その172

キルトログ、オズトロヤ城に侵入する
オズトロヤ城(Catsle Oztroja)
 獣人のヤグード族が、長い時間をかけて岩山を穿って築き上げた城塞。
 内部は非常に複雑な構造となっており、ヤグード教団の者にしかわからない秘密の呪術記号や仕掛けによって、厳しく警備されているらしい。
(ヴァナ・ディール観光ガイドより)
 その日私は遅く起きた。モーグリに命じて装備を検討する。やはり未知の領域に出かける以上、レベルの高い方が適切だろう。ということで、私はチェイン・メイル一式を着、片手斧と盾をぶら下げて外へ出た。太陽は既に南中しつつあった。


 私が頼みにした友人はLibrossとLeeshaで、彼らとは森の区の噴水の前で待ち合わせた。そこへ私の方に手を振って駆けつけてきたタルタル一騎――彼はSenku(センクウ)という。読者氏である。こういうかたちで会うのは初めてだった。今回私はこの三人の力を借りることになる。当ては他にもあり、協力は惜しまぬという仲間も多いが、おおかた都合が合わなかったので、こちらから挨拶をするだけに留めた。中にはRagnarokのように、用事を済ませたらすぐに駆けつける、と言ってくれる人もある。もちろんオズトロヤは破格に危険な場所、私の目的もそれまでに完了しているのが望ましいわけだが、さてそんなに上手くことが運ぶかどうか。

 私がヤグード教団の本拠地、オズトロヤ城へ行くようになったそもそもの理由が、失せ人探しであった。セミ・ラフィーナは私に、口の院院長アジド・マルジドの間諜をするように命じた。彼は単身、獣人の本拠地へ出かけたという。その真意が読めない。彼をこころよく思わぬ者は、それ売国の証明だと手を叩くに違いないが、多少なりとも彼の言動に接した身からすれば、アジド・マルジドは少々考え方が過激であろうとも、やることの筋は通っている。彼の目的は連邦に反旗を翻すことではない。だからこそ余計に真意が読めない。国の要請がどうあろうと、必ず探し出し、胸の内を聞きたい。貴方は何故この恐ろしい獣人の巣窟にやって来たのかと。何しろ中にはギデアスなんかとは比較にもならぬ危険が横溢しているのだ。


オズトロヤ城
 
 オズトロヤ城はタロンギ大峡谷の北、メリファト山地の西端にそびえたつ。私たちはチョコボを下りてその塔の先端を見上げた。もともとあった地形をいかし、ヤグードたちが爪と嘴で丹念に彫り削ったという居城。そこにどのような教義が反映されているのか、我々人間は決して知ることがないだろう。

 門番の目を避けてこっそりと中へ忍び込んだ。3メートルほどの幅の通路がまっすぐ西へ延びている。通路の中央にかがり火が燃えて暗い城内を照らし出している。道はほどなく南北に走る幅広の通路と交差した。ヤグードがうろついている。我々は陰におびき寄せてこいつらを黙らせた。まっすぐ西へ進んだら祭壇に突き当たった。一段低くなったところに大広間がひろがっているが、ここからは下りられそうもない。どうも迂回してくるしかないようである。

祭壇。
ギデアスにあった礼拝の対象(?)と同じモチーフのようだ

 祭壇から引き返し、南北の通路をしばらく辿ると、大広間に回りこめるようだ。我々はそうした。ヤグードとの戦闘は避けたい。今のところ各個撃破に問題はないが、次々と仲間が集まってくると危険だ。厄介なことに城内を飛び回っているコウモリも好戦的である。我々は二種の翼あるけだものから身を護らなくてはならない。

 このフロアを南北に抜けていくと、恐ろしくヤグードどもが強くなるという。Librossの弁である。どちらへ向かうか腹は決まった。西へ向かうのだ。院長の居場所の手がかりは全然ない。ならば安全な方を先に探すべきだ。自分から虎の口に頭を突っ込む馬鹿はいない。もし最終的にそうする羽目になっても、勇気を奮い起こすのは、それが必要であると判ってからで十分だ。

 途中Senkuが絡まれたのには肝を冷やしたが、我々は敵を速やかに片付け、大広間を突っ切って北壁に達した。西壁から通路が延びている。ヤグードの衛兵が二匹、入り口で頑張っている。おびきよせて一匹ずつ葬ると奥へ向かった。ほどなく通路は大扉にぶつかって行き止まりとなった。両開きだが取っ手はない。扉同士の噛み合い方からして、左右に滑るタイプのようだ。だとしたら何かスイッチがあるのだろう。そもそもオズトロヤ城は、ヤグード教団の秘密の仕掛けで何重にも護られているそうではないか。

 大扉の両脇に筍のような石柱が生えており、レバーがせり出していた。おそらくこれを回すのだろう。レバーは地面と水平に動くようだった。右にか、左にか? 逆に回したら、何か罠が作動しはしないか、と私は逡巡した。その間に別の冒険者がやって来た。彼は迷うことなくレバーを動かす。ごごご、と石をひきずるような音がして、扉が重々しく開いた。そして扉の前の地面に、ぽっかりと黒い穴が開いた。

 私は穴に落ちた。

 一瞬、何があったのか判らなかった。頭上を見上げて合点がいった。落とし穴とは姑息な。鳥頭どもは確かギデアスにも同じ罠を施していたな。私はそちらでも仕掛けに引っかかったことを思い出した。苦々しく笑った。

 周囲を見回した。岩で囲まれた小さな部屋だった。出口は見えない。だが何処かに抜け道がある筈だ。見つかった。床に円形のくぼみがあって、手を差し込むと下水管の蓋のように持ち上がった。何とかして仲間に合流しなくてはならない。私は迷わずその下へ飛び降りた。どのみち選択の余地はなかったわけであるが、今考えてみたら、仲間が降りてきてくれるのを待っていた方がずっと賢明だった。


 落ちたのはおかしな場所だった。長い長い、ゆるやかな上り階段が北へ続いている。それだけである。私の出来ることは限られていた。これが脱出口に繋がると信じることと、階段を上ることの二つ。だからそうした。階段の途中にヤグードと蝙蝠の姿が見えた。しかしあと私に残されている権利といえば、せいぜい女神に祈ることくらいだった。

 案の定私は見つかった。ヤグードは嬉々として反身の刀を振り下ろしてきた。職位の高低はあるが、この手のタイプの鳥人は、異教徒を痛める残忍な役職だと私は知っていた。こいつの身分は高いだろうか? 高そうだった。それはすなわち強いということを意味する。せめて互角程度の実力であって欲しい、という私の願いはもろくも費えた。それも互角どころか、鎧が紙同然にしか思えないほど、奴の刀の一撃一撃が私を痺れさせるのだ。

 私は逃亡を図ったが、足の速さに自信があるわけではなかった。「とまって!」とLeeshaの声がした。振り返ると階段下に仲間の姿が見える。私と同じルートを辿って追いかけて来たらしい。LibrossとSenkuは勇敢にもヤグード・インクイジターに飛びかかった。勇敢にも、というのは、4人がかりでも事態はあまり変わらなかったからだ。しかも上段にいる、別のヤグードが下りてきていた。一匹でも大変なのに二匹に勝てるわけがない。そんな我々をあざ笑うように、私の周辺をコウモリが飛び回り、ときどき思いついたように私の傷から血をすすっていた。


 後でLibrossは言うのだった。
「まさかもう一匹が下りてくるとは……」
「強いね」と私。
「あの脱出口は(そうだと確かめたわけではないが)いつもあんなに危険なの?」
「レベルが上がっても、インビジとスニークは必須ですよ」

 ヤグードは目で敵を認知する。コウモリは耳を使う。魔法で姿を消し、足音を消してしまったら、奴らに見つかることはない。この方法で大広間を一息に突っ切り、大扉の前に到着するのは後の話である。このとき我々は絶体絶命だった。本気で死を覚悟した。Librossがエスケプを唱えなければ、仲良く階段に屍をさらしていたことだろう。


城内の大広間。
灯明台には例の翼じみたマークが刻まれている

 そういうわけで、我々は脱出した。なぜオズトロヤ城の前にいるのか? 私の頭は一瞬混乱したが、確かダボイで危機に陥ったとき、この魔法で難を逃れたことを思い出した。

「狂信者どもめ」とLibrossは忌々しそうに言った。酷い怪我を負った私は座り込んでいた。我が友人どのはどうか知らないが、少なくとも宗教へののめり込み具合は、エルヴァーンだって割と極端なはずだ。そう考えるとおかしかった。そしてふと、もしサンドリアを攻めているのが、オークではなくヤグードだったとしたら、対立は宗教戦争の色合いを帯びて、もっと血みどろになっていたかもしれないな、などと考えた。

 我々が回復している間に、大勢の冒険者たちが、オズトロヤ城入り口に集結してきた。みな仲間のようだった。彼らの目的は何だろうと、LibrossとLeeshaが憶測を始めた。私は群れの中に知人の姿を見つけて、手を振った。読者氏の一人だ。その人に思いがけず熱く激励された。「ああ応援を受けると力が出ますね」と誰かが言う。そうである。私は躓いた。気分が萎えそうになってはいるが、転んだら起き上がればいいのだし、どのみち起き上がるより他に術はない。

 幸い一命は取りとめた。さっきの場所にも簡単に到着できる。今度こそ例の扉を抜けて、向こうに待っている筈の院長から、ことの真相をすべて聞き出すのだ。


(030930)
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