その174 キルトログ、メリファト山地の石碑を写す 薄暗い獣人の巣窟から脱出し、山地の風をあびると、心地よい気分になり、アアと背伸びをした。時刻は夕刻。忌々しくも太陽はオズトロヤ城の方に沈んでおり、夕焼けを美しいと言うならば、その方角へ向かって感嘆せねばならない。私は何か気の利いた皮肉を言ってやろうとしたが、何も思いつかなかったので黙っていた。 私たちは帰路についた。東に伸びるドロガロガの背骨を辿る。チョコボは帰してしまった。最寄りの厩舎はタロンギ大峡谷のメアの岩にあるから、せめてそこまでは徒歩で行かなければならない。 メリファト山地という場所は、オズトロヤ城へ潜入する場合を別にすれば、主にタロンギ大峡谷とソロムグ原野を繋ぐ、一つの通過地点としか認知されていない。ここで狩りを行う者は皆無である。街道沿いにはごく限られたモンスターが散見するばかりだ。実は生息数が少ないのではなく、山地を東西に分断するドロガロガの背骨の南側、地図にGalesmouthと表記されている盆地に集中している。危険なのでみんな近づかないし、街道から隔離されているため、取り立てて近づかなくても問題のない場所だ。鍛錬をしようとするなら他に理想的な場所がいっぱいある。だから余計に冒険者が近づかないというわけだ。 ところで、読者諸氏は忘れておられるかもしれないが、私はセルビナの町長に頼まれて、偉大なグィンハム・アイアンハートの石碑文を写して回っているのだった。メリファト山地はまだである。以前ここを旅した際に北の方は探索している。石碑が立っているなら盆地内にある可能性が高い。そう口にしたら、どうせだから写しに行きましょう、とLeeshaが言った。このままお別れするのでは少し名残惜しいな、と考えていた私は言葉に甘えた。盆地にはソロムグ原野で見かけた獣の一派――クアールやアクス・ビィク、ラプトルなどがひしめいている筈だ。一人では予断を許さないが、このレベルの四人ならまず安全だろう。
何の幸先か、オズトロヤ城の近くにクアールが一頭迷い込んできた。長いひげを生やした豹の眷属である。我々はこれを仕留めて気勢を上げた。Leeshaが「にくーー」と言う。本当にクアールの肉が採れた。彼女は料理人だから肉をつけた動物にはことさら手厳しい。 骨の南側に回りこみ、崖の上から盆地を眺めた。タロンギ大峡谷と何ら変わらぬ光景である。違うのは、細かく地面に断層が走っており、段差が生じている点だろうか。それがこの盆地をちょっとした迷路のようなものにしている。Librossが前知識もなくここへ迷い込んで散々な目にあったという。ただし段差は彼の味方をして、すばしこいラプトルに追いかけられたときなどに重宝したそうだ。 小高くなった崖の上にアクス・ビィクの姿を見かけた。鶏の頭にトカゲの身体を持つ、コカトリス属の生き物である。戯れに魔法をかけたら、射程距離内にいたとみえて、段差を迂回して襲ってくる。これを難なく倒した。Leeshaが「にくーー」と言う。コカトリスの肉が出る。彼女は料理人だから肉をつけた動物にはことさら手厳しい。思えば蟹、羊、豹、魚、ダルメルなど、標的は多岐にわたる。彼女の獲物哲学に反するのは獣人だ。何しろ奴らは煮ても焼いても食えないのだから。 「肉狩り」をしながら我々は南へ進んだ。この盆地には、私が想像していたほどモンスターが密集しているわけではなさそうだ。というのは、ラプトルなんか一匹を見ただけだから。私はたちまちのうちに数匹に囲まれて、ばらばらに引き裂かれてしまうだろうとばかり思っていたのだ。 もう少しで石碑に到着しようか、というころ、白い鎧を着た髭のヒュームを見かけた。Ragnarokだった。「高い!」開口一番彼が言った。何でもタロンギ大峡谷にあるチョコボ厩舎の料金が1000ギルはしたという。結局彼はその大金を払ってまで私のところへ駆けつけてくれたのだった。 石碑が見つかった。人目を避けるように崖下に立っている。碑文にはたいてい図が併記されている。今回それは両岸を渡す橋のように見えたが、Senkuが背骨の絵ですね、と言った。さもありなん。
料金が高すぎるという理由で、我々はチョコボへは乗らないことにした。Senkuはメアの岩のところまででいいと言う。私は今日の礼を述べて彼と別れた。残された我々は駆け足でウィンダスへの帰路についた。 連邦に入る直前、Ragnarokが「戦士を続けたくなる」ちょっとした余技を見せてくれた。ランページという片手斧の必殺技である。マンドラゴラをおびきよせ、実験台にする。右に左に斧で二度ずつはたき、最後に振りかぶった一撃を脳天に叩き落す。やられた方こそ哀れなものである。それなら、とLibrossが熱意を示す。自分もモンクを続けたくなる技がある。しかし彼はいま黒魔道士なので、折角の必殺技のお披露目も、また次の機会ということになった。
(031002)
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