その191

キルトログ、飛空挺に乗り遅れる

 私は久しぶりに失神した。例の突然めまいを起こして意識を失う病である。悪いことに仲間と飛空挺に乗り込む直前に起きたものだから、私はジュノ港の、カザム行き搭乗口に突然、取り残されたままになったのだった。

 私はばつの悪い思いをしながら次の便を待った。ふと傍らを見ると、仲間のエルヴァーンYoung(ヤング)(シーフ30、モンク15レベル)が立っていた。彼は私を見ても何も言おうとしないので、例えば八方に向けてぴんぴんと跳ねた彼の髪が、ファッションなのやら寝ぐせなのやら判然としないように、果たして彼が私同様、飛空挺に乗り遅れたものか、それとも私をわざわざ待っていてくれたのかは判らずじまいだった。それでも二人で待つぶんにはいくらか気が楽だった。彼はシーフの健脚を生かして、たびたび受付係に到着時間を聞きに走り、同じ速さで乗船口へ戻るということをしていた。客は私たちの他に5、6人はいて、水面に釣り糸を垂れて暇を潰していたが、きっとそれがYoungなりの時間の使い方だったのだろう。ほどなくプロペラの回る音が響いて、威風堂々と飛空挺が滑り込んできた。そうして私たちは今度こそ(間違いなく)乗船したのである。

 以前カザムへ行った時には、私は右舷甲板からミンダルシア大陸を見下ろしていたが、今回は趣向を変えようと思って、操縦室への階段を下りていった。それは船底にあって、操縦士はジュノの旗のもと、幅の広い窓の下に広がる大地と大海を眺めながら舵を取るのだった。周囲は奇妙な空図と計器に囲まれている。門外漢が見ても何だかよく判らないのは、飛空挺の操縦士がややこしい専門的知識を必要とすることを物語っている。


 それにしても世界を見下ろしながら運転するのはさぞかし爽快であろう。大空を駆る仕事は一般人には憧れの職業と思われる。だが話しかけてみると、彼の声は存外に無愛想で、もうすぐ到着しますよ、とだけ言う。やがて飛空挺は無事にカザムの港へ降り、私たち二人は仲間たちに合流できたのだった。

飛空挺操縦室

 
我々6人が目指すのは、前回サハギン狩りをした滝裏の洞窟である。先導するのはエルヴァーンのShock(ショック)(赤魔道士29、白14レベル)と、ヒュームのMirei(ミレイ)(赤魔道士29、黒14レベル)である。彼らは何度もこの近郊へ来ているのだが、やはりユタンガの森というのは道がややこしくて、迷路で四苦八苦するという。その言葉通りにたびたび道を間違いながら、我々は見覚えのある滝に到着した。私も既に来ているから迷いがない。獲物は魚とサハギンだというがこれも前回経験している。

 
ヒュームのGral(グラウ)(忍者30、戦士15レベル)が、自分は「紙兵」を使うので、効力が切れたときには敵を引き付けて下さい、と私に言う。以前に説明したと思うが、紙兵はいわば傀儡(くぐつ)であって、忍者は空蝉の術を使って分身を作り出し、相手の攻撃に空を切らせるのだ(その161参照)。これも既知のことだったので私は快くオーケイと言った。ところがいざ戦闘が始まると、久しぶりのパーティ戦ということもあって、妙にばたばたしてしまい、仲間たちに迷惑をかけてしまった。数回戦ったあと、紙兵が尽きた後の挑発について、Gralが念を押してきた。よほど腹に据えかねたのだろう。幸い何戦か重ねることによって、私も前回のノウハウを思い出してきた。少し違うのは立ち位置である。前面に立って敵に直接攻撃を加えるのは、私とGralの役目だが、第三の絡み手であるシーフのYoungは、敵の横にポジションをとって攻撃を加えるのだ。

前衛3人の立ち位置。
Gral(左)と私(中央)が敵を前後で挟み込み、横からYoung(右)が攻撃する

 前にこの滝の裏へ来た時にも、パーティにシーフがいたが、その時とは戦い方が若干違っている。私はシーフ(その時はエルヴァーンのSeresだった)が、不意打ちを命中させることが出来るように、モンスターが彼に対して背中を向けるように配慮する必要があった(その176参照)。これはシーフの不意打ちが、敵の背中――正確には視界の外――から殴りつけて大ダメージを与えるという技だからだ。

 今回組んだYoungもシーフであるが、当時のSeresと大きく違うのはレベルである。Youngは30を越えている。シーフは30レベルになると、だまし討ちという技を覚える。だまし討ちとは、仲間の物陰から攻撃することによって、大ダメージを与えるのだが、敵の怒りをその仲間になすりつけることが出来る技だ。これは一見利己的な技術だ。しかしパーティの大きな武器となる。不意打ちは確かに強力な一撃なのだが、大打撃によって敵の怒りがシーフに向き、装甲の薄い彼・彼女が攻撃対象になる危険性を持つ。モンスターはその時々に応じて、自分にとって一番嫌な奴を標的にする。この対象となるのは、前衛職ならば、挑発――これは要するに「敵を怒らせる技術」だ――の回数と、与えたダメージの累積による。だからシーフが、戦士、ナイト、暗黒騎士、侍、竜騎士などのジョブを差し置いて、敵に大ダメージを与え続けるのは、敵の憎しみを必要以上に募らせるという意味で、たいへん危険なのである。

 一方、だまし討ちではシーフが標的になる危険性が少ない。そして、ここからが重要なのだが、シーフの「不意打ち」と「だまし討ち」は同時に使うことが出来る。今回のパーティを例に説明しよう。

 私とGralが正対して、敵を挟み込んでいるとする。いま敵はGralを攻撃している。私からは敵の背中が見える。Youngは私の背後に位置し、不意打ちとだまし討ちを同時に行う。彼は敵の背中を思い切り殴りつける。この強力な攻撃で、たとえ敵が振り返ったところで、奴さんはシーフのだまし討ちの技術により、実際には私の背後にいるYoungの責であるにもかかわらず、攻撃手が私だと勘違いしてしまう。

 従って、現在の戦術においては、シーフが攻撃に加わる場合、不意打ちとだまし討ちを同時に実行して、打撃の効率をよくするのが一般的である。彼は遊軍として二人の前衛の陰から敵を襲うのだ。そういう場合シーフは、どちらの背中にもすぐ回り込む準備をしていなくてはならない。Youngが我々の隣りに陣取っているのは以上のためである。ただしもう一つ理由があって、これは更に一段階上の戦術なのだが、たとえ味方の背後からでなくとも、モンスターの横面には――さすがに少々条件はシビアらしいが――不意打ちとだまし討ちを同時に行えるポイントが存在するらしいのだ。だから彼は再三これを試みていた。失敗することもあったが報いられることもあり、そういう時には、さしもの怪魚マカラも、我々の連携攻撃で瀕死状態に陥るのだった。これまた回を増すごとにチームワークがこなれてきて、我々は効率よく狩りを続けることが出来たのだった。


 順風万帆のような今回の鍛錬だが、それでも何も問題がなかったわけではない。獲物を探しに出かけたGralとYoungが、それぞれ別の敵を引っ張ってきてしまうという初歩的なミスもあった。おかげで後衛のヒュームWizuha(ウィズハ)(白魔道士28、赤14レベル)が巻き込まれて、犠牲になってしまった。我々はこれを戒めとした。私にしても、そういう時は臨機応変に立ち働いて、魔道士を襲っている敵を(優先的に)挑発で引き付けなくてはならなかったのだ。むろん多少の不可抗力はあるだろうが、反省をして気を引き締めるのは何も悪いことではない。結局他のパーティから、タルタルの白魔道士さんに来てもらって、レイズで蘇らせて貰ったから事なきを得た。狩りは効率がよくて――だからこそ30レベル前後の者はこぞってここに押しかけるわけだが――みんなひとつずつレベルが上がった。私も31レベルになった。それはWizhaも同じだったので、彼女に対して罪悪感を感じた我々も少し救われたような気になったのだった。


Wizhaが無残にも犠牲に……

(03.11.03)
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