その166

キルトログ、カザムの村を歩く
カザム(Kazham)
 エルシモ島の発端にある漁村。
 400年前に移民したと伝えられているミスラの支族が村民の大半を占め、狩猟や漁猟を生業として暮らしている。
 カザムは自治権を有しており、族長ジャコが開く集会によって、様々な条件が決定されている。
 1時間と少しで飛空艇は高度を落とし、着水した(注1)。木造のゲートがあって、制服を着たガルカ氏が行く手を塞いでいるところなどは、マウラやセルビナの港と何ら変わりない。違うのは全身を包むほっこりと温かい空気である。南国エルシモ島にあるカザムは、緯度的にはラバオと大して違わないが、亜熱帯気候に属しており、色とりどりの珍しい植物が多く茂る。このうちいくつかの種は、移民の際にミスラ族が大陸に持ち込み、品種改良されたと聞く。おそらくApricotの頭上はるかにそびえ立つ巨木が、みずみずしいカザムパインの原木なのであろう。

カザムパインの原木?

 村中のいたるところに植物が群生している。色茶けた高床の渡し通路が続き、土のアーチを越えて、藁葺きの家屋が並ぶ居住地へ繋がる。門前で揺れるかがり火が美しい。花々の原色は、夜のベールに包まれてもなお見目鮮やかだ。ウィンダスの植物もたいがいひねくれているのだが、自己主張の強さは、この土地の木や花の比ではない。何だか森の区の風景が極端に戯化されたかのようだ。共通の印象があるのは当然で、ペリィ・ヴァシャイを長とするミスラ族の一派が、南国で培われた種族文化を大陸に持ち込んだのである。むしろ正確には、ウィンダスの居住地の方が、カザム文化の面影を伝えているのだ。それを水で薄めたととるか洗練ととるかは、実際にどっちで暮らしているかで変わってくるのだろう。


 民家を覗いて回る私の傍らを、毛むくじゃらのかたまりがぽんぽんと跳ね越していく。見ると猿である。びっくりしたようなまるい目と、Apricotに言わせれば、私の身長に届くほどの長い長い尻尾。オポオポ、と馬鹿にしたように鳴く。さる待て、と言って追いかけたが奇態に早い。珍しい動物だから撮影しておきたいのだが、全然じっとしてくれないのだ。空き地に追い込んだが落ち着きがない。私が目線を下げるためうずくまると尻を向ける。うずくまったまま待っていると近くへ来ない。立ち上がると寄ってくる。えいエテ公めが、と格闘する様子を、Apricotはきゃっきゃと笑って眺めていた。この猿は村に数匹見かけたのだが、結局家屋の隅でおとなしく座っている一匹を狙って撮影した。以下がその写真である。

オポオポ

 大陸のミスラはのんびりした性格の者が少なくないが、カザムのミスラは攻撃的でとげとげしい印象を受ける。これは環境の違いによるものだろうか。サルタバルタは穏やかな土地で比較的暮らしやすい。一方でカザムでは、厳しい自然と終始折り合いをつけていかねばならない。思えば周囲のモンスターの強さも全く違うのだ。いきおいカザムミスラは逞しく育ち、大陸の親戚たちを馬鹿にするようになる(それはともかく我々まで軟弱野郎と扱われるのは大いに迷惑である)。

 種族内部のいがみ合いを楽しむほど悪趣味ではないが、二つの立場をかんがみるのは面白い。何だか今まで、理解しているようで理解していなかったミスラ族のイメージが、双方の対比によってくっきりと浮かび上がってくるからだ。

 ミスラは束縛を嫌う自由気ままな種族というイメージがあるが、実情は大きく違う。彼女たちは土地に根ざし、土地の声を聞いてあがめ守る。土地を変えることは人生を変えることだ。従って氏族は、血統ではなく居住地で決まる。ウィンダスならペリィ・ヴァシャイ、カザムなら
ジャコ・ワーコンダロの傘下に入らなくてはならない。

 自由自由と人は言うが、その周囲には人の理(ことわり)があり、天の理がある。ミスラ族は野放図に生きているわけではない。自然という理の中で、自身にどんな役割が課せられているかを知っている。生き物は狩るか狩られるかのいずれかである。彼女たちは狩る側に回るが、理を犯すことはしない。狩られる者があってこその狩人である。その関係は万物を巻き込んで大きな循環を描く。もしミスラに宗教があるとしたら、この天の理こそ信仰の対象である。

 港に布教が進まないと嘆く、サンドリア国教会の修道士がいた。さもありなん。ミスラの思想にアルタナが入り込む余地はひとつしかない。それは循環の中心である。女神が柔手で渦をかき混ぜるのだと信じ込ませることは出来るだろう。だがそれでも彼女たちが信仰になびくとは思えない。ミスラ族は死後楽園に入るよりも、身も心も土に還り、きっと故郷の植物の良き肥やしとなることを願うだろうからだ。

カザムの民家

 村には数々の民家が建っている。地図に記載されている氏族名にミーゴ姓を発見した。ナナー・ミーゴの親戚かもしれないが、家人は寡黙で何も喋ってくれない。泥棒ミスラとの関係はともかく、冒険者があんまり根掘り葉掘り尋ねるので嫌気がさしているのかもしれない。

 そのミーゴ家の近くでLibrossに会った。黒い装束で闇に溶け込んでいたから、見つけた時はなおびっくりした。彼を交えて、この村でも雄ミスラの姿を見ないだの、村民はウィンダス移民を馬鹿にしているだのと話をした。出奔者を心よく思わない気持ちは判るが、あんまり差別意識が露骨なのでApricotもMyuaも閉口している。村民は血の気の多い連中が出て行った、などと言うが、我々に言わせたら、しきりと大陸をこき下ろそうとするカザムの住民の方が、よっぽど短気なように思えるのだ。


 私が猿を撮影している間に、ApricotがLeeshaを発見した。ノマドモーグリが開いている屋台の前に二人がいた。私の姿を見るとLeeshaは「どろん」と言って姿を消す。忍者である彼女はよく透明になって遊ぶ。負けじとLibrossも透明になってみせるから収集がつかない。カザムの村を一通り見て回ったから、我々の用事は済んでいるのだが、これだけ仲間が揃うと、素直に飛空艇で引き返すのが何だか惜しくなる。ひとつカザムの外へ出てみようか? 村の周囲にはユタンガ大森林が広がっている。チョコボも借りられるらしいから安全に観光することは可能だろう。

 我々は皆モーグリを従僕に持っているが、辺境にはモグハウスがないので、彼らの助けを借りることが出来ない。ノマドモーグリは手数料を取ってその代行をする。だから我々のみならず、他の冒険者も屋台へ寄ってくる。中に鮮やかな赤い鎧を着たガルカ氏の姿がある。彼が私の横に並んだものだから、Librossが赤鬼青鬼だと揶揄する。私の着ているチェインメイルはブルーが基調になっているからだ。

 すると赤鬼氏が私に頭を下げてきた。彼の名はSteelbear(スチールベア)といって、聞けばかねてよりの読者氏だという。ところで我々は5人である。私とApricotとMyua、透明のLibrossとLeesha。パーティにはもう一人ぶん空きがある。これからユタンガを見て回るのですが一緒に来ませんか、と誘うと、Steelbearは乗ってきた。彼は詩人に鞍替えして朗々と歌を歌って見せたが、ガルカが詩人をやっているのを見ると少々奇異な感じがする。きっと私自身が音痴で、楽器を引くのは似合わないという先入観があるからだろう。


 徒歩で行くのも乙だが、とLibrossは言う。森の道にはゴブリンが闊歩しているので、大変危険だ、とも。私は素直に忠告を受け入れた。チョコボに跨って村の門を出る。仲間が次々と私に続く。果たして外に待っていたのは何か? 仔細は次回の講釈にて。


注1
 ヴァナ・ディール時間。実時間では約3分。


(03.09.17)
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