港してきた。私はさっそくどかどかと乗り込んだ。出発までは若干の余裕があり、何も急ぐ必要はないのであるが、船の内部を一刻もはやく見たかったのである。


飛空艇が入港する

 飛空艇は思ったよりも大規模なものだ。前後部の一対の巨大なプロベラで浮上し、周辺にある補助プロペラで舵を取る。共同の船室はゆったりと広く、壁に簡素な世界地図がかかっている。船客は意外に多く、別の用事でカザムへ向かうIllvestの姿もある。我々を含めて10名ほどだったろうか? 以前に乗ったセルビナ=マウラ間の定期船に劣らぬスケールだ。文字通り「空飛ぶ船」というわけである。

 やがて飛空艇が離陸すると、甲板の立ち入りが許可された。私は階段を上った。頭上を雲がもの凄い勢いで流れ去っていく。空を高速で移動するという条件から、甲板にはとても出られないのではないかと密かに懸念していたが、顔に受ける風は確かに強いけれども、歩き回るのに支障をきたすほどではない。

 甲板からは巨大なプロペラが旋回している様子がはっきりと判る。間近で見ると吸い込まれそうで何だか恐ろしくなる。本来恐ろしいといえばその高さである。眼下に広がる大陸はさながら模型のようだ。しかしながらここまで高度があると、現実離れが過ぎるせいか、あまり怖いという実感が湧かない。時刻が真夜中だったことも関係しているだろう。もののかたちが見えないわけではないけれど、周囲が暗いために、甲板からの絶景を楽しむわけにはいかなかった。これが晴天の日であったらどれほど気持ちいいことだろう!

 逆に満喫したものといえば夜空である。大陸の南にさしかかり、ウィンダスが近くなる頃には、雲のカーテンの向こうに、数々の神獣を模したヴァナ・ディールの星座が、各々はっきりと伺えるのであった。おそらく空気の濃さの関係だろうが、サルタバルタではとりわけ綺麗な星が見られる。文化は環境に育てられるものだ。連邦に住むタルタルたちが、他種族よりも星を尊ぶのは当然のことといえよう。


甲板
海が眼下に広がる

 やがて現地到着のアナウンスが響いた。目新しい光景に我を忘れていたことを差し引いても、時間はほとんど経っていない。私はもの足りないような気分で甲板を下りた。さあ、カザムである。この村でミスラをしっかり観察し、勉強して、種族研究の成果に生かしたいというのが、今回の旅の第一の目的である……。

注1
 ヴァナ・ディール時間。実時間では約1時間前。


(03.09.14)
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