その185

キルトログ、バルクルム砂丘の碑文を見つける

 チョコボの免許を取得して以来、その手軽さと便利さ故、連絡船が疎遠になり、港町マウラや、セルビナに立ち寄る機会もめっきり少なくなってしまった。今どきわざわざ両町を訪れるのは、特別な目的のある者ばかりである。例えば私のように、町長に石碑探しを頼まれている冒険者等がそうだ。

 オズトロヤ城探索の帰りに、メリファト山地の碑文を写しとった粘土があった(その174参照)。私はこれをセルビナ町長に届け、1000ギルの報酬を懐に入れたのち、新しい粘土を受け取った。各地を回って碑文を収集していると、果たしてどこの石碑を写し終えたのだかだんだん失念してくる。町長に尋ねると、彼は髭を撫でながら、そういえばバルクルム砂丘はまだだな、とのたまう。砂丘はセルビナのすぐ外である。鍛錬のために何回も訪れているわりには、アイアンハートの石碑は未発見だったのだ。どうせだから外へ出て探すことにする。場所の見当は大体つく。サンドリアからバストゥークへ抜けていく道は何度も通っているが、モニュメントの類を見かけたことは一度も無い。おそらく同じ砂丘でも、セルビナから西側で発見できる可能性が高いだろう。こちらの方向はとんと馴染みがなくて、呪われたサレコウベを求め、グールを追いかけてきたときに少し立ち入ったくらいである。しかも早々に頭蓋骨が見つかったので、そのとき細かい探索をせずすぐに町へと戻ってしまった(その62参照)。


 当時の私は未熟で、砂丘をおっかなびっくり移動しなくてはならなかったが、レベルが30に上がって多少の度胸もついた。ゴブリンどもが軒並み萎縮するほどの強さではないものの、まず一対一で戦って、鼻歌を歌いながら退けられるくらいの実力は十分ある。

 私はセルビナの門を出て、漠然と西を目指した。とうに日は暮れていたが、残雪のような砂が青白く周囲を照らしている。野羊が乏しい草の根を食んでいる。岩石の如き大トカゲがのっさのっさと眼前を横切る。風が吹き抜ける。涙声のような風が。そこに潮騒の響きが混じり、そういえば海岸が近いのだ、と思い出す。夜はボギーの出現が懸念されるが、遠巻きに見た限りでは、鍛錬を重ねる冒険者の一団が砂浜に陣取っており、今まさに厄介な死霊を退治てくれたところだった。それを確認してから私は波打ち際に足を進めた。

 エメラルド色の沖から白い波がさあっと押し寄せて、高足の樹木の根を洗っていく。思ったより波が高い。バルクルム砂丘はザフムルグ海に面しているのだが、セルビナに港があることからも判るように、地形的には引っ込んで湾のようになっている。それでいてこの波の勢いは大したものだ。高足の樹木が密集していなければ、足を取られて沖へさらわれていったかもしれぬ。小さい黄色い魚が根の隙間を縫うように泳いでいるのを見かける。私は浸した足に確かな冷たさを感じながら、魚の綺麗な鱗が夜闇の中で輝くのを見守っている。


黄色い魚

 ところで石碑探しだが、あてもなく海岸へ足を運んだにしては、すぐさま糸口が見つかった。洞窟が西の岸壁に口を開けている。私の経験からして、石碑が洞窟の奥にあることは珍しくない。例えばタロンギ大峡谷、北グスタベルグの滝の裏など。むしろ潮風の強い砂丘においては、石碑の風化を避けるために、洞窟の中に建てられていると考える方が自然なのではないか。

海岸に口を開ける洞窟

 長靴に入った水に不快感を覚えながら洞窟に入った。中からさまよい出てきた一羽のコウモリが、飢えた牙を私の喉につき立てようと、羽根音も荒々しく襲い掛かってきた。私は斧を振るってこれを難なく撃退した。ぼろ布のように破れた翼を踏みつけて奥へ進む。思ったとおり洞窟はほどなく行き止まりになり、見覚えのある石碑がおもてを向けている。少し苔がついているのは、天井まで水位が上がったことがあるからだろうか。仔細に調べたが表面の文字は全く損なわれていない。ただし段差があるので間近で見るのは辛く、刻まれた絵も海岸線ではないかと、文の内容から察するより他に仕方がない。

バルクルム砂丘の石碑

 風光明媚だが、生命にとっては過酷な環境であることを、這いつくばる草が物語っている。船を拒む遠浅の海。果てなく続く砂、砂、砂……。

 海水浴以外、利用価値は無さそうな場所だった。

 しかし、遊泳中に足がつった少女を助けたところ、その御礼にと、彼女はある驚くべき場所へと導いてくれた。

 イルカを見せるために彼女が案内してくれたのは、天然の良港として最適の小さな入り江だったのだ。

 結局イルカは現れなかったが、船乗りだった私にとっては、それ以上に大きな収穫だった。

 私は、この入り江に『セルビナ』と名づけた。

 自分の名前が地図に記されると、少女は無邪気に手をたたいて喜んだ。

天晶762年 グィンハム・アイアンハート    

 忘れずに粘土を押し付けて型を取り、外へ出た。早々と夜が明けつつある。冒険者の一団を横目に見ながら北上しようとすると、ヒュームの女性がひとり近寄ってきて、私に向かって手を振るのだった。嗚呼彼女は少女セルビナの再来なのであろうか。果たしてその正体や如何。

(03.10.21)
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