その188

キルトログ、暗黒騎士ザイドに会う

 ツェールン鉱山に篭ってもう2日目になる。朝も夜もなく、私は両手剣を振るい続ける。私の敵は得物だ。足の運び、手のさばき、瑣末な問題に神経を使う。目の前で甲羅を割られ、皮膚を破かれて死んでいく生き物たちは、興味の対象にすらならない。私はさめざめと泣いた。生き物を殺すことではなく、殺すことに何の感慨も覚えなくなった自分が悲しいのだ。


 グンバの話を聞いて私はパルブロ鉱山を目指した。何度も入っているがここには良い思い出がない。坑道の中をくまなく歩くうちにその一つ一つが思い出された。クゥダフに襲われて死んだこと。Daichiと鍛錬に来たこと。鍵を探したこと。開拓者の手がかりを、形見の認識票を探したこと。竜を倒し、闇の王の先鋒をひとまず退けたこと。

 度重なる探索を通じて、内部の構造はすっかり把握してしまったが、ガルカの暗黒騎士の姿を見たことはないし、彼が隠れていそうな場所にも心当たりがない。坑道の隅々を見て回ったが、新たな発見は何もなかった。骨折り損だったかと肩を落として、私は船着場へやって来た。こんこんと湧き出る地下水が流れを作っている。私は船に飛び乗る。6人乗りだが同乗者は一人もいない。ごとんごとんと水車の回る音が背後から聞こえる。私は振り返って、この動力源が何に活かされているのだろうと考える。それからレバーを握って思い切りよく引く。解き放たれた船は私を乗せて、地下の暗闇の中へ滑り込んでいく。予期せぬ事故が起こらなければ、ツェールン鉱山内の柵の前におり立てる筈だ。


後方には水車が

 船は確かに走り出したのだが、私はまだ港にいた。レバーは引かれていないままだった。水車が回っていた。時間が戻ったかのようで私は困惑した。思い出せる限りで先刻と違うのはただ一つ。全身鎧を身にまとったガルカが、背を向けて岸に立っていた。幅の広い大剣をはすに背負っていた。奇妙なことに剣も鎧も漆黒である。

「どうした、暗黒騎士がそんなに珍しいか」

 彼は背中を向けたまま言った。既に私は、彼がザイドに間違いないことを確信していた。ミスリル銃士隊隊長にふさわしい実力を持ちながら、同僚のフォルカーの前から姿を消した、ガルカ族随一の勇士。 

 私はグンバのことを彼に話した。ザイドが振り向き、余計なことをする小僧だと言った。艶々とした兜がされこうべを思わせる。繰り抜かれた穴から覗く両目からは感情が読めなかった。彼は淡々と続けた。ウェライのことは残念だが、皆が健在なら、このままバストゥークを去るとしよう。ところでお前は暗黒騎士の修行に来たのか。確かに多くの戦いを経験してはいるようだが。

「暗黒騎士の剣は業を背負う者の剣」
 またしても「業」だ。私はいささかうんざりした。
「決して先に希望はない。人の悲しみ、憎しみを背負うことを義務づけられた存在……それでも剣を手にしたいというのならば」

 そうしてザイドはまっすぐ私を見据えて、一振りの両手剣を差し出した。錆が浮き、刃がところどころこぼれている。なまくら刀であることは素人目から見ても判ったが、黒鉄鉱で出来ているらしい刀身からして、もしかしたら元々は業物なのかもしれなかった。

「この古びた剣を暗黒の業にて染めてみろ。それを背負う覚悟があるのなら封印を解くことにしよう。 
 私はこれからクゥダフの本拠地ベドーへ向かう。お前の剣が暗黒に染まったなら、また会うこともあるだろうが……」


 ザイドの姿がふっとかき消えたように思った。私は我に返った。ツェールン鉱山の柵の前に立っている。白昼夢ではなかった証拠に、私の右手は、古びたカオスブリンガーをしっかりと握りしめている。私の身体は太陽の光を欲していたが、外へは出なかった。私は坑道を南下して、目の前を飛んでいた蝙蝠にいきなり打ちかかった。蝙蝠はあっけなく死んだ。私は刀身の血をぬぐう間もなく次の獲物を探し始めた。

  
 ツェールン鉱山に篭って3日目になる。両手剣の扱いにも慣れた。ハードスラッシュという技も覚えた。これを使うと奴らは呆気なく死ぬ。一振りで死ぬ。卵を割るようなものだ。だとしたら、殻の下にある筈の魂は何処へ消えるのだろうか。

 4日目が過ぎる。動く者を見かけると、剣を握った手がひとりでに反応する。飽きるということがないが飢えてもおらぬ。私はただ殺す。殺してはまた殺す。

 死体の数は、そろそろ100へ届こうとしている。


(03.10.23)
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