その175

キルトログ、セミ・ラフィーナに顛末を話す

 我々は無事にウィンダスへ到着した。任務完了の旨をセミ・ラフイーナに伝えねばならぬ。こういうのは忘れないうちにやっておいた方がいい。竜退治のときのように報告が遅れるのは私の方から願い下げだ。

 とはいえ仲間に何をしにいくと説明は出来ない。そこで天の塔に用事があるのだが、とだけ言った。すると彼らは口々に、あすこは荘厳な雰囲気で心落ち着く場所だ、と褒め称える。LeeshaとLibrossはサンドリア人、Ragnarokはバストゥーク人である。サンドリアにも教会があるではないか、と私が言うと、二人は困った顔をし、口を濁すのだった。彼らは同国人なので、おそらく「聖地」の世俗的な部分もたっぷり見てきたに違いない。


 天気は快晴、先刻のように褒められた後だと、心なしか星の大樹がいつもより堂々としているように思える。ミスラの扇動家の側を通って中へ入った。天の塔は1階と地下1階なら外国人にも開放されている。

 用事を済ませて来る間、ごゆるりと過ごされよ、と私は言って、受付の部屋に入り、上階に繋がる扉を開いた。内壁に沿ってカーブを描く階段を上りながら、眼下に友人たちの姿が見えたので、手を振った。侍女の部屋を通り越してさっさと三階に向かう。この辺を無駄にうろついてなどいると、またぞろズババ様に説教を食らいそうだと危惧したからだ。


侍女長ズババ(右)
天文泉
天井には星座が描かれている
 
 このあいだ口の院院長に吹き飛ばされたミスラ二人が歩哨についていた。身体が痺れているが手加減されたんだ、と一人が言う。もう一人は、赤子のようにあしらわれたのは屈辱だが、セミ・ラフィーナ様が本気でかかれば決着はわからない、と上司を持ち上げる。それはおそらく本当だろう。何しろ二人は武と魔の面でウィンダス有数の実力者同士であるのだ。

 そのセミ・ラフィーナに会いに来たのだが、と奥に立っているミスラと話したら、彼女はいま留守だという返事がある。丁度そこに階段を上ってくる問題の要人の姿が見えた。「待たせたなKiltrog」とセミ・ラフィーナは言った。「さあ、話をきかせてもらおう」

 彼女は右の拳を心臓に当てていた。努めて気を落ち着けているように見える。「そう」話が一段落すると、彼女はかぶりを振った。「アジド・マルジドはオズトロヤ城まで行ったのか。ヤグード王に会うためとは……どこまでウィンダスの法を乱せば気が済むのか」

 私は――不本意ながら――セミ・ラフィーナとアジド・マルジド両人に接し、立場上の苦悩を知っているわけだが、ここに到って、その溝が思いがけなく深いことを察した。おそらく彼らが話し合ってお互いを理解する機会は、この先永遠に訪れないだろう。

「お前もご苦労だったな」とセミ・ラフィーナは私をねぎらう。
「このことは星の神子さまにお伝えしよう。次のミッションに備えてゆっくり休め。それにしても、アジド・マルジドには厳重な注意をしなくては……」 

 警備隊長はぶつぶつと言いながら天文泉を立ち去った。私もその後を追った。


 そのあいだ仲間たちは塔の地下にいて、星の大樹の太い根っ子を眺めながら時間を潰していた。戯れに火をつけてやろうか、などと話していたというからとんでもない連中だ。さすがにそれは物騒なのでやめにして、白魔法アクアベールを唱え、苗木たちに水をやっていたという(注1)。「この実は食べられるかな」というのがLeeshaの感想である。彼女は料理人でいろんな食材に興味を示すが、実はそれ以前に単なる食いしん坊なのではないか、と思えてきた。

 私が到着すると、Ragnarokが改まって話があるという。我々は姿勢を正して清聴した。

 個人的用件で長くヴァナ・ディールを離れねばならない、とRagnarokは言った。どのくらい、と聞いたら3ヶ月だという。少なくない期間である。それにあたって、彼は特別な場所で「冬眠」を行おうと目論んだ。そこは未熟な者が立ち入ることさえ難しい。レベル70台のつわものどもならいざ知らず、RagnarokやLibrossでも突破するには冷や汗ものの危険地帯だと。しかし素晴らしい場所です、と彼は太鼓判を押す。彼の口ぶりからすると、ちょうどこの星の大樹のように、荘厳な聖地という印象がする。だとしたら彼は神のふところに抱かれに行くつもりなのだ。

 そういえばLibrossが先日、命がけの冒険をして、脳天から足のつま先まで痺れるような、霊感の溢れる場所へ行ってきた、と語っていた。案の定Ragnarokの言うのもそこで、冒険途中に偶然に見つけた地域を、二人して探索して来たのだという。私を見つけたら拉致をして無理にでも連れていこうという計画だったらしい。残念ながらその時にはモグハウスに篭りっぱなしだったわけだが……。

 さて、私も何かやりたいのはもちろんだが、両人も危険と認めるような場所を、私が踏破できるものだろうか。Librossはこう言う。気ごころの知れた仲間に送られるのも冒険者の本望であると。それに私は、友人たちの力を借りて頻繁に旅をするのだが、たまには客人となるのも一興ではないかと。その言い分が尤もだったので、Ragnarokとの友情の証に、役に立てるかどうかは甚だ疑問ではあるが、力になれるなら喜んで彼を送ろう、と私は言った。


 従って、我々はまた遠い場所へ赴くことになる。目的地は未だ知らされていない。私も数々の土地を訪ねては来たが、今度の旅は、死と背中合わせの、とびきり危険なものになりそうな予感だ。

注1
 アクアベールは、呪文の詠唱が中断される確率を低くする白魔法。噴水が吹き上がったようなエフェクト(画面効果)が出ます。


(03.10.04)
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